第二十章 呪の神に悲しみの涙を。
「そん、な......」
俺は自分の震える声が聴こえなかった。
けど、もう遅い。
吹き飛ばされたローズは力尽き、血まみれになっていた。
俺はガブリエルの事など忘れて駆け寄る。
「ローズ! 今助けてやる!」
まだ命はあった。体が強化されていて、ギリギリ持ちこたえたのだろう。
だけど。
「何言ってんのよレイラ。あなた魔法使えないんでしょ? あなたに私を助ける事はできないわ」
「そんなッ......!!」
ローズはぽつり、ぽつりと呟くように言った。
「後は、任せたわよ......あの天使を絶対に......倒して......」
私は、誰かを助けられたのかな。
彼女は最後に力なく言った。
「何言ってんだよ、俺やポニーテールちゃんを助けてくれただろうがッ......」
ふざけてんじゃねぇよ!!
こんな所でっ、偽者の俺なんかのために死んでんじゃねぇよッッッ!!!
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁァァァァァァァァァ!!!」
クソが......。お前はちゃんと助けてんだよ......。
お前のおかげで、少なくとも俺は生きてるんだよ......。
だから。
後は、任せてくれ。
「レイラ王子」
いつの間にか傍にレイチェルが立っていた。
彼女の瞳は今までにない光を放っている。
「大丈夫なのか?」
「大丈夫だからここに立ってるんです」
なぁ天使。
お前らは絶対に間違ってる。
だから、俺は。自分を呪ってでもお前をぶっ飛ばす!!
さぁ、一昨日の続きを始めるぞ!
「ガブリエル!!」
俺とレイチェルは『空間移動』で天使の背後に飛ぶ。
狙うは翼の付け根。
俺はナイフを投擲した。
「ハッ!誰が来ようが一緒なんだよ!!」
ガキィンと、その翼で弾かれてしまう。
「神の意志を伝えてやろう」
神の力が再び現れる。
特殊魔法 神の真意
「あああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
だけどもう、怯まない!
視ればわかる。力の軌道さえわかれば、避けれない事はない!
直後、莫大な力の塊が炸裂した。
「当たらねぇよ!!」
「チッ、クソ王子が!!」
ナイフを二本。
両手の振るい、ガブリエルに斬りかかる。
勿論向こうも黙っちゃいない。
その天使の翼を直接振るう。
だけどこっちには、レイチェルがいる!
「『空間移動』かっ!」
ガブリエルの攻撃は当たらない!
「舐めてんじゃねぇぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
神の力が光の矢となって、雨のように降り注ぐ。
「甘いのはどっちだ!」
空中へ『空間移動』。
天使の攻撃を避けまくる。
ローズは皆を助けた。なら俺だって、ここで死ぬ訳にはいかない!
「クソが」
ガブリエルの表情が変わった。
焦りの表情、ではない。
狡猾な笑み。
ガブリエルはまだ笑っていた。
「これで本気だとか思ってんのか?」
視る。何かが来る!
水流魔法 コスト7 『激流王』
「コスト7!?」
混沌の龍が、現れた。
その龍は水を司る神のような。
「グギョオアァァァァァァァァァァァァァ!!」
轟く龍の咆哮。巻き起こる烈風。
俺たちはまた吹き飛ばされてしまう。
「いいか、クソ王子」
龍がこちらを睨んでいる。
こんなの威圧なんてモンじゃない!
「この世界にはなぁ、絶対に越えられない壁ってのがあんだよ」
激流の神によって破壊が巻き起こる。
何もかもが壊れていく。
辺り一帯の建物は全て水に呑まれて消えてしまう。
「がはっ!」
「大丈夫ですか!」
俺はレイチェルに引き上げられた。レイチェルはローズを抱き上げていて、結構無理な状態だ。
だがまだ『激流王』は止まらない。
「オマエはこの壁は絶対に越えられねぇ!!」
コスト7という壁。
神をも呼び出すその力は、ある意味神を超越しているのかもしれない。
だけど。
ここで死ぬのは許されない。
「ああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁァァァァァァァァァァァ!!!!」
絶叫し、『激流王』の猛攻を必死に回避する。『空間移動』する。
「チィッ!!」
▼▼
ただただ避けては攻撃し、攻撃しては避ける、その繰り返しだった。
だが、限界はこちら側が先だった。
「......!?」
「どうしたレイチェル!」
まさか。
精霊力が尽きたのか!?
「ダメです!もう飛べません!!」
やっぱりか!
その瞬間、一瞬だけ気を逸らしてしまった。
「......しまった!?」
俺とレイチェルは激流に呑みこまれた。
「がっ......!?」
これは......さすがにヤバいかもな......。
意識が薄らいでいくのがわかる。
この事さえわからなくなった時、俺は死ぬのだろうか。
もう、何の音も聴こえなかった。
激流が流れる轟音も聴こえない。
「何をしているのだ、少年」
突然の事だった。
荒れ狂っていた激流が、消滅した。
止まったのではない。流れている水もろとも消えたのだ。
俺はそのまま地面に落ちた。
向こうにはガブリエルがいた。
そしてもう一人、紫色の装束を着た、女がいた。
「何をしているのだ、少年。早くレイチェルとローズを助けるのだ」
何が起こった!?
あの女は一体何なんだ?
「我の名はアルカスト。呪を司りし神だ」
アルカスト。
まさか、本当に神様が現れたって言うのか!?
「少年、何をしている!」
「は、はい!」
俺は急いでレイチェルの下へと向かった。
レイチェルはあの激流に流されてもなお、ローズの亡骸を抱えていた。
「おい!レイチェル、大丈夫か!」
「......」
返事はない。
俺は彼女の胸に手を置く。
むにゅ、という感触がしたが、今はそれどころではない。
どうやら意識を失っているようだが、命に別状はないようだ。
俺はひとまず胸をなでおろした。
「オマエ、何者だ?」
さすがのガブリエルも突然の闖入者には驚いたようだ。
「言っただろう? 我の名はアルカスト。ぬしらの言うところの、神だ」
「んなデタラメな事信じれるとでも思ってんのか?」
「ふん、何もぬしに我を信じろなどとは言っておらん。だが、」
アルカスト。『聖呪の苗木』が頼り、信じてきた呪の神は言う。
「我が救うのは、我を信じる者だけだぞ?」
「......そォかい」
直後、二つの神の力が激突した。
神の意志を伝える者、ガブリエル。
呪い、呪われし神、アルカスト。
「ちぃっ! 少年! 我がこの世にいられる時間は少ないぞ! 限界までは耐えてやる、それまでに考えるのだ!」
「考えるって何を!」
「決まっているだろう! こやつを退ける方法だ!」
ガブリエルとアルカストはまさに拮抗状態。
天使が放った神の力を、呪の神が呪術で縛っている。
「なんで、『聖呪の苗木』でもない俺のために戦ってくれるんだ!?」
「それを今訊くかの!? 我にも大切な者たちを失う事に対する悲しみくらいはあるのだ! それに、レイチェルは我の立派な信者だ!」
アルカストが時間を稼いでくれている。彼女が消えるまでに何とか打開策を考えないと!
「舐めてんのかぁ、クソ王子ぃぃぃぃ!!」
再び『激流王』が現れた。
激流が、全てを洗い流そうとする。
だけど。
「『荒天』の呪!!」
アルカストの呪いによって一気に水が干上がった。
『荒天』は干ばつを引き起こす呪いなのか?
「『千本針』! 『凍結監獄』!!」
アルカストは無数の針、というか杭を呼び出し、『凍結監獄』で杭を周囲もろとも凍らせる。
「喰らえ!!」
「あァ!? 弱ぇよ、似非神様がよォ!!」
ガブリエルは氷の杭を全て弾いた。
「少年! 行けるか!!」
そろそろタイムリミットか。
俺はアルカストとガブリエルが戦っている間に、必死に走ってローズとレイチェルを安全な所に移動させていた。
ごめんな、レイチェル。まだ回復してないのに無理させて。
ありがとう、ローズ。おかげでやっと踏ん切りがついた。
「ありがとう、神様。後は俺が片付けます」
ふっ、とアルカストは笑って、
「我の最後の信仰者をよろしくな」
アルカストは溶けるように消えていった。
「ガブリエル」
「ハッ、やっと邪魔者どもが消えたみたいだなァ!」
ここから先はコイツと俺の直接対決。
「考えろよ王子様! この状況、完全にゲームセットじゃねぇのか?」
もう絶対に勝てないなんて言わない。
「黙れよクソ天使。ゲームセットはオマエの方だ」




