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異世界からの多重人格者  作者: ますむ君
黒瀬の世界
19/30

第十八章 災厄、再び。

 何というか、いろんな意味で複雑な夜だった。

 確かに、この街一番の宿には違いない、素晴らしい内装だった。

 だがそれ以前に、女の子とホテル(宿です)に泊まっているなんてふざけた状況を受け入れられない俺がいた。

 

 何というか、変な感じだ。

 ここのところずっとポニーテールちゃんが俺と一緒に寝ていたので、女の子と一緒に寝ること自体は何ともないのだが。

 

 いくらなんでもねぇ......、こう、なんか、雰囲気が違うじゃん?


 「レイラ君......」


 「ああ、わかってる」


 わかってるよ! なんでベッドが二つしかないんだよ!

 もうローズは寝ちゃってるし! 先手必勝じゃねぇんだよ! 襲うぞ!!

 まあ、そんな度胸も気力もないんだけどな。

 

 「しかもシングルですね......」


 「ああ、わかってる」


 まあ、という訳で。


 「俺はそこのソファで寝るから、ポニーテールちゃんはゆっくりベッドで寝てくれ」


 「......」


 「ん、どした?」


 「......このっ」

 

 痛......くはないけどペチペチ叩くなかわいいな!

 

 「レイラ君も......」


 「ん?」


 「うぅぅぅぅぅぅぅ!」

 

 だから叩くなって痛いし!


 「れ、レイラ君も一緒に......寝よ?」


 「!!!???」

 

 なん、だと!?

 今日はちょっと変だぞポニーテールちゃん!!

 いつもなら何も言わず俺のベッドに潜り込んでくるくせに!

 

 「ねぇ、ねぇってば」


 ......、

 

 「だ、大丈夫?」


 はぁ......。

 

 「おーい、起きてるー?......えいっ」


 ぱっちぃぃぃぃぃん!!


 「痛ってぇな! なんだよ、デコピン流行ってんのか!? なんか無駄に威力高いし!」


 「えー、だって意識が飛んでたっぽいからさー」


 「......起きてるよ。それよりなんだ、ちょっと外でも行かないか?」


 この部屋には、王室程ではないが広いバルコニーが設置されている。

 まあ、そこから夜景でも見ながら時間を潰そうって魂胆なのだが。


 「うん、わかった」


 「ていうかポニーテールちゃん、立てるか?」


 「もう大分マシになってきたから大丈夫よ」


 「そりゃ良かった」


 ローズは......放っといていいか。

 俺はドアの開け、バルコニーに出る。

 

 「おっ! なかなかの景色じゃないか!」


 「おーっ、星がすごい......」

 

 眼下には明りが消え、寝静まった街が。

 そして天空にはたくさんの星。

 ていうか、この世界にも星があったんだな......。

 そう言えば、この世界には宇宙って概念はあるのだろうか。

 まず今立っている場所は天体なのだろうか?


 「大宇宙の神秘だな......」


 「......?」


 「あ、悪い悪い。なんでもない」


 うん、どうやらこの世界には宇宙という概念は無いらしい。しかし星はある。

 これは一体どういうことなんだ?

 まあ、そんな事はどうでもいいか。


 「綺麗ですね......」

 

 言って、レイチェルは俺の肩に頭を乗せて、手を繋いできた。

 ......、

 何気に女の子と手を繋いだのはこれが初めてなんだよな......まったく、情けない。

 

 そして出来れば繋ぎたくなかった。今すぐ振りほどきたいくらいに。

 そうだ。

 俺じゃないんだ。


 「冷えてくるし、中入るか?」


 「......もうちょっとだけ、いいですか」


 「......」


 だとすれば、この苦しみは罰なのだろう。

 彼女を騙し、今も騙し続ける事に対しての、罰。

 結局、俺にこの手を振りほどくことなど、出来る訳がないのだ。


   ▼▼


 俺の異世界生活五日目の朝。期限まではあと十七日。

 結局俺は、シングルのベッドでポニーテールちゃんと二人で寝た。

 何もありませんでした。はい。


 体が痛いな......。

 寝てる間に蹴られたのか?

 まあさすがに、朝起きたら女の子の顔が目の前にあるというのは、心臓に良くないな。

 

 「レイラ」

 

 朝食を食べて、周りの人を『状態透視』(ファインド・アウト)で視ていた時の事である。

 

 「ローズか。オマエ今朝どこ行ってたんだ?」


 「ええ、ちょっと気になることがあってね」

 

 朝起きた時には既にローズの姿は無かった。

 テーブルの上に、すぐ帰ります、と書置きがあったのでさほど心配はしていなかったのだが。


 「それで、何かあったのか?」


 「......」


 「どうした?」


 「......大変な事になってた」


 「は?」

 

 ローズの表情が変わった。どこか茫然としている。


 「私ならそれぐらい予想できたはずなのに! 結局私は自分の事しか考えてなかったのよ!」


 「ちょっと待て! 落ち着けローズ!」

 

 ローズは完全に取り乱している。

 何があったんだ? 何がローズをこんなにも動揺させてる?

 

 「マグヌスが、皆が......」

 

 だけど、俺だって本当は心の奥では気付いていたのかもしれない。気付いていて、それを無視した。


 「『聖呪の苗木』の皆が......、殺された」


 「なっ!?」


 ローズはその場に崩れ落ちてしまう。

 誰が、殺したんだ?

 やっぱり狙いは『聖呪の苗木』なのか?

 だとすれば、ローズの身にも危険が迫っているんじゃないのか?

 

 「ポニーテールちゃん!」


 俺は向こうで飲み物を買っていたポニーテールちゃんを呼んだ。


 「ポニーテールちゃんはローズと一緒にいてくれ。俺が様子を見てくる。その間にできれば話を聞いといてくれ」


 「え、あ、何の話ですか?」


 「マグヌスと『聖呪の苗木』のメンバーが皆殺しにされた」


 「!?」


 「ポニーテールちゃん、ローズを頼んだ」


 俺は宿を飛び出した。


   ▼▼


 走る。

 走る。

 走る。

 とりあえず、昨日俺が目覚めた店まで走った。

 だがそこには何もなかった。


 「くそっ......!」


 昨日ウルエリンクスと戦った拠点跡ならどうだ。

 

 「はぁはぁ......」


 何もない。

 

 「くそっ、どこを探せばいいんだよ!」

 

 いや、それ以前に。俺は一体何を探してるんだ?

 マグヌスの遺体か? 戦闘跡か?

 

 「......違うな。皆殺しの犯人だ」


 犯人。

 殺人鬼。

 あのマグヌスが殺されたんだ。それはきっと悪魔のような存在なのだろう。

 悪魔?

 いや、そんな馬鹿な。

 だが、可能性としては十分過ぎる程にありえる。


 ガブリエル。


 またアイツが、皆殺しにしたのか。

 だとすれば、早くもレイラの予言が当たってしまったという事か。

 ウィリアを救い、『冥神の帝王』(ネフティス)を撃破する過程で、絶対に『七天使』(セブンス)と戦う事になる。

 その時が来たのか。

 あの本物の怪物から、俺はローズを守りきれるのか。

 

 「......無理だ」


 無理だ。

 けど。

 やるしかない。

 もう一度、あの悪魔と戦わなければならない。

 今度は本気で殺しに来るだろう。

 今回のアイツの目的はおそらく『聖呪の苗木』の殲滅。

 容赦など、するはずがない。


 「レイラ王子!」


 フッ、と突然隣に赤毛ポニーテールちゃんが現れた。

 

 「なにかあったのか? ローズはどうした?」


 「一回戻りましょう。......犯人はあの天使です。目撃証言が取れました」


 「やっぱりか......」


 ガブリエル。

 蒼い髪にズボンに巻きつけた何本ものベルトが特徴的な、『七天使』。

 その力は『神の真意』。神の意志を伝える者。

 天使の翼を広げ、力無き者たちを容赦なく殺す。


 俺は叫ぶ。


 「聴こえているかガブリエル!」


 「なっ!?」


 「『エシュリオン』はくれてやったが、今回はそう簡単にはやらせないぞ! 首洗って待ってろ!!」


 宣戦布告。

 聴こえているかは知らないが、これで戦う意思は示した。

 もう逃げられない。後には引けない。

 勝てる保証なんて無いけど、戦わなくちゃ大切な人が殺される、という保証はある。

 だから俺は無謀な戦いに挑む。

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