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異世界からの多重人格者  作者: ますむ君
黒瀬の世界
18/30

第十七章 安堵の幕引き、あるいは不穏の幕開け。

 あれ......、ここはどこだ?


 俺今まで何してたんだけ......。

 なぜか記憶が曖昧だ。確か俺はさっきまであの怪物と......。

 怪物!? そうだ、そうだった。俺はあのウルエリンクスとかいう怪物から逃げ回ってたんだ。

 ということは、俺、死んだのか?あの極太レーザー砲喰らって?

 だとすれば最悪だな......、まだウィリアの『呪縛』は解けてないってのに________

 

 ぱっちぃぃぃぃん!!


 「痛ってぇ!!」


 「あ、起きた」


 「起きた、じゃねぇよ! 今ローズ思いっきり叩いただろ!?」


 「うるさいわねー、あなたがいつまでたっても起きないからこのローズ様が仕方なく起こしてやったのよ? まったく、死んでんじゃないかって思ったわよ」

 

 ううー、ホントに痛かったんだぞ......。


 「なんだよオマエ、ツンデレさんか!? 俺は今ツンに構ってる暇なんてないんだぞ! 構って欲しかったらデレやがれ!」


 「な、なに? 頭打ってキャラ変わったの?」


 「黙れツンデレパツキン! そう言えば、ポニーテールちゃんはどこに行ったんだ?」


 なんかこのままいくとキャラが思いっきりずれそうなので、話題を変える。

 が、ツンデレのパツキンは暗い顔をして答えなかった。

 ツンデレって呼ばれたことが嫌だったのか?


 「レイチェルは向こうで休んでるわ。結構精神的に脆い状態だから気を付けてあげて」

 

 ......? 何言ってんだ?


 「ど、どういうことだ?」


 「どういうこともないでしょ、レイチェルはあなたを助けるために自分を呪ったのよ」

 

 呪った?

 俺を助けるために?

 『アルカストの神』に頼ったのか!?


 ていうか。

 

 「俺はあれからどうなったんだ?」


 「ああ、そうね。聞いておかないといけない事があったわ」


 「......?」


 「あなた、どうやってウルエリンクス倒したの? ていうか、あの怪物をどこにやったの?」

 

 ......?

 言っていることが、理解できなかった。

 俺が、ウルエリンクスを倒した?

 いやそんな馬鹿な。 

 俺はあの怪物の極太レーザー砲を喰らって蒸発したはずなのに、こうして今も生きている。

 俺は何もやってない。

 

 「覚えてないの?」


 「ああ、サッパリだ」

 

 言うと、ローズは長い金髪を掻き毟って言った。


 「いいわ、とりあえず先にレイチェルのトコへ行ってきて。彼女、相当あなたの事を心配してたんだから」


 「わかった。あと、ありがとな」


 「へ?」


 「俺の事、看病してくれてたんだろ?」


 そう言い残し、俺は部屋を出た。

 

   ▼▼


 どうでもいいが、ここはどこなんだろう。

 少なくともさっきみたいなヤツらがいない場所だとは思うのだが。

 

 「おーい、ポニーテールちゃーん、入るぞー」


 「は、はい!」


 部屋の中のベッドでポニーテールちゃんは寝ていた。

 慌てて起き上がろうとするのを手で制して、


 「悪い、無理させちゃったみたいで......」


 「だ、大丈夫ですよ。わたしの事は心配しないでください......」


 本人はそう言うものの、やっぱりそうとう消耗しているようだった。

 

 「わたし、すごい心配したんですよ......。このままレイラ君が起きてくれなかったらどうしようって」


 「......心配かけたな」


 「ホント、レイラ君がいなくなったりしたら......わたし......」


 彼女は、泣いていた。

 ガブリエルと戦った時や変装野郎から助けてくれた時も、彼女は強かった。俺はずっとレイチェルを頼りにしていた。

 でも_____


 「悪かった......。無理してたんだよな」


 「そんな事はないですよ......。わたしが一番怖いのはレイラ君がいなくなることですから」


 「......ごめん」


 俺は一体何に謝ったのだろうか。

 俺を助けるために無理をしてくれた事か。

 

 いや違うな。

 無理をしていた事に気付いてやれなかった事か。

 それも違う。

 俺が本当に謝りたかったのは、


 俺が(レイラ)ではない事を隠している事だ。


 レイチェルはレイラの事を想って、我が身を磨り潰してでも俺を助けようとしてくれた。

 でもそれは。

 決して黒瀬君鳥のためではない。


 「本当に......ごめん......」


 「謝らないでレイラ君。わたしは、あなたがずっと側にいてくれれば、それで満足です」 

 

 俺は、間違っていた。現在進行形で間違い続けている。

 その言葉は(レイラ)が受け止めないといけないのに。

 俺は彼女を騙した。そしてこれからも騙さないといけない。

 果して俺は、この罪悪感にいつまで耐えられるだろうか。


 「レイラ君は覚えてないと思うけど、あなたのお兄さんはとても良い人だったんですよ? 王族の付き人として未熟者だったわたしを逆に守ってくれた......。わたしのせいで、彼が傷付くことだって何度もありました」


 止めてくれ。

 本当にダメなんだ!

 これ以上はッ!!


 「だから、今度は、わたしがレイラ君を守ります」

 

 バキン、と。


 俺の中で、大事な何かが壊れる音がした。


 『いや、待てよ』


 頭の中から声がした。

 レイラの声ではなく、俺の声が。


 『違うだろ。こんなところで逃げ出してどーすんだよ』

 

 わかってる。逃げる事に何の意味も無いことくらい、わかってる。

 だけど、こんなのに耐えられる訳がないじゃないか!!

 

 『何馬鹿な事言ってんだよ、俺。わかってるだろ、自分が一体何をすべきなのかくらい』


 そう、だよな。

 俺が挫けてどうすんだよ。

 まだ戦いは始まってもないってのに。


 ......ふぅ。

 

 考えを改める。

 俺は(レイラ)の代わりだ。

 なら、俺がレイチェルを守ってやるしかないだろ!!


 「レイラ君、早くマグヌスさんの所に行った方がいいよ。まだ万全じゃないかもしれないからね」


 「ああ、わかってる。......ありがとな」


 「もう! しつこいわよ。早く行ったら?」

 「ふっ......、俺ならもうため口でいいぞ? レイチェルが嫌ならどっちでもいいけど」


 俺がそう言うと、彼女はふふっ、と笑って言った。


 「そうですね、気分で変えますよ」


 「そうか」


 俺はレイチェルのポニーテールではない頭を撫でて、部屋を出た。 


   ▼▼


 「うむ、大丈夫じゃ。完全に回復しておる」


 「あ、ありがとうございます!」

 

 俺が頭を下げると、マグヌスは言った。

 

 「儂は大したことはしてないわい。今回、儀式を仕切ったのはローズじゃ。礼なら彼女に言ってやってくれ。喜ぶと思うぞ?」


 「はい、ありがとうございます」

 

 すると、マグヌスはフゥ、と一拍置いてから、小さな声で言った。


 「今夜はレイチェルの『空間移動』(テレポート)は使えん。あまりに精神が消耗しておるからの。普段ならここに泊まって行けばいいのじゃが......、生憎、今日は無理なのじゃ」


 「何かあるんですか?」

 

 老人の雰囲気が明確に変化していた。

 あの温厚な笑みから、真剣で冷徹な表情に。


 「事情は聞くのでないぞ? ただ宿は用意しておる。この街でも一番豪華な宿じゃ。今夜はローズも連れて、そちらに泊まって欲しいのじゃが、良いかの?」


 「ローズもですか?」


 「そうじゃ。老いぼれの願いと思って聞いてくれ」


 「わかりました」


 俺には到底、断る事などできなかった。


   ▼▼


 俺とローズはレイチェルを連れて、店を出た。

 レイチェルはまだ歩けそうになかったので、ローズが強化魔法で腕力を強くして、お姫様だっこをしている。

 その別れ際。


 「ローズよ、その若者たちに無理をさせてはならんぞ」


 「は、はい」


 「いいか、自分自身の判断を一番大切にするのじゃ。まずは自分自身を信じる事から始めるのじゃぞ」


 それは本当の別れの言葉のようだった。


 「それと、若者よ」


 「は、はい!」


 「おぬしは、その子を絶対に守らなければならんのじゃぞ。命に変えてでもじゃ。彼女はそれほどに苦しんでおった。おぬしはそれに応えなければならん」


 「わかりました、ありがとうございます」


 老人はもう一度笑って、言う。言ってしまう。


 「元気でな」


   △▽


 老人はため息を吐いていた。

 これで良い、老人はそう思う。

 

 数多の修羅場を潜り抜けてきた老人は苦悩した。

 考えて考えて考えた。けど結局、同じ結論に行き着いた。

 だから老人は、彼らを逃がしたのだ。

 老人は、全てを知っていた。


 この街の各地にいる『聖呪の苗木』のメンバーが次々に殺されていっている、という事も。


 百人程いたはずのメンバーは、もう二人しか残っていなかった。

 自分自身と一番近くにいる弟子。

 老人は思う。

 なんとしても、ローズだけは守らなければならん、と。 


 だから老人は、自ら戦場へと赴いたのだ。


 老人はその杖を投げ捨て、振り向く。


 「おぬしは、何を望むのじゃ? おぬしの願いはなんだ」


 蒼い髪にズボンに巻き付けた何本ものベルトが特徴的な少年が、そこにいた。

 

 ニィ、と狡猾な笑みを浮かべる天使、名はガブリエル。

 ガブリエルは言う。神の意志を告げる。


 「そぉだな、今のオレの願いは、オマエをぶっ殺す事だ」


 老人の周りに幾つもの光が現れる。臨戦態勢。


 老人は思う。

 なんとしても、あの悪魔からローズを守らなければならない。


 だが一方で。

 老人はこうも思っていた。


 少年、後は任せたぞ、と。


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