第九章 日帰りで、聖剣探しに行こう!
どうやら、俺は本当に魔法が使えないみたいだった。
炎はダメ。水もダメ。電気もダメ。念動も地形系も全部ダメ。
とにかくなんの魔法も発現してくれなかった。
「死にたい......」
ネガティブモード:発動
ていうかマジで? 俺なんのためにこの世界に来たんだよ。
はあ~~~~~~~~~。
まあ、隣には俺を心配そうに見てくれてる赤毛ポニーテールちゃんが超かわいいからオールOKだぜ!
ともかく。
ホント、どうしようか。
あの悪趣味な帝王の二者択一についても考えないといけないというのに。
今はその事だけに脳を使いたいのに。
「それでは、作戦会合を始めます」
ラインへ、ヘイン? ラインヘインはやっぱり司会役のようだ。
今ここにいるのは、俺、赤毛ポニーテールちゃん、ロッズ司教、司会役、その他大臣。
ウィリアはまだ部屋に籠ったままだ。
「今回は、クロイツェフとの講和についてです」
「姫か、民か、か......」
「ホント、どうします?」
「そんな無茶な!」
「いやしかし......」
「だがそれだと民が!」
あちこちで意見が飛び交う。
「静粛に! 静かにしてください!」
司会役が叫ぶ。なんだ? いい案でもあるのか?
「私から、一つ意見がありますぞ?」
「なんだ?」
「姫か、民か、このままでは片方を選ばなければならない。今はそれを悩んでいる訳ですな」
「ああ」
「ならば、選択肢を一つ増やす、というのはいかがでしょう?」
どういう事だ。回りくどくて何を言いたいのかわからない。
「言うだけなら、簡単な事ですな。『冥神の帝王』を倒せばいい」
「いや、それは無理だろ? 相手はあの史上最強とまで謳われた魔術師だぞ!」
「いや、待て」
俺は口々に自分の意見を述べている部下たちを静止する。
なるほど、そいう事か。
俺のこの世界での知識など無いに等しいが、そんな俺でもわかる。
「なるほど、目には目を歯には歯を、だな」
「??」
「まだわからないか? 史上最強の魔術師には、史上最強の魔術師を、だ」
コスト7の魔術師に打ち勝つにはコスト7の魔術師でないと不可能なのだ。
つまり、お姫様を。ウリィアを使う。
まあ、そこで避けられない壁が一つ。
「で、ですが! そのためには姫様の『呪縛』を解かなくてはならないのでは?」
「ああ。解かないといけない。『呪縛』についてはどのくらいわかっているんだ?」
「いや......ほぼ何もわかっておりません」
「そうか......。じゃあまずはそっから始めないとな」
ホント、めんどくさい事やってくれたな。先代国王様よぉ。
ぼやいても仕方ないか。
「わかりました。ではさっそく研究チームを組んで、『呪縛』の解析にあたらせます」
▼▼
さて、俺はどうしようか。『呪縛』の解析が終わるまではやる事がない。
ていうか、その後もやる事があるかどうかわからない。
「はぁ、暇だ......」
「そうですね......」
ザ・時間の無駄遣い。
さすがに王子の俺が何もしないのはアレなので、城にある巨大な書庫で歴史ある本を読みふけっていた。
『呪縛』について何か書いていないか調べるためだ。
もちろん、アテなど無いのでテキトウに目に付いたモノを選んで読んでいる訳なのだが。
「赤毛ポニーテールちゃん、どう?」
「どう、と言われても......特にですね」
俺が今読んでいるのは、『特異の呪言』なる本。
なんか『呪詛』とか『呪印』とか、意味のわからない単語ばかり並んでいて、何がなんなのかサッパリわからない。
バタン。
俺は分厚い本を棚に戻した。
「王子! ありました!」
赤毛ポニーテールちゃん(もう長ったらしいから赤ポニーちゃんって略しちゃおうか)が走りながら一冊の本を見せてくる。
「なんだ?」
「コレですよ! 『聖剣史』っていう本!」
どれどれ、どうやら『聖剣史』とはいろいろな聖なる魔剣聖剣について記してあるようで、その中の一つ。
「『エシュリオン』? コレがどうしたんだ?」
「この聖剣の効果、見てください」
聖剣エシュリオン。
ライフネス地方に伝わる、最も精霊力が強い聖剣の一本。
全体的に金色で、柄には薔薇の文様。
なにかしらスゴい要素がありそうな雰囲気。
そして、この剣の性能は。
「あらやる魔力を斬り飛ばす剣、か」
「はい! これならウィリア様の『呪縛』も解けるはずです!」
「なるほど。で、この剣はどこにあるんだ?」
「......書いてませんね」
「いや、それじゃ無理だろ。聖剣探しの放浪の旅とかしないぞ、俺。大体、リミットは三週間だ。それまでに見つけられる保証はない」
はぁ、これならいけると思ったのになぁ......、と赤ポニーちゃんは残念そうに呟いた。
と、そこに。
「おや、王子殿。その剣、もしかすると、『エシュリオン』の話をしていらっしゃったのですか?」
「ロッズ司教だっけ? ああ、今まさにその話をしてたところだけど」
突然現れたのはロッズ司教。知っているのか、『エシュリオン』を。
「先程、我々でいくつか案を出し合ったのですが、その中でも有力候補だったのが『エシュリオン』でした」
「そ、そんなに有名なのか、この剣」
「はい、ここら辺じゃ有名な聖剣ですよ、魔力を穿つ聖剣として」
「し、知らなかった......」
赤ポニーちゃんは頭を抱えている。知らなかったのか......。
「そこで王子殿。あなたに頼みがありまして」
「頼み? なんだ?」
「この聖剣、『エシュリオン』を探してきて欲しいのです」
『エシュリオン』を探せだと!?
俺は放浪の旅とかする気ねぇぞ!
「もちろん、剣の場所はわかっています」
「よかったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「ひえぇっ!?」
オーケーオーケー、オールオーケー!
急にやる気が出てきた。
やってやる。
やってやろうじゃねぇか!
「わかった。やってやるよ、聖剣探し」
「そうですか、良かったです。これで『呪縛』解除に一歩近づきます」
「それで、どこに行ったらいいんだ?」
▼▼
次の日。
つまり、俺の異世界生活三日目。
俺は昨日と同じ、すごく豪華なベッドで目を覚ました。
「ふぅ、今日から聖剣探しかぁ」
「そうねぇ、レイラ君。わたしも一緒に行くからね」
あれ? なんでこのぬいぐるみは喋るんだ?
なるほど、そういう魔法があるのか。便利だなぁ、魔法って。知らない事があるっていうのは素晴らしい!
そうじゃなくて。
「おい......、なんでおまえ、ここで寝てるんだ!?」
ばっちり赤毛ポニーテールちゃんだった。
「むにゅぃぃ......」
「聞いてねえだろ、おい!」
後で訊いたところ、まだ俺の監視が続いているみたいで、四六時中一緒にいないといけないらしい。また脱走されては困るらしい。
信用ねぇな、レイラ君。
まあ、かわいいからいっか!
ともあれ、今日から聖剣探しだ。
目的地はサグライテデスとかいう小さな街。
結構遠いらしいが、その点は問題ないらしい。
問題なのは、サグライテデスが聖クロイツェフ王国内にある、という点だ。
そんな所に敵国の王子様である俺が行っていいのか、と思ったのだが、どうやらそれも問題ないらしい。
俺の顔は全然知られてないし、サクライテデスはクロイツェフとストラテス王国のほぼ国境上にあるらしいので、そこまでの脅威は無いだろう、との事。
▼▼
「では、行ってきます」
「行ってくるよ」
「王子、どうかご無事で」
ロッズ司教の見送りを受けて、いざサクライテデスへ。
「にしても、他の皆は見送りしてくれなかったな」
「皆忙しいですから。戦争の事も、『呪縛』の事だってありますしね」
「ふぅん。で、どうやって行くんだ? サクライテデスは遠いんだろ?」
俺がそう言うと、赤毛ポニーテールちゃんは、にひひと笑った。
「わたしの専売特許、見せてあげますよ!」
「せ、専売特許?」
「これがわたしのマイナー魔法、『空間移動』よ!」
「『空間移動』!?」
次の瞬間、俺の視界が揺れる。
すぐに視界は元に戻った。
「ぬわっ!? す、すごいな......」
「移動完了、と。着きましたよ、ここがサクライテデスです」
ここが、サクライテデスか。
何というか、寂れた街だな。
人が全くいない。
「誰も、いないのか?」
「うーん、そんな事はないと思いますけど......」
歩く。
元いた世界で言うと、シャッター通りだろうか。
家やコンビニはあるのに、なぜか街に人の気配がしない。そんな感じだ。
「いや、誰もいないぞ」
「おかしい、ですね......。一月程前に来た時はそれなりに賑わっていたはずなんですけど......」
「ここ、メインストリートだよな......」
なんというか、ホラー映画の中に入ってしまったような。ここ、ファンタジーワールドなんですけど。
「まあいい、人の事は後回しだ。さっさと『エシュリオン』を探そうぜ」
「はい......」
昨日ロッズ司教に聞いた話によると、聖剣『エシュリオン』は街のはずれにある教会にあるらしい。
「にしても、便利だよな『空間移動』って。教会まで飛ばしてくれよ」
「いえ......わたし、教会の場所までは知らないので」
「あ、そうなの? 結局歩いて探すしかないのか......」
それに、と赤毛ポニーテールちゃんは続ける。
「あまり乱用しない方がいいんです『空間移動』っていう魔法は。自分で歩く事の大切さを忘れてしまいますから」
「そういうモノなのか?」
再び歩く。
しかし、本当に人がいないな。マジで一人もいない。
ここまで来ると不安になってくる。
少しして、ようやく赤毛ポニーテールちゃんが口を開いた。
「やっぱりおかしいですね。ここまで誰もいないとなると」
「ああ。神隠しにでもあったのか? なあ、赤毛ポニーテールちゃん。そういう感じの魔法とかないのか?」
「神隠し......、どうでしょうか。マイナー魔法ならあるかもしれません」
「知らないんだな」
「うう、すみません......」
少し赤毛ポニーテールちゃんをからかってやったところで、教会が見えた。
至極普通の教会だな。
俺の家の近所にも似たようなのがあった気がする。
「着きましたね......」
「ああ」
教会そのものは普通なのだが。
......少しだけ、ほんの少しだけ。嫌な予感がした。
どうやらこの感覚は、赤毛ポニーテールちゃんも同じようだったようで、
「レイラ王子、ちょっと下がっててください!」
ズガァァァァァ!!
魔法の炎が教会の扉を焼き落とした。
『状態透視』で視る。
火炎系統 コスト3
教会の内側が露わになる。そして、俺の予感は的中した。
「なん、で.....!?」
「ウソだろ、おい!」
教会の中に散らばっていたのは無数の死体だった。
「誰がこんな事を!」
人がいなくなった街。
ここにあるのはざっと見ただけで百を超える数の屍。
これが意味するのは。
「まさか、皆殺しにされったってのか? この街の住民全員が!?」
だとすれば一体誰に? こんな事をする目的は? そしてなぜここに死体があるんだ?
「いや、簡単な事じゃないか......」
ここは教会だ。ロッズ司教は言っていたじゃないか。
「ここには『エシュリオン』があるからだよ!」
『エシュリオン』を手に入れるために、何者かはこの街の住民を皆殺しにしたのだ。