八話 女神からの一報
「政府じゃないっすよ、あいつらもう世界とっちゃってますから」
金メダルでも取ったような言い方をする。
ザキの陽気な、それでも怪しい笑い声が狭い室内で響く。
「そうだったか。じゃあ反世界活動に直さないとな」
シュウはあごに手を当て相変わらずもごもごと冗談を言う。
「そこは反社会的とかでいいんじゃないですかね」
言い終えるとぽかんとしている冬原達にむけてけひひと身体をゆらして笑った。
笑うだけにしてもオーバーリアクションな男だ。
彼を見ているとアニメを見ているような気になる。それも海外のカートゥーンなやつ。肩幅おかしいやつ。
「反社会的って。不登校とか万引きとか夜の集会とかしているの?」
夏目が思う反社会的な行動はちゃっちい。
あーはっはーとザキは腹を抱えて目玉を飛び出させるように笑う。
身近にそういう奴がいるのよと言い訳のように夏目が付け足す。
「ざんねんだけど、オジサンにはそういうことできないよ」
物静かにフォローするシュウの言葉を聞いてザキの笑い方はさらにエスカレートする。
「なーんかやな感じ。そこまで笑う事じゃないし」
イーヒヒ、ヒヒ。
最終的には笑いすぎてゼーゼーというほど呼吸困難に陥っていた。
「あー、おかしー。破壊工作とか暗殺とか出来る人が、不登校も万引きも、夜の集会も出来ないの」
まだヒーヒー笑っている。
そんなザキよりも、ザキが言った軽犯罪どころではない行為に関心が行く。
眇められた目が一斉にシュウに向く。
「いや、やってない。何もやっていませんよ」
「夜は早寝だもんね。起きていられないもんねー」
「お前もいい加減にしろ」
横に座っていたスーツの男は部屋の奥まで歩いて行き、たじろいだザキの首根っこを掴んでひょいと持ち上げた。
「先輩、すみませんでした」
猫のようにぶらんと持ち上げられている。
今までの中で一番カートゥーンぽいシーンだ。
「わかればいい」
椅子の上に優しく降ろす。
ザキは元の通りあぐらをかいた後、シュウの背中に向けて挑発の顔をした。
冬原達を笑わせるには十分な顔だった。
突然ザキが変な顔を止めた。別にシュウの顔色をうかがったからではない。
「メール届いてますぜ。先輩宛です」
「画面よこしてくれ」
ザキはくるくる回る椅子でパソコンの前から回転し変な腕の動きをさせながらこちらを向いた。
対するシュウは人差し指と中指を立てた気障なポーズでザキの投げた何かを受け取る。
片手のジェスチャーに合わせ空間にスクリーンが表示された。
「僕宛じゃない。君たちにだ」
そう言ってスクリーンを冬原達の前に近づけた。
宿命の人たちへ
チェリの報告を受けました
定めの通りあなた方を導くことが出来たことに感謝をいたします
定めを重んじる我らは命そのものに宿る決定事項を宿命あるいは運命と呼びそれに抗わず従順に過ごすことを美としています
だからこそ改竄と調整を繰り返すかの組織を許すことが出来ません
それにはあなた方に宿る決定事項が必要不可欠なのです
あなた方の協力を求めます
あなたのことを誰よりも知る女神
「なにこれ、気持ち悪い」
夏目が率直な感想を述べる。
顔を上げるとシュウが苦笑いを浮かべていた。
「まあそういうな」
横に回り込み一緒に読み始める。
「女神がそう言っている訳じゃない。どうせアイとかいう感じ悪い側近が書いた文章だ」
それまでの穏やかな印象とは少し離れた、嫌悪感を見せる様子にこれはまた厄介そうな組織図が頭をよぎった。