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三十二話 一人劇場

ぼんやりとした光が靄に乱反射する。

まとわりつくような香りが感覚を鈍らせる。

そんな不確かな空間では彼女の独特な存在感をただ受け入れることしかできなかった。


延々と一人語りするアイ。

その口調は劇的で、こちらはまるで客席にいるように口を閉ざすことしかできない。

「度重なる大規模な過去改変。女神は唯一その改変を受け入れることが出来ないお人。彼女と同じ目を持つ者は誰一人としておらず、彼女と同じ記憶を持つこともまたこの世界には一人としていない。可哀想な女神。宿命の人をただ案じることしかできない」

アイが天を仰ぐと、重ね着せられた厚い絹が滑るように動く。袖にあしらわれた花の模様が動く様子に目が追いつけずチカチカと頭痛がする。


「皆さんは見たでしょう。チェリは二人現れた」

誰も返事を返さぬうちに、アイは続ける。

「女神は二人のチェリに非常に恐怖を抱かれています」

何か心当たりはございませんか。そこで初めて質問をするために彼女はフユ達を見た。

「心当たりって言われても」

アイの言葉の中では二人のチェリという言い方が妙に引っかかった。

「チェリより先にトモっていう女の人がいて、トモをコピーしたロボットがチェリなんだろ。二人のチェリってなんだよ」

秋津の言葉にアイは困ったように眼を細めた。

「その話は誰から聞きました?」

「トモと、それからあの眼鏡博士の」

「ハクが……」

「そうその人。その博士がチェリを作ったって言ってた」

アイは考え込むようにあごに手を当てた。

「女神の見た世界では、トモという女性は存在せず、チェリもまた人間でした」

静かな足取りでアイが近づいてくる。

「それが分裂した理由を私は見定めなければなりません」

今度はじっとナツを見つめた。

「あ、あたし?」

「今私がお話しできることは女神によって定められています。それ故に貴女が納得できるまで語ることは許されないでしょう。申し訳ありません、一方的にきくことになるでしょう」

丁寧な前置きをしてから、アイはナツにいくつか質問を投げかけた。

アイのことは知っているか、女神のことを知っているか。この組織のこと、この世界のこと、敵のこと、味方のこと……

ナツにだけ問いかけられる。

アイのことはシュウにきいた、女神のことも、フォルトナという名前も。あるいはチェリに、さらにザキに。答えていく内にアイの表情に芝居がかったものが薄れ、素で困惑している様子が見受けられる。

一通り聞き終えるとその場にいるように指示し、御簾の向こうへ消えていった。

少しして、肩を落とした様子のアイが出てくる。

「ありがとう。参考になりました」

四人に向かい、深々と頭を下げた。

一向に面を上げないのは、そのまま帰れと言われているようだ。


空気のよどんだ部屋に居づらいのもあって、早々に退散した。

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