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三十一話 よばれる

チェリの帰りを待たず、フユ達は連れて行かれた。

次の勅令が出たらしい。

伝言に来たのはザキだった。

へへっと頭をへこへこ動かして笑う様には未だに慣れない。

「おー疲れ様っす」

彼は片手を上げて挨拶する。

四人揃ってぞろぞろと彼の元へ歩み寄ると、ザキは部屋の外を指差した。

「君らに勅令が出たんだけどさ、いっぺん女神のとこ顔を出して欲しいって」

ザキの言葉に顔を見合わせる。

どうすんだよとか内々で話してみた後、とりあえずザキの顔を見る。

「まー一緒に行きましょか」

くるりと後ろを向いた彼のがに(・・)股でどこか下手くそな歩き方を見ていると、彼も人ならざるものじゃないかと少し不安になってきた。

敵のことといい、チェリのことといい、フユには刺激が強すぎて疑心暗鬼になっているようだ。


そんな不安定な精神状態の中で、内装がころころ変わる廊下を歩いていると自分を見失いそうになる。

大体この基地はおかしい。

病院のような無機質な通路と思えば、ある場所を境にお花畑の絵が描かれ始めるし、小学校のような手洗い場のついた廊下になったり、煉瓦造りを模したタイル壁になったりもする。

木造っぽいペインティングのされたゴム床を歩いていると、左手に不自然なふすまが現れる。

ザキはふすまを躊躇無く開いたが、そのまま動かなくなった。

奥に広がるのは、畳の間。四面ふすまに囲まれている。

広い部屋だ。フユの家にも畳の間があるが桁違いに広い。

「オレは先に行って用意しておくよ。じゃ。ぐっどらっく」

奥に行くように指差した後、通路を引き返して去っていった。


おそるおそる部屋の奥へ進む。

ザキが指差していたのは正面奥のふすまだが、念のため左のふすまを開けようとしてみた。

ただのだまし絵だった。

金の使い方を間違えている。それが率直な感想だった。

奥のふすまを開いた。

さらに広い畳風の間が広がっていた。

この景色、見たことある。

確か大奥のワンシーンだ。CMでしか見たこと無いけど。

延々広がる畳の間。

違うと言えば、多少ふすまの絵が華やかさを増している。

そして三度目のふすまを開けたとき、視界は靄に覆われた。


煙が充満している様に思えたその室内は、だる甘い匂いで満ちていた。

全神経を使いこの部屋の状況を察知するために呼吸をすると、視界を覆うこの靄がただの水蒸気だとわかる。

霞の向こう、部屋の中央より脇に一人佇む人がいた。赤い着物は裾広がりでボリュームがある。

「もっとちこう寄りなさい」

その女性の声は、芝居がかった奇妙な声だった。

声に導かれるままに部屋の奥へと進む。彼女が女神なのかと思うと心拍数が上がる。いや、この苦しさは充満した水蒸気のせいで呼吸が上手くいかないだけか。

だんだん彼女の細部まで見えてくる。どこか見覚えある目元をした、綺麗な泣きぼくろをもつ女性だった。

彼女の後ろに御簾がかかっている。凄く不自然だ。

「ようこそ宿命の人たちよ。あなた方を待っておりました」

深々と頭を下げる。長い黒髪が非常につややかだ。

「あんたが女神?」

尋ねると女は首を横に振った。

「いいえ。わたくしはアイ。女神様は奥にいらっしゃいます」

優雅な動作で脇を見る。

彼女がかの有名なアイ様かと知って動揺を隠せない。ひざが笑いそうだ。

よく見れば側にコンビニとかで見た防犯用カラーボールに似たものが一個置いてある。鮮やかな赤い色だ。チェリの言っていたペイント弾って、これだ。

それがどんな事態の時に使われる物なのか想像して、悟られない程度にかすかに震えていると、彼女は変わらぬ表情でフユを見ていた。


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