表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/34

二十九話 ぺいんてぃんぐちぇり

チェリが女神への報告から帰ってきたときの衝撃的な姿は、今まで巻き込まれたどんな場面よりも強烈だった。

「チェリってば、それ、どうしたの」

ナツの目はチェリの全身をせわしなく動いていた。

濃く赤いペンキが、真っ黒なスーツを、真っ黒なサングラスを、白い顔を、赤一色に染めている。

「あははー怒られちゃった」

でこぼこした赤は、足下へ向かうにつれまだら模様になっていく。

後ろを振り向くと、半端に元の黒スーツが姿を見せる。


「カラーボールは勘弁して欲しいよ」

ぶつぶつ呟きながら頭を振る。

そのペイント染めのサングラスを通して本当に見えているのか、なぜ見えているのか不思議でしょうがない。

「カラーボールを投げられたの?」

「仕方ないの、アイとか普通の人間には私に体罰を与えるのは無理だから」

叩いて顔を赤く腫れさせる代わりに、インクで顔を染めたのよと当然のように語ったが、その理屈に納得がいくまで凄く時間がかかりそうだ。


「けど、こんな強いインキかけられるとさすがに感覚が狂いそう」

あーあと腕を組む。

「早く落とした方がいいんでしょ、なんでのんびりしてるの」

ナツの言葉に、チェリは少し機嫌が悪そうに額を引きつらせた。

「メンテナンス、嫌いなんだよね……」


いやがるチェリを四人で押すようにして、彼女が言う医務室まで連れて行った。

「コカー。いる?」

人捜しの割に、ずいぶん遠慮がちの声だ。

そもそも、目の前の扉は片目分しか開いていない。

「いないなら帰ろうね」

後ろの四人を振り返ったその時、扉がばっと開いた。


「何かご用みたいだね、くくっ」

黒いシャツに赤いコート、長い髪が片目を隠す。

ホストクラブに居そうなファッション……よりも禍々しさが勝っている。

漫画に出てきそうな格好の人だ。少年漫画みたいな。

「チェリか、また派手にお仕置きされたね」

こそこそと身を屈めていたチェリを、白目がちに見下す。

「僕が洗ってあげるよ、綺麗にね」

そこで、反り返って狂喜的に笑う。その動作がフユには予測できて、複雑な気分になった。

マンガの読み過ぎがこんな大人を生むなら、何て世界は残酷なんだ。

フユは心底呆れた。


呆れているのはチェリも同じようで、立ち上がると残念な大人を見下ろしてため息をついた。

「洗浄と、ついでにメンテをお願い」

そこで、狂喜的な笑いはぴたりと止まる。

ニヤリとわざとらしく口を歪めた後、フユ達と目が合う。

「ところで、その後ろのオプション機は?」

「宿命の人たち」

チェリの言葉に甲高い声でははっと笑う。

「さては、彼らに余計なことを喋ってしかられたな?」

不機嫌そうにそうねとだけ答えた。

ますます機嫌良さそうに笑う。

「パラドックスが実現するのは、合うはずのないつじつまが合ってしまった証拠だって、アイの口癖だろ」

チェリはやっぱり不機嫌そうにそうねと返事をするだけだ。


「それじゃあ、ついでに宿命の人たちにも健診だ。疲れは無いかい。最近眠れないことは。お腹は痛く無いかい。頭は。背中は。足もかな」

じわじわと、目の前の人の口が裂けていくような、迫ってくる感覚。


「コカ、子ども相手に脅かすな」

チェリのチョップを食らって、奇行は止まった。

「今だけで良いから、医者の格好だけしていてよ」

ここで待っていてと言い残し、医者を連れて部屋の奥へと消えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ