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二十八話 十干代理

無事に鉄道は走り続け、終着駅へとたどり着いた。

去り際に議員は金の兄のことを気にしていたようだが、駅で待機していた護衛に連れて行かれその場を後にした。


そんな話を帰りの車内で話しているのはあの巨大昆虫模型に立ち向かった女性だ。

その脇には相変わらずビニールテープの巻かれた巨大な鉄くずが転がっている。

シュウはというと、いつの間にか上品な乗務員服を脱ぎ元のスーツ姿に戻ると顔をかくし護衛として駅を下りていった。

議員は彼が乗務員だったことに気付いていなかったようだ。

その様子がよほどおかしかったのかチェリがさんざん笑っている。

ひとしきり笑った後で、あーあとため息をつく。

「何も知らないのは、幸せだけど可哀想。教えないのは卑怯よね」

そんな独り言を呟くなら、フユ達も知りたいことは山ほど有る。

「僕たちも知らないことだらけだ。チェリもシュウもみんな説明してくれない」

不満をたらすと、チェリは口をとがらせた。

「そうね、でもそれはそれ。あの議員のこともそうだけど、これは仕方ないの」

「仕方ないってなにさ」

けんか腰の声に相手が怯む。

「フユ」

ナツが止めに入るほど、勢いに任せた言葉だった。

「怒る気持ちもわかるよ。それでも、君たちには申し訳ないけど、あたしからは何も言えない。女神にお伺いを立てなきゃ」

「なんでっ」

立ち上がったフユの顔を、革の手袋が撫でる。

「世界は変貌する。今という瞬間は分岐点を司るの」

優しい指の動きは冷気を纏うようで、興奮した頭を鎮めていく。

「あたし達はある分岐点に到達する必要がある。それには女神の導きが必要なの」

あたし一人では力不足なの、そう言って指は離れていった。


「チェリさん達のことがダメなら、十干代理のことぐらい教えてくれたって良いだろ」

アキの投げかけたその質問を歓迎するようにチェリはばっと両手を広げる。

「それぐらいなら良いよね!」

重荷から解放されたかのように口がよく動き出す。身体もよく動く。

「十干代理ってのはね、未来から来たロボット軍団なのよ」

突拍子もない端的な発言は、フユ達の思考を止める。

「なんでロボットなのかっていうと、ちょっと説明しにくいんだけど」

「未来から来たの方が理解しづらいのよ」

ナツがまっとうなことを言う。

「あらそう? そうだったかな。まあ、なんでロボットかって言うと、未来から人間を持ってくるのは難しいから。昔から……っていっても、未来の昔だから今ね。前から身体を用意しておいて、それに未来の人間の魂を移しているのよ」

早口で喋るうちに段々滑舌が怪しくなってくる。

「なんでわざわざそんな事を」

「新世界を作るため」

チェリは腕を組んで、敵意を少し表した。

「未来の不思議な技術は、今の技術では理解が及ばない魔術よ。それを使って、十干代理は自分たちの恐ろしさを示し、権力を示す。あとは、十干代理の望んでいるような、慎ましい輪廻の世界を作り上げるだけ」

いらだたしげにチェリは椅子に腰を下ろした。

「でも、その前に彼らには一つやり遂げなければならない事がある」

それこそが一筋の光だと言いたげに、人差し指を突き立てた。

しかし、その指は、彼女の唇を遮る。

「でも、今は言えない」

「そこまできて、なんでだよ」

「デリケートな問題なのよ。この弱点を知る人が増えれば、その分その弱点を突きにくくなるの」

ごめんねとふっくら下唇の隙間から犬歯が覗いた。

「アタシ達はフォルトナ。誰も運命の輪から逃れられないの。たとえ相手が未来人でもね」

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