二十七話 昆虫戦
超合金で出来た巨大昆虫はあごを左右に広げて威嚇する。
のこぎりの刃のようなぎざぎざは見ているだけでその冷たさを感じさせる。
そんな敵に臆することなく、チェリが立ち向かう。
軽やかな身のこなしで頭の脇を通り、足下をすり抜け、後ろに回る。
「のろまね!」
勝ち気な声で敵を煽る。
後ろまで行くと、尻の先から昆虫の上に乗り、背を駆け抜けていく。
腹と胴の境まで来た。足を振り上げると、かかと落としをお見舞いする。
頭に響くような金属のこすれ合う音がする。
「硬いわね」
反撃のつもりなのか虫が身体をひねった。
振り落とされそうに見えたが、チェリは飛び上がると宙返りで滞空時間を稼ぐ。
再度虫の背に足がつきそうになったときに、後ろから前へ蹴り上げるように身体をゆらしもう一回転。
「ああ、もう全然効かない」
靴に仕込みがしてあったようだ。かかととつま先でそれぞれ攻撃したようだが、金属のこすれる音が気分を害したぐらいで、敵方に被害が出ていない。
ついにチェリが振り落とされた。
後頭部を押さえるようにして着地の体勢は取っていたが、勢いはすさまじい。
慌てて駆けつけるフユ達の頭上で、金属の刃物はかちかちと鳴る。
「細切れダ」
空を向いてキイイと鳴いた。
正確には鳴き声ではなく、刃を振動させた音だ。電動のこぎりを彷彿とさせるあご。恐怖と同時に振動音が耳の感覚を奪いに来る。
「シュウ! カートを持ってきて」
わかったといってシュウは車内の乗務員カートを引き寄せる。
「君たちはこっちだ」
フユ達を呼び寄せ、カートの裏へと隠れさせた。
巨体を縮こませたシュウがそっとカート脇から敵の様子をうかがう。
真似をするようにフユもチェリの様子を見た。
腰のベルトから、黒い輪をはずした。一見太くて特殊な物だが、絶縁テープにも使えそうなよくあるビニールテープだ。
「こっからが本気よ。甘く見ないで」
挑発に乗った昆虫は、一直線にチェリの頭上へあごを降ろす。
チェリは馴染みの素早さでかわし、さっきのように尻側へ駆け抜ける。
一方昆虫はチェリにかわされ床を破ったあごがそのまま線路へ突き出してしまった。吸い込まれるように頭が車外へ出て行く。
「マズイ」
足の隙間をジグザグ縫うように走っていたチェリは、頭側に戻り、テープをぐるぐると虫の頭に巻き付ける。
ガキンガキンと足下から引きずられる昆虫の音が聞こえる。まだ昆虫は車両内だが、このまま昆虫が車外に持って行かれては脱線にも繋がる。
なんとしてもこの虫の暴走を止めなければいけない。
チェリは虫の胴に馬乗りになると、思い切りテープを引っ張った。
「必殺、蜘蛛の巣ぐるみ」
昆虫の頭が車内へ飛び戻ってきた。チェリはすかさず敵から下りるとまたテープを引き寄せる。
昆虫の巨体が宙に浮く。
その下を、その上を、素早く黒いテープが囲んでいく。
一足たりとも動けないまでに、分厚いテープでまるまるとくるまれてしまった。
敵の武器であるあごを使って、テープの端を切る。
「頭脳が壊れたみたいね。自走できそうにもないし」
ケンッと昆虫の頭を蹴る。反応はない。
「待って、今穴ふさいじゃうわ」
余ったテープで床の穴をふさぎ始める。
「せっかく用意してきたのに、特殊装備いらなかったな」
立ち上がったシュウがカートを叩く。
「だからって丸腰じゃ怖くて立ち向かえないわ」
ふふっと余裕の笑みを浮かべた。
「さて、じゃあ後部車両の議員さんのことはよろしくね」
フユ達を後部車両へと追いやると、バイバイと手を振っていた。




