二十六話 金の兄の妨害
派手さだけが目立つナンセンスな方のオジサンは口元を隠しながらぼそぼそと呟いている。
気味の悪さを感じているところに、乗務員が慌てた様子で飛び込んできた。
「大変です!前の車両で火が出た、出まひた」
混乱しているのか、舌が回っていない。大急ぎで後ろの車両へ逃げるように指示をする。
「君たちも早くこっちへ」
若い議員が両手を広げてブルドーザーがそうするようにフユ達を押し出す。
後部車両との連結部にさしかかるドアの手前で別の乗務員が立ちはだかった。
背の高い乗務員に向かい、若い議員は叫ぶように早口で指示した。
「君!前の寝台車両で火事だそうだ。この子達を安全なところへ」
「それは大変だ。議員の安全こそ優先です、子ども達のことも私にお任せください」
「僕のことは……」
「貴方様もそうですが、金の兄議員もお忘れ無く。あの方は足が悪い。まだ前の車両でしょう」
はっとした顔で若い議員の動きが少し止まった。
「金の兄議員」
振り返る彼に、安全確認が出来るまで部屋をお使いくださいと鍵を渡す。
「すまない、頼むよ」
相当混乱している様子でなんの疑いもなく鍵を受け取ると、フユ達を置いて後部車両へ向かった。
「どうするつもりですかシュウさん」
背の高い乗務員を見上げる。
乗務員は帽子を上げて不器用にウインクした。
「どうせぼや騒ぎは十干代理の仕組んだことだ。たいしたことじゃない。それにちょうど良いさ、金の兄議員を説得するにはあの人がいない方がわかりやすくていい」
車両に戻ると同じ場所に金の兄議員が座っていた。
あの若い議員のような慌てた様子は全くない。
机に両肘をついた不動の姿はひどく無機質で、その目は世界を恨むかのように虚空を睨んでいる。
「フォルトナの手先か」
「フォルトナ?」
聞き返すと、シュウが女神の率いる反社会組織の通称だと小さな声で補足してきた。
「そうよ。悪い?」
ナツが一歩前に出る。
「ああ、そうか。確かそれくらいの子どもだな。当然だ」
何がおかしいのか、かかっと笑う。
「そんな事より、火事らしいぞおじさん。逃げた方が良いぞ」
そういうアキだが、言っている本人がのんきそうな所に突っ込みをいれたくなる。
「そうだな、火事と、それから爆発があって、この車両は崩壊したことにしよう」
きいと椅子に座ったまま金の兄が後ろに下がる。机の下に隠れていたのは車いすだ。
「ポンコツの体には他の使い方もあってね」
スーツの下からシューシューと不気味な音が鳴る。
突然派手な色したズボンがはじけ飛んだ。中は肌色ではなく、くすんだ銀色の棒が姿を見せた。
昔持っていた超合金の変形ロボットのような音がして、ごり押しCGを使った映画のような光景が繰り広げられる。
呆気にとられて何も言えない。
その巨大な姿は明らかに質量保存の法則を無視した変身だ。
人間の形を破り、甲殻類か虫のような姿。長い六足の関節はきしみ、威圧感を増大させる。
動きを止め、轟音が収まった後、単調な鉄道の音がかえって静けさを演出した。
がらりと巨大昆虫の後ろで扉が開く。
「金の兄、アンタの作戦は失敗よ」
ぱんぱんと埃を落とすように両手を叩く。彼女の足下には先ほど慌てて前の車両から飛び出してきた乗務員が伸びている。
「列車の切り離しはさせないわ。後部車両の議員をちゃんと議事堂へ連れて行ってよ」
チェリがニッと笑っていた。
「それは出来ない相談ダ。私がギインになった意味が。サキに来た意味が無くなる」
変身で今までの声帯を失ったのか、質の悪い録音再生のような声が響く。
「そう、じゃあ私達が彼を連れて行くわ。アンタを潰してからになるでしょうね」




