十九話 女神の声が届く範囲で
車の後部座席には窓が無く、運転席を覗きでもしないと外の様子はわからない。
ただ、運転手の焦る様子から追っ手の取っているかも知れない行動が予測できる。
「くっそ、よりにもよって僕とザキじゃあ。逃げきる自信もねえし、行き先もねえ」
ハンドルを握りながら怒鳴るシュウ。
そうっすねと乾いた笑いが聞こえた。
「チェリとか、ハクとか、それこそ女神様に助けてもらうってのは無理なの?」
轟音に負けないようナツが叫んだ。
「それが出来たらいいんだが」
「無理なのさ、嬢ちゃん。オレたちはブラック企業の平社員。ぺーぺーの平社員。向こうから連絡とれてもこっちからはアクセス禁……」
後ろを向いたザキの顔が激しくぶれる。
少しの間舗装された道を進んでいたのだが、追っ手をまくために道を外れたらしい。
急ハンドルによる体勢の崩れから立て直すが、ぼんぼんと車体がはねて会話どころではない。
「ちくしょう、どこ行きゃいいんだよ」
悪態をついているシュウのハンドルを握る手に力が入っていく。
「とりあえず山越えでもします? 追い禁・はみ禁のほっそい崖道知ってますよ」
「いや、山はよくない。いつでも女神の声が聞こえる所にいるべきだ」
「はいはい、電波の都合ですね」
「そうだ」
何か考えがあるのか、急ハンドルを繰り返していく。
右により、左により、上下に突き動かされ、気分は最悪だ。
そんな時、雑音が響く。
「……えますか……宿命の……連れれ……」
「アイ様だ!? アイ様の声を拾ってる」
「うわ、マジか」
食い縛っていた顔をさらに苦い顔にしてシュウが返事をする。
「ザキ、代わりに出ろ」
「えーまじすか」
いいながら、ザキはダッシュボードに手を添える。
「こちら地上4。聞こえています。先ほど支部にいるところを上空から爆撃を受けたところです。ただ今追っ手と交戦中。宿命の人たちは今のところけがなど有りません」
「交戦はしてないぞ」
「良いじゃないですか先輩。早く救援が欲しいでしょ」
とザキが運転席を見たところで様子がおかしいことに気付いたようだ。
「さっきの声、先輩でしたか?」
「いや。僕は一言も話していないぞ」
後部座席を見た。
フユ達は総じて自分じゃないと首を横に振る。
「ハッキングだ」
慌ててザキがダッシュボードから手を放す。
「あのアホどもめ」
シュウが悪態をついた。
「あーあ、元もとこれあいつらの車ですもんね。回線は奴らの方式で通っていて当然だ。ハッキングしていたのはむしろアイ様か」
「最悪だ」
ばうんと車体が持ち上がる。ひっくり返るかと思ったが、後ろでの爆音に驚いている内に車は元の体勢に戻った。
「せめて避難場所に女神の城ぐらい聞かせて欲しかった」
「まったくです。ってそれじゃ駄目でしょ。女神の場所があいつらにばれちゃう」
そうだなと荒んだ返事が返ってきた。




