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十六話 偵察機を捕まえたのは誰

扉の向こうは完全なる闇だった。

来るときに通った闇の迷宮。

手元の地図を見るといくつか分岐が有り複雑な迷路をこの闇が隠しているらしいことがわかる。

立ちすくんでいると左手首を掴まれた。

相手の手の温かさが恐怖よりも安堵を呼び寄せる。

見るとチェリが微笑んでいる。

「行くよ」

彼女と共に足を踏み出すと、手元の紙にぼんやりと輝く赤い玉が発生した。


地図に現れた赤丸は現在地のようだ。

腕を引く彼女はすいすいと迷宮を迷い無く進む。

この辺りは地図が完璧に描かれているようで、円形になっている無限回廊や行き止まりには騙されない。

チェリは右手にフユの手を、左手にハクの手をとり二人を導いている。

彼女は手に地図を持たないのに確かに地図通り進んでいる。

この迷宮に入る前に地図を見ていたのでその隙にルートを憶えたとすればたいした記憶能力だが、それが可能なほど彼女が頭良さそうには見えない。

人を見かけだけで判断するのはナンセンスだとわかってはいるが、どうも納得いかない。それに、迷い無くルートを歩むことに関してはもう一つの団体、ハルとナツについても成功している。

ナツは地図を読むのが苦手だった。 社会研修でナツこと夏目に進行方向を任せていたとき、同じ所をぐるぐる回ったのも記憶に残っている。

それが迷うことなく、あっさり後ろをついてくる音がするのはおかしい。

おかしいと言えば、あのフルフェイスマスク。ナンセンスだ。潔すぎるほど派手だ。

どんなバイク乗りでも着こなすのは難しそうなヘルメットだ。

……うらやましくないわけでもない。


ある程度進んだところで、あっと声が目の前で上がり、歩調が遅くなって、やがて立ち止まった。

「どうした」

「道がない。この地図途中なんだけど?」

チェリにたいし、ハクがああと思いだしたように答える。

「お前、来る途中に偵察機拾っただろ。放せ」

ぎゃあとハクが叫びを上げた。

「僕の手を放せと誰が言った! 見えないんだぞ、ふざけるな」

「じゃあ何を放すのよ」

「これくらいの楕円形の宙に浮いた黒い物体を拾ったろ?」

残念ながらこの暗闇の中ではフユには彼のジェスチャーなど伝わらない。けれど、チェリは思い当たる物があったようで、少し声を張り上げる。

「ナツ、来るときなんか拾っていたよね」

うんと後ろから反応がある。

「ちょうど目の高さを飛んでてうざいから捕まえてポケットに入れてた」

ブーンと羽むきだしの携帯扇風機を近づけるような音が聞こえ始めた。それは移動しているらしく、後ろから前へと飛び去っていく。

「ナツか。お前な……本当に、お前な……なんてことしてくれた」

ため息が辛気くさい。

「いいでしょ。通常運転で。下手なことをした訳じゃないんだから良いじゃない」

朗らかな声がさっきのため息を打ち消す。

「チェリ、間違えてすまなかったな」

「もっと真剣な謝罪を要求します」

またもやハクの叫び声が聞こえた。

チェリが手を放したのだろう。すまないすまないと連呼する声が聞こえてくるのがどうしようもなく情けなかった。


その後、偵察機は何度か道を間違ったものの、チェリとハクの的確な判断と偵察機の呼び戻しでタイムロスは極端に抑えることが出来た。

「ここは二番目が正解」とか「四回呼び戻してから」とか、口に出ていた基準が道を憶えている人の発言ではなかったのが少し気になる。

そうこうしているうちに、階段を上り始めた。

この階段は博物館の隠し階段だと確信したとき緊張がふっとゆるまった。

ぎいと天井が動き光が漏れる。

蛍光灯の光は机の影に遮られ直接的に届かないのは幸いだった。

階段を上りきっても無理をせず目が慣れるまで机の下で待機する。

そこがあの施設唯一の出入り口であることや、ここが適地でどんなに危険な場所かはどうでもよかった。

あの暗闇の中にいては気が変になる。

今は最高に開放的な気分だ。

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