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十五話 助けが来た

「ヘイ!」

かすれたようなわざとらしい小声が聞こえた。

振り返ると、ガラス張りの通路に見覚え有るポニーテールの女性が手を振っている。

サングラスと黒いスーツの彼女はチェリだ。後ろには迷路ではぐれたハルと、なぜかフルフェイスヘルメットを被ったナツまでいる。アキの姿は見あたらない。

彼女たちを確認したハクは顔をそらすと、元のようにコップの中身を箸でつつきだした。

その振る舞いにチェリはいくらか怒った様子を見せる。

ガラスに手をついて、ドアノブをひねるように回す。

すると手の動きに遅れて、赤白く輝く線が手のひらの外を走り綺麗な円を描く。

チェリが手を引くと吸い付くようにガラス片は外へと持って行かれる。

そのガラス片はほいほいと投げられ、ナツとハルが受け取る。

最期に手のひらサイズの丸で囲まれた150cmほどのガラスを両手で押し割った。

室内に倒れてくるわけではなく、チェリが手のひらに人型サイズのガラス片を貼り付けながら室内に入ってくる。

「あなた、なにやってんの」

手のひらから外れたガラス片を立てかけながら、ダサイ格好をしたハクに詰問口調で尋ねる。

「リンゴを食べているんだ」

コップの中から白い欠片を取りだしてみせる。昼飯に出てきたお茶には葉っぱくずとよくわからない、まあ少し甘みのある、さいの目切りの破片が入っていた。

フユの記憶が正しければ、ハクはこれをドライフルーツと認識していた。

「ハク博士? 私の経験が正しければそれは食用じゃないわ」

「食べるか?」

「誰がそんな味が抜けた、ただのふやけた繊維なんて食べるか!」

それまでこそこそと悪巧みのように声を潜めていたチェリが激怒した。

自分の声の大きさに驚いた様子で、慌てて口を覆う。

目を泳がせるどころか、頭まで少し左右に動く。

そして彼女が右奥、ハクの机の方を見たとき、その動作は止まった。

「あなた、もしかして……捕まっている間も研究していたとか言わないわよね」

コップを置いてそれとなく紙束を持つ。

「研究は進まないさ。思考実験を繰り返していただけ」

「おばか!」

今度も大きな声だ。

「あんたの知っていることをあいつらに知られたら本当に負けなのよ?」

「わかっている。だから待遇がよかったし、だだこねたらこの部屋を手配できた」

「このわからずや」

「わかっていたと言っている」

「わかっていた奴がメモなんか残すか!」

「わかっていたから暗号化されている。そんなことより開発が遅れることこそあいつは望んでいない」

話の通じない相手にあーと頭を抱える。

「痕跡は?」

「消せる」

「カメラは?」

「後からごまかす」

「OK。もういい。お説教は女神様から聞いて」

「そう言うが、どうせまたアイの小言か」

女神は指摘とか苦手そうだからそうなるかもねと苦笑いしながら同じガラス穴を通り通路へ飛び降りた。

「さ、脱出するぞ」

フユもハクに続く。

廊下に降りたとき、ハルが近づいてきた。

「ハルも無事だったんだ」

「フユくんも。よかった」

そのやりとりの後、何を話せばいいのかわからず、悩んでいる内に先行が走り出す。

おいていかれないように走るので精一杯だった。

音もなく走るチェリの脇でぱたぱた走る中学生と、数十mしか走っていないのにどんどん鈍くなるハク。

扉の前で止まる。

「こ、これが、ちず、で」

息を切らせながら紙束から一枚引き出す。

「同期するわ」

チェリが地図を受け取りサングラスに手をかける。

はずすのかと思ったが、触っただけだった。

「返す。ありがと」

地図をハクに渡すが、その地図がそのままフユの方へ来た。

それから赤くて派手なフルフェイスメットを被ったナツの頭に触れると、こめかみ辺りにあるボタンを押した。

「わ、なにこれ」

虚空を手でひっかいている。

「表示されたみたいね」

にこりと口元が笑う。

「それじゃ、逃げよう」

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