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十三話 とらわれの出会い

ガラス越しに見える世界はパステルカラーの薄緑で、目に優しいのか眩しいのだかよくわからない。

だがそのガラス越しに見える無機質な廊下は間違いなく、先ほどまでキノトとか言う輩に連れられて歩いた廊下だった。


昔行った動物園でガラス越しにパンダを見たのを何となく憶えている。

人のいない動物園をパンダの側から見ればこんな感じなのだろうかとあまりの人気のなさを寂しく感じる。

「少年。そのガラス、汚いからはり付くのはよせ」

べちゃりと両手両足、額と頬と唇とを押しつけていたのだが、後ろから不機嫌そうな声が聞こえてきた。

ちらりと目をやると、不健康そうなひげもじゃの兄さんが相変わらず机に向かって紙を辺りに書き散らしている。

この男はフユがこの部屋に入ってきたときからずっと姿勢も変えずに虚ろな顔で何かごちゃごちゃ書いている。

「きこえているのか」

机に向かったまま独り言のようにも見えるが、声の大きさとしてはフユに忠告しているのだろう。

「それ、僕に言ってんの?」

ガラスから手と顔を放して、若い男の方を向く。

すると、やっと相手もフユの顔を見た。眼鏡をかけた目は、白目がオレンジ色に万遍なく充血していて、疲労のせいか隈と言うより落ちくぼんでいる。

無精ひげを何日も延ばし続けたらできあがりそうな無秩序な口元は後ろめたさを隠すように左手で隠している。その手の下から、顔に似合わない若い声が発せられる。

「お前に言わず誰に言うんだ」

「独り言かと思った」

独り言かと男は自嘲気味に笑った。

「おっさんは何しているんだ?」

近くによって手元を覗いてみる。数式みたいな記号が並んでいるけれど、英文のような気もする。所々日本語も書き散らかしてあるけれど、あまりの字の汚さに呆れた。フユも字が綺麗ではないが、ここまで雑じゃない。

だいいち、こんな白紙に無秩序に書き殴らない。

字が汚いのを見下していることを悟ったのか、男は握っていた粗末なボールペンをいったん置いた。

「助けを待っている」

姿勢を直して言うほどでもない格好悪い答えだった。

「僕は脱出を計っているが、外の手伝い無しにはいくらか難しい。君も通っただろあの暗闇の回廊を」

博物館の地下から暗闇を通ってこの明るい場所に連れてこられたのは憶えている。

「あの回廊は方向感覚を惑わすための坂やさりげないカーブ、分岐点が仕組まれている。君は運良くここにたどり着いたが、ハルとははぐれたままだろ」

「そうだ、ハルが!」

しまった。と辺りを見回したところでどうすることも出来ない。

すっかり忘れていた。ハルと共に暗闇の回廊に入り、姿が見えないのは初めからだが、途中から気配を感じなくなってしまった。

一本道だと思い込んでいたこともあり、それほど危機感を感じていなかったが分岐点があると聞きいくらか焦りを感じる。


「君は見たろう。木の弟が持っているお面を。脱出にはあの幹部の持っている暗視ゴーグルと地図。あるいはその代用品が必要だ」

目の前の男が何を言っていても受け付けられないほどハルの心配で頭がいっぱいになる。

「おい、聞いているのか」

意識を戻すと、充血した目がぼんやりとフユを見ている。

「すみません。聞いていませんでした」

フユの返事にもういいやと腕を組んでため息をつく。

「僕はハクだ。君たちのことは、そうだな、チェリから聞いている」

そこでやっとこのハクと名乗る男が何も言う前からハルの事を知っていたことに違和感を抱いた。

「心配はいらない。予定が狂ったように感じているだろうが、ハルもチェリも大丈夫だ。君も来たことだし、そう時間はかからないはずだ」

「どういう意味?」

ハクは片眉をつり上げて答える。

「宿命の人というのは、定めを宿す、いわばフラグみたいなもんだ」

ハクがどんな意味で言ったのか問いただす暇もなく、ガラス張りの牢屋に食事が運ばれた。


おにぎりと、野菜みたいなくずの入ったお茶らしき物と、それからなぜか双眼鏡に耳当てを付けたようなゴーグルがお盆に載っている。

「食べて昼寝でもするとしよう。少し頭を使いすぎた」

んーっと伸びをして、それから立ち上がると気怠げによたよた歩いてくる。

「このゴーグル、なんですか?」

「かけてくれるなよ。好き嫌いの我慢できない奴が使う馬鹿になる機械だ。かけたら洗脳されるぞ」

雑な脅し文句をたれながら、もしゃもしゃと大きなにぎりめしをほおばる。見ているとどうも塩握りらしい。

「じゃあ、このお茶はなんですか?」

「知らないけど、お茶だ。リンゴの乾かしたのとかが入っているやつだ」

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