第6Q 即席ゾーンディフェンス
試合があっているコートの外、得点板と反対の位置に二人の女子生徒がいた。
「…とまぁスコアのつけ方は大体こんな感じ。中学ん時とあんま変わんないでしょう?希美ちゃん?」
手に試合記録を記すスコアブックとシャーペンを持った女生徒が聞くと
「そーですね。言うほど変わりようが無いものですから、大丈夫ですよ、七海先輩」
そばでそれを見ていたもう一人の生徒が元気よく答えていた。
「まぁ普段の練習の時はドリンク作ったりするだけだから楽っちゃ楽なんだけど、こういった試合とかの時はいろいろやることが増えるから大変なのよね~。どお?続けれそう?」
「それは大丈夫です。それに大変なのは初めっから分かってましたから」
その返事に七海は
「助かるわぁ~。今までっていうかこの一年間、一人だったから大変で。期待しているぞ!菊池 希美!」
敬礼の真似ごとをして言うと、返す敬礼で
「期待に応えられるよう、頑張りますです!佐藤 七海先輩!」
二人して笑いながら、マネージャーに関する様々なことを話していた。
そして、選考戦の方は、一日目最後の試合となっていた。
対戦カードはDチーム対Eチーム。
「宮さんキャプテンと山ちゃん副キャプテンの試合かぁ」
健司が目を細めコートを見るのを見て
「あの二人、なんかあるんですか?前川さん」
「いや、なんもねぇ…。なんだよ?横山」
なんでも無い。その答えに思わず横目を向けてしまう横山だった。
「でもよ、横山。お前、前の試合で山ちゃん副キャプテンのチームがしてたディフェンス、覚えてっか?」
その問いかけに答えたのは横山ではなく、同チームの桐山だった。
「確かハーフコート2-1-2ゾーンディフェンス、でしたね」
そうだと頷くと、健司は続きを促す。
「ゾーンディフェンスってのは人を守るマンツーマンと違い、場所を守るディフェンスです。故にある程度守り方にパターンがあり、言ってしまえば、知っていれば出来る守備、ですね。今回の場合は。経験者なら尚更に」
後ろから聞いていた森下が間に入り
「でも逆言えば、そのパターンさえ崩せば圧倒的オフェンスの有利になるってことだ。そんでもってよ、守るにも攻めるにも、この場合ぜってぇ必要なもんがあるなぁ!そいつは…」
コートを見る。Eチームがボールをハーフコートまで運んできたところだった。そして今まさに、森下の言う必要なものが表に出てき始めていた。
森下はニヤリとでもいうように腕を組み言った。
「コミニケーションだ!」
その時、周りにいた誰もが思った。
「(コミュニケーションね)」
コート上には声があった。
味方やボールの位置、また見えないところでの相手の動きを知らせる、そんな声だ。
ボールを持つEチームにも、リングを守るDチームにも、その両方に声はあった。
しかし、攻めるEチームは台形近くまでは行けるものの、そこから先へは攻めあぐねていた。中で攻められないEチームは、結果的に外のシュートをうつ。
シュートを外した水谷は、ディフェンスに戻りながら
「思った以上に堅いっすね、宮地さん」
「あぁ、連携も取れていて、良いディフェンスだ。だが…」
ディフェンスに戻った宮地は一度全員とアイコンタクトを取り、静かに言った。
「次で崩す!」
その近くのサイドライン付近では、春と新橋が試合を見ていた。
「今の聞こえたか?春」
「うん、聞こえたよ。バッチャン」
二人は一度向き合い、そしてなおり、新橋が言う。
「宮さんが言うと、ホントにしそうだもんなぁ」
それに春は苦笑しつつ
「確かにそれはあるね。やってみてどうだった?あのディフェンス。負けたけど」
「負けたとか言うなよぉ、負けたけど。と、まぁ実際崩せないことはないんだけどさ、山下さんが…なぁ。あの人のヘルプが上手すぎてなかなか攻め切れないんだよなぁ」
「さすがは副キャプテンって感じ?」
「だからってわけじゃないけど、でも、宮地さんがあれをどう崩すのかは、かなり興味あるなぁ」
コートでは、再び攻守が入れ替わり、ディフェンス側ではもう既に、ゾーンが展開されていた。