第4Q 開始!
一時間後。入り口側コート上には既に第一試合の選手たちが並んでいた。
「…にしても初っ端から春が相手かぁ」
「なんだ前川、ビビってんのか?」
健司のつぶやきを拾ったのは、この体育館内で最も体つきの良い、肌黒い男だった。
「そんなことないっすよ森下さん。ただ…」
「ただ、なんだよ?」
「こないだのジュースの借りをかいさねぇとなぁって」
言いながら健司は、バッシュの裏を手で拭き、まっすぐに相手を見据えた。
一方のチームは円を描き座っていた。
「…んじゃ最初はそんな感じでやって、後後は臨機応変にやってく感じでいっかな?」
話をしていたのは、先ほど達也と呼ばれた生徒だった。対し周りは頷きを作り立ちあがった。
「んじゃ春、とりあえずお前が引っ張ってけ」
春がわかりましたと答え、そこに顧問が体育館に入ってきた。
「Aチーム、Bチームは整列!」
顧問がセンターサークルに来ると同時に両チームが整列した。
Aチーム
森下 一樹 三年 C
池尾 大地 三年 PF
前川 健司 二年 SF
桐山 翔太 一年 PG
横山 和也 一年 PG
Bチーム
東郷 達也 三年 PG
一ノ瀬 春 二年 SG
日下部 純 二年 PF
里見 拓 一年 SF
米原 大和 一年 C
「これより、第一試合を始める。礼!」
「「おねがいっしゃす!」」
センターサークルの中に二人、そして周りを八人が取り囲んだ。
ボールが宙に上がり最高点に達したところで弾かれる。いや、落とされる。
ジャンプボールを制したのはAチームだった。
対するBチームのディフェンスはワンツーマンだった。
一年桐山、横山のツーガードには同じ一年の里見と米原を、前川には同じ二年一ノ瀬が付き、池尾には東郷が、森下にはチーム一高い日下部がつく。
そのマッチアップを外から見ていた女子バスケ部キャプテン、白石は隣にいた宮地に
「どう思う?このマッチアップ」
コートを見たまま疑問する。その答えは、妥当だと言う面白くもないものだった。
「おそらく攻守が変わってもこのマッチアップだろうな。お前だってこうするだろう?」
「そー言われれば、まぁそーなんだけどねぇ」
つまらなそうに試合を見ると、攻守が変わっていた。マッチアップは宮地の言う通り、変わっていなかった。ただ…
「達也君じゃなくて、一ノ瀬君がボールを運んでる?」
バスケットボールには大まかに五つのポジションがある。
コート上の監督、司令塔と呼ばれるPG、外から得点を取ることを主とするSG、オフェンスの要となるSF、ゴール付近でのプレイやリバウンドに努めるPF、そしてゴールしたの絶対的存在のC。
それぞれの選手がそれぞれの役割を持ち、うまく機能することで、一つ一つのプレイが動き、より多くの得点へとつながっていく。
しかし、本来PGのポジションとされるところにいたのは、PGの東郷ではなく、SGの一ノ瀬だった。
「…達也お前、楽したかっただけだろ」
マッチアップについていた池尾の言葉に東郷は笑いながら
「人聞き悪いなぁ大ちゃんは。そんなわけないじゃんよ。それに…」
言いながら一度中に押し込み、外に開いてボールを受け取る。
そこから流れるようにシュートモーションには入り…放つ。
「っ!!」
指先から離れたボールは高く弧を描き、リングへと吸い込まれた。
「…その分点取りゃ良いじゃん?」
「こいつ…!!」
「ドンマイな、池尾」
背を叩いてきたのは森下だった。二人はボールから目を離さずに
「わかってるよ、一樹。まだ始まったばかりだしな」
「おうよ。チームメイトだからって遠慮はいらねぇ!」
桐山、前川とつながってきたボールに対し、森下が台形の下の方、左側のローポストでポジションを取った。リングを背にしてボールを受け取った森下は、一度左に行くそぶりを見せた後、右側へと体を滑り込ませた。そのままゴール下へと入り込んだ勢いでシュートまで持っていくが、そこには日下部の手があった。がしかし、その手を物ともせず、パワーでシュートを決めた。
「よっしゃ、森下さんっ!」
「おうよ、前川!」
差し出された手を思いっきり叩いて森下は言った。
「おっし、ここ止めんぞ!お前ら!」
その言葉とプレイに、一年二人の緊張もいくらか解けたようだった。
「相変わらず一樹はごっついな」
スローインを出しながら言う達也に答えるのは
「あのパワーは間違いなくチーム1ですからね」
パスを受け取った春だった。彼もまた笑いながら
「でも、勝ちは譲れませんよね」
ドリブルと共に進みだした。