第3Q 選考戦
体験入部期間が終わり、ほとんどの部活が大会やコンクールに向けて本格的に活動を始めた。そのためか、少しばかり浮ついていた空気も今ではすっかり収まって、生徒たちは勉強に部活にと、あわただしい日々を迎えようとしていた。
そんな仮入部期間が終わった最初の土曜日。藤咲高校バスケットボール部の部員、新一年を含む全員が第二体育館へと集まっていた。彼らは入口を背にするように半円を描いて座っていた。そんな彼らの視線の先には一人の女性が立っていた。
黒く長い髪で、ピシっという音が聞こえてきそうなほど姿勢の良い女性だ。
彼女は腕を組み、全員を見渡し言い放った。それは…
「本題に入る前に軽く自己紹介でもしておこう。私がバスケ部顧問を務める如月だ。如月先生と呼ぶように、いいな!」
まばらな拍手が起きたが、彼女はそれを気に留めることもなく
「それでは本題に入る。今日明日の二日間を使い、ベンチメンバー及びスタメンを決める選考戦を行う」
その言葉に対して二つの反応があった。一つは驚きだ。事前に知らされてなかったため当然のことだが、このことを知らなかった生徒や一年生が示した反応だった。もう一つは頷きだった。二度経験している三年はもちろん、これを予測していた生徒が示した反応だった。
しかし彼女はその反応を無視して言葉を続けた。
「チームや対戦表は入口付近の壁に貼ってある。ゲームのルールについては男女各キャプテンから聞け。質問はあるか?」
もう一度全員を見渡し質問がないことを確認した彼女は、最後にと声を作った。
「これはレクレーションなんかじゃない。学年関係なしに実力を測る試合だ。一年がベンチに入ることもあれば、三年が入れないこともある。覚えておけ!」
組んでいた腕を解き、一呼吸置いた彼女は
「開始は一時間後の10時からだ。各自しっかりアップをしておくように。以上だ、解散」
そう言って、体育館を後にした。
●
解散を言い渡された部員たちは、しかしその場を動かなかった。
「んじゃ宮、ちっと説明してくんね?今回のルール」
眠たそうな目をした生徒が言った。それに答えるように立ちあがった生徒は先ほどまで顧問がいた場に立ち
「元からそのつもりだ、達也」
彼は数秒の間をもって話し始めた。
「まず始めに自分が男子バスケ部のキャプテンの宮地だ。そしてこっちが…」
隣に来ていた女子生徒を示し、しかしセリフは奪われ
「女子の方のキャプテン、白石よ、よろしく」
彼女は言い終えると同時に目で続けろと訴え、それを察したのか彼は言葉を続けた。
「今回のセレクションだが、あまり例年と変わらない。八分の2Q制でタイマーは流し。クォーターの間は四分、試合間は10分のブレイクタイムを取る。試合を行うのは入口側コートで、中央のコートは次の試合のチームがアップに優先的に使えることとする。ここまではいいな?」
全員が頷いた。そして引き継ぐように白石が話す。
「今までと違うのは、まぁ女子の方だけなんだけど、試合の…なんていうの?行い方?まぁいいわ。去年までは総当たり戦だったんだけど今年はトーナメント形式なのよねぇ。人数の関係でね」
そこまで言うと女生徒が一人手をあげた。
「あかね先輩!それって一回負けたらもう試合できないんですか?」
どうやら同じことを思っていた部員は多いらしく少しざわついた。しかし手を鳴らし静かにさせると
「良い質問ね、優里。でもそこは大丈夫、最低2試合はできるようになってるから!でも口で言うのは面倒だから後で表でも見といて。これでいい?」
「はい、オッケーです」
頷く部員たちを見て両キャプテンはまとめに入るべく声を発する。
「各自自分のチームのメンバーを確認してアップに入ること。以上だ」
その言葉に部員たちは立ち上がり、チームの確認へと足を運んで行った。
今年度最初の選考戦が始まろうとしていた。