第2Q 藤崎高校バスケットボール部
時計の針はてっぺんを少し回ったころ、春は健司と共に体育館の方へと向かっていた。基本的にバスケ部が日ごろ練習をしている第二体育館だ。
各学年に15クラスあり、前項生徒数が裕に1000人を超える私立藤咲高校は、その敷地の大きさもさることながら体育館だけでなく野球場、サッカーグラウンドすらも二面持っていた。
昼食を教室で済ませた二人は学校指定の鞄を持ち、練習着に着替えるべくして部室へと向かっていた。
「そーいや今日からだっけ?一年の体験入部期間」
途中、廊下からグラウンドのほうを見ながら確認を取るように健司が言う。やはり春もまたグラウンドの方を見ながら答える。
「うん、今日から一週間。まぁあくまで体験入部だから」
「つーことは今日から一週間は練習が楽になるな」
ほんとに嬉しそうな顔で言う健司に対し、春はでも…と声を作り、続けた。
「それが終わった次の日からは大事だと思うよ。…覚えてる?去年のこと」
「なんかあったっけ?」
「体験入部明け最初の土日。たぶんあると思うよ。ベンチ入りメンバーを決める総当たり戦が」
それを聞いていた健司はこちらを見て言った。
「総当たり戦かぁ。そーいやあったな。でもよ、やっぱ狙うなら…」
その先の言葉に春もまた自らの声を重ねる。その口元は両の端を持ち上げ
「レギュラー!」
笑っていた。
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第二体育館にはすでに多くの人がいた。三面あるバスケットコートの一番奥ステージ側にはバドミントン部がいて、中央には女子バスケ部、そして一番手前入口側には男子バスケ部がいた。
そしてどのコートでも見られる光景は同じだった。軽くボールを触ったり、談笑している上級生に対し、新入生はコートの端のほうで固まっていた。
「やっぱり一年生固まっちゃってるわね…二重の意味で」
入り口を入ってすぐの場所で、少し色の抜けた髪をポニーテールにした女が言う。女子のほうを見て言った彼女は男子の方も見て
「こーゆーの苦手なのよね~。集まられると話しかけづらいっていうか」
そう言う彼女の横でバッシュのひもを結んでいた男が口を開く。
「しかし話しかけないわけにもいかないだろう?キャプテンなんだからな、白石は」
白石と呼ばれた彼女は、今度は男を見て
「宮だってキャプテンじゃない。話かけなくていいの?」
一年生の方に一度目を向けた彼は、立った今入ってきた二年の部員を呼んで言った。
「新橋、一年に話しかけて打ち解けてこい」
呼び止められた部員は少しばかり抵抗したようだが、部長命令の前にとうとう屈したらしく、同学年の何人かを巻き込んで一年のもとへと行った。
それを一部始終見ていた白石は
「何よそれ…」
とため息を残して女子バスケ部の方へと行ったが、後から二年の女子バスケ部員が一年生のところに向かったのを見ると、同じことをしたのだろう。
それから数十分後には全部員が集まり、体験入部生を交えた練習が開始された。