第二章 【008】
【008】
――放課後。
俺は、「遊馬の妨害」と「高志のちょっかい」を掻い潜り、舞園利恵と学校を後にした。
と、その前に。お昼休み――高志から俺は舞園利恵についていろいろと教えられた。
「なぁ、お前……本当に知り合いじゃないのかよ?」
「だから言ったろ? 初対面だって」
「本当かい? 零時、ウソはいけないよ」
「本当だって! ウソなんてついてねーよ」
「じゃあお前……舞園利恵が一年男子でどういう存在なのかってのも知らねーのか?」
「し、知らねーよ、何だよ、あの子なんかあんのか?」
俺は、舞園が朝、言っていた「霊に取り憑かれている」という話を聞いていたので、高志の言葉を聞いて、もしかしたら何かあるのか? と思い聞き返した。
「あるどころじゃねーよ! 舞園利恵……ヤツのバストはなんと93だっ!」
「……(全力で)はっ?」
「93だぞっ! 93cm! 信じられるか? あんな小柄な、しかも顔なんてお前……『守ってください』って、いかにも言ってそうな顔して胸が『93』あるなんてよ!」
「……別に、顔と胸は関係ねーだろ。それに胸なんて別に……」
「高志にしては良いこと言うね。確かに! あの胸は『規格外』だ」
お前もか、遊馬。
「だろう? 遊馬」
「ああ。あれは『魔性の女』だね、きっと。いや、間違いない。零時、気をつけて。あの子の胸に騙されないで!」
「別に、胸にも何にも騙されてねーよ」
「しかし、お前、いいな~、舞園利恵と知り合いになるなんて。俺たち一年男子の中じゃ『マドンナ候補』の一人だぞ」
「マドンナ候補?」
「おお。この学校って、毎年、秋の『学園祭』で「各学年ごとのマドンナ」と「全学年総合のマドンナ」を選ぶらしいんだよ」
「へぇ~」
「ふん、くだらない」
遊馬は、ただただふてくされていた。
何となくはわかるが、そこはあえて触れないでおこう。
「だから俺とかクラスの男子はけっこう今の内からいろいろとチェックしてるんだよ」
「へ~、知らなかったな~」
「まあ、お前に声をかけるヤツなんてあまりいねーからな。とりあえず、そういうことに詳しいヤツが同じクラスにいるから今度機会があったら紹介するわ」
「べ、別にいいって。俺、話するのは男子も女子も苦手だし……」
「そうだよ、高志。別にそんなしょうもないヤツ紹介しなくていいよ」
「いや、俺はそこまで言ってねーよ……遊馬」
そんな感じでお昼にいろいろと舞園利恵についての情報をもらった。
まあ、結局「胸が93cm」と「マドンナ候補」というくらいしかわからなかったが。
「どうしたの? 零時くん。何か疲れてるように見えるけど……」
「あ、いや別に……たいしたことじゃ、ない、か、ら」
そう尋ねる舞園を見たとき、つい胸に目が行ってしまい、少し動揺した。
「んっ? 何?」
「あ、いや、別に……と、ところで例の朝の話……」
俺は動揺を隠すべく、今朝の話のことについて切り出した。
「ああ、うん。そうだね……ねぇ、零時くん、あの公園で話しよ?」
舞園はそう言うと、「丘の上公園」を指差した。
「丘の上公園」――それは、俺たちの学校近くにある公園でこの町の丘の上にある公園だ……まさに「読んで字のごとく」である。
学校もその「丘の上」に建っており、その公園は学校から少し離れてはいるが割りと近いところにあった。ちょうど「下校時に使う通り沿い」という「立地条件」もあって俺たちはその公園に向かった。
――ブランコに腰掛けた舞園は話を始めた。
「零時くん、わたしね……ブランコ実は初めてなんだ」
「……へっ?」
「わたしブランコってさ、小さい頃、怖くて乗れなかったの。でも今は特に何とも無いから、何だか大人になった気分。へへへ」
零時は、そんな舞園のいっけん笑顔で話しているようで、その実、不安を隠しているような顔を見て思った。
「舞園理恵は何かを抱えている」……と。
《そうだな、まず間違いないな》
シッダールタ。
《とりあえず話を聞いてから……というところだな》
すると、舞園利恵はふいに話し始めた。
「わたしね、零時くん。今朝、言った通り『幽霊に取り憑かれている』みたいなの」
「幽霊?」
「うん。幽霊。その幽霊はいつも寝てるときに『夢の中』で話しかけてくるの」
「ん? 夢の中で?」
俺は、ふと『どこかで聞いたことあるような話』に感じた。
《そうだな、どっかで聞いたことのある話だな》
おい。
ま、まさかだよな?
《ああ、そんなわけないだろう。『転生の術式』で転生したのはワタシしかいないはずだ》
んっ? いない『はず』? その根拠は?
《無い。ワタシがそう思うだけだ》
ああ、そうか。お前はちょっとバカだったよな……忘れてたわ。
《おい! お前、ちょっと失礼だぞ!》
と、シッダールタが俺につっかかってきたタイミングで、
「ねえ、零時くん、話聞いている?」
と、舞園が声をかけた。
「あ、ああ。ちゃんと聞いているよ」
俺は、何となく『嫌な予感』をしつつ、舞園の話の続きを聞いた。
「昨日もそうだけど、毎日、寝てると夢に出てくる『女の人』が……」
「女の人? 女性なのか?」
「うん。それでね、その女の人が『探して! みつけて!』って何度も言ってくるの」
「何を?」
「詳しくはよくわからない……けど、何か『人を探している』みたいだった」
「人を探してる?」
「うん。『天界がどうとか……』」
「!?」
《!?》
シッダールタ!
《ああ、気配を消しているからわからんが、おそらく『魔界の悪魔』の可能性が高い》
悪魔が取り憑いているってこと?
《わからん、あくまで可能性の話だがな。しかし『妙』だ》
『妙』?
《ああ。もし悪魔なら別に隠れる必要は無いからな。何か『企み』があるのかもしれん》
『企み』?
《もし、そんな『企み』ができるような悪魔だとしたら、『下級悪魔』ではなく『上級悪魔』の可能性はあるな》
『上級悪魔?』
《ああ。まあ細かい話はあとから説明するが、そうだとしたら『ちょっとやっかいな相手』ってことだ》
「……」
「それは、いつ頃からだ?」
「ちょうど……一週間くらい前かな?」
「一週間前……」
ちょうど、あの「通り魔事件」のときと一致する。やっぱり……。
「舞園。今、ここに、その……『幽霊』は出せるのか?」
「ううん、無理。夢の中以外は出てこないの」
「いつも夢の中だけ?」
「うん」
何というか……何となくというか……『違和感』を感じる。
「で、舞園はどうしたいんだ? その『幽霊』を追っ払いたいってことか?」
「う、うん。それもあるけど、でも、その『幽霊さん』、最初は頭の中に『声』が聴こえたりして、ただ怖かっただけだったけど、今はそんな嫌な感じはなくて……できれば、その『幽霊さん』の願いを叶えてあげたいっていうか」
「はあ~?『幽霊の願い』を叶える~?」
「う、うん。何だかすごい『切実な感じ』がわかるの。だから……」
「う~ん」
――てことだ。どうなんだ?
《うーむ……まだ今の話を聞く限りでは判断のしようがないので何とも言えない》
だよな。
《そこで、だ。今夜、この娘の家に行って実際にその娘の『夢の中』に侵入して正体を暴こう!》
「はぁ~?!」
俺はつい、声に出してしまった。
「きゃっ! ど、どうしたの? 零時くん」
「す、すまん。何でもない」
お、おい! マジかよ!
《ああ、大マジだ。確認するなら早いほうがいい》
ウ、ウソだろ……俺、女の子の部屋に上がったことなんてないぞ。
《ワタシだって無い。だから楽しみだ!》
おい……お前、まさか……それが『目的』じゃないよ、な?
《あ、当たり前だろ? そ、そんな理由で言っているのではない。決して!》
ああ……そう(棒)
《お、おい! 棒読みするな! 本当だって! まあ、確かに人間界の女の子の家に上がるのに関心がないとは言わない……だが、目的はそれよりも『彼女の中にあるモノの正体』を明かすことが第一だ!》
わ、わかったよ。そうムキになるなよ。
《まったく……お前、ちょっと神様ナメ過ぎだぞ》
まあ、相手によるだけ、だ。
《な……し、失敬な……》
「れ、零時くん?」
「あ、ご、ごめん」
シッダールタと話している俺はあくまでも『内面での会話』でしかないので、舞園からすれば『ブツブツひとり言を言っている変なヤツ』に見えているんだろうな~と内心で思いつつ、しかし、俺は決断に迷っていた……、
「夜、舞園の部屋に行って確かめてもいいか?」
と言う『言葉』をかけることに対して。
すると――いきなり、シッダールタが、
「少し身体を借りるよ、零時くん」
と言うやいなや、俺の身体はシッダールタと入れ替わっていた。
《お、おい! シッダールタ! てめえ……何やって……》
「舞園……」
「は、はい」
「今夜、お前の部屋に上がらせてくれないか?」
「……えっ?」
「はっきり言う。お前のその『幽霊』の正体は俺が突き止めてやる。だから、いいな?」
《シッダールタ、何言ってんだ、この野郎! 勝手なことすんなっ! だいたい、そんな簡単に舞園がオーケーなんてしてくれるわけ……》
「えっ……あ……はい」
《えっ?》
あら、あっさり。
「よし、それじゃあ今日夜10時にお前の家に行くから」
「は、はい」
《えっ? いいのかよ?》
「俺はこれから準備がある。だから悪いが先に帰らせてもらうよ。じゃあな」
「あ……うん。そ、それじゃあ、後で」
シッダールタ(俺)は、そう言って駆け足で公園から去っていった。
舞園の頬が少し赤く染まっているように見えたのは夕暮れ色せいだろうか。
《お、おい! シッダールタ!》
「何だ?」
《この野郎、勝手に身体入れ替わりやがって! 返せ!》
「いいじゃないか、たまには」
《いいわけねーだろ! さっさと返せ!》
「わ、わかった。わかった。そうマジになるよ。はいよ」
そう言って、シッダールタが指を鳴らすと、身体が入れ替り、元に戻った。
「お前……なんてこと言ったんだよ!」
《何が?》
「何がって……初対面の女子にいきなり『夜、お前の部屋に行くから』なんてこと言うやついねーだろ!」
《ここにいるじゃん》
「そういうことじゃねー! とぼけんな!」
《ふー、あのさ~零時》
「何だよ!」
《これはな……一刻を争うことかもしれないものなんだぞ》
「えっ?」
《彼女の中にいるモノが、悪魔なのか、それとも別の何かなのか……正直、俺にも判断がまだできていない》
「そ、そうなのか?」
《ああ。こういっちゃなんだがその娘の中にいるモノ……かなり『できる奴』かもしれん。俺が、こうも見破られないほど完璧に『気配を消す』なんて、なかなかできるものじゃないからな。もしかしたら、『やっかいな相手』かもしれん》
「マ、マジか……」
《ああ――ま、いずれにしても、そのままにしておくのは総合的には良いことではないからな。正体を知るのも含めて『不安要素』は早めの内に潰しておいたほうがいいに越したことはない》
「なるほど」
《というわけで、これから夜に向けて、いろエロと準備しておかなくては! キリッ!》
「……んっ? エロ……?」
《いや、そんな『何かを期待している』なんてことは一言も言ってないぞ?》
「……オマエな~」
《ま、まあ、何事も楽しまなきゃだぞ? 零時くん?》
「……」
相変わらず、底の見えない……見せないシッダールタだった。
まったくムカツク奴だが、でも、その『振る舞い』は、これから経験したことのないことへの不安を安心させるだけのものを感じた。
それとも俺の勘違いなのか?
だとしたら、俺に『人を見る目は無い』ということだな。
それがわかったときは、一発こいつを殴ってやろう。
俺はそう誓った。
週一ペースで投稿できればと思っています。
よろしくお願いします。
(*´д`*)