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第一章  【005】



  【005】



《コホン……では質問を受け付けまーす。質問のある方……》

「あるに決まってんだろっ!」


 と、俺は上段蹴りをお見舞いした……が、さっきと同じようにシッダールタは目の前から消え、俺の背後から、

《まったく。君は相変わらず学習しないね~、零時くん》

 と、腕を組み、笑みを浮かべながら立ち呟いた。

 すぐさま、俺は、後ろに振り向きつつ、回し蹴りを放った……がやはり当たらず、シッダールタはギリギリのところでよけた。

 だが、俺はそれだけに終わらず、連続で蹴りやパンチを繰り出しながらシッダールタに質問をぶつける。

「まずは……当時の……『通り魔』が俺を……壁に叩きつけ……た後の……俺の目の前に立ってからのことを……教えやがれ!」

 シッダールタは、俺の連続攻撃をギリギリのところで(でも余裕綽々で)かわしつつ呟く。

《君は、あのとき、『通り魔』である、『悪魔』によって、心臓を一突きされ、即死、した》


「!?」


 俺は、攻撃の手を止めた。

「……えっ?」

《だ・か・ら~、あの時、零時くん、君はあの『悪魔』によって心臓を抉り取られたんだよ》

「…………えっ?」

《いやマジでマジで。自分の胸を見てみてよ。ここは君の潜在意識の世界で、零時くんは今、『身体を持ったイメージで固定されている』……だから普段どおりに胸を見る感じでみてごらん、跡が残ってるだろ?》

 俺は自分の胸を確認した。

 そこには、「手術跡」ではなく、やけどが治ったような「ミミズ腫れ」をした跡が残っていた。

「あっ……」

《……ね》

「俺は……本当に……」

《うん。君は一度死んだんだよ。そしてワタシが生き返らせた。君が『契約』を交わしてくれたから、ね》

「お前の手伝いをするってやつ、か?」

《そう。でもそれだけじゃない。君のその身体はワタシが力を回復させた後、ワタシの《器》として使わせてもらうということも君は了承した》

「……う、器?」

 俺は観念して座り込んだ。

「わかった……わかったよ。もう降参だ。だからイチから説明してくれねーか?」

《わお! ありがとう、零時くん。助かるよ》

 そう言うと、シッダールタも俺の向かいに座り込んだ。

 少し……いや、もの凄くウザいが、今の状況をもう受け入れないといけない……俺はそう思い、覚悟した。


《ワタシの名はシッダールタ……天界の救世主メシアと呼ばれている者。今、天界は魔界の反乱により危機的状況にある。ワタシはこのような『天界の危機的状況』が訪れたときに現れる存在なのだ》

「て……天界? てことはお前は……神様?」

《まあ、そんな感じ。お前たち人間が言うところの名称で言うならね~》

「マ、マジかよ。お前みたいな『軽薄男』が……すごいショック」

《零時、ひどいね》

「でもよー、だったら何でココにいんの? 天界でその『魔界』の……『悪魔』だっけ?」

《そうだ》

「その悪魔たちの反乱をすぐにでも止めに行くべきじゃないのか?」

《だーかーらー、それを今から説明するの。ちょっとは人の話を聞きなっさーい》

「んだよ……ブツブツ」

――拗ねた。


《ワタシは本来なら零時の言うとおり、魔界の悪魔たちを一掃するための存在。だから、こんな『人間界』にいることはない。だが……》

 ここで、シッダールタは少し、苦い顔をし、間をおいた。

「……?」

《……だが、ワタシは悪魔たちの策略により、力が『不完全』のまま出てきてしまうという事態に陥った》

「力が……不完全?」

《ワタシは元々このような人の姿ではなく、天界にある『創世の大樹』という巨木の中で『救世の実』という『種子』の状態で天界全体を監視している……それが本来のワタシだ》

「『創世の大樹』……?『救世の実』……? 要するにお前は『木の実』みたいなヤツで、普段は『創世の大樹』っていう木の中にいるってこと?」

《もう少し言い方が無かったのかな?……まあ、間違ってはいない。そして、本来のワタシである『救世の実』というのは、天界にて『危機的状況を招く恐れ』が起きたときに『創世の大樹』から外に実をつけて出てくる》

「ふーん、じゃあ今回も天界で『危機的状況を招く恐れ』が起きたから、お前が出てきたってことか」

《半分『正解』だが、半分は『間違い』だ》

「えっ?」

《ワタシは……『魔界の策略』により、強制的に顕現することになってしまった》

「強制的?」

《ああ。『創世の大樹』は通常、天界の『王の間』の最奥にあり、そこには二人の『神官』が扉の前で守護している》

《そして、その『神官』たちは『創世の大樹』を守護する役割と、『創世の大樹』の変化……つまり、『救世の実』であるワタシが『創世の大樹』に実をつけ始めることを確認すると、『天界の王』や『大神官』らに報告を行うという任務を負っている》

「うーん。つまり『警備員』みたいなもんか?」

《相変わらず言葉選ばないヤツだね、君は……まあ、間違ってはいない。とまあ、これが本来の天界の正常運転時だが、今回、その『創世の大樹』を守護していた『神官』の一人が、天界の者を……裏切った》

「えっ!?」

《そいつは、『創世の大樹』を守護するもう一人の『神官』を抹殺。そして自身の『影』を死んだ『神官』のかわりに置き、天界の者を騙し続けた》

「『神様』が裏切るなんてことあるのかよ」

《『神官』は、お前らの言葉で言うところの『天使』であり『神様』ではない。『神様』はワタシか、もしくは『天界の女王 アマテラス』のことを指す》

「え~~~~、お前~?」

《お前失礼だぞ。ワタシはこう見えても天界では『絶大な存在』であり、天使たち……特に女性の天使からは『アイドル扱い』されるくらいなんだぞ!》

『えっへん!』とでも言うように大きく胸を張った。

《人間界で言うところの『キムタク』みたいなもんだ》

 こいつ、若干古いよな~。まあ、言っていることはわかるけど。

「それで? お前はどうなったの?」

《ワタシはこの『天使を裏切った神官』……ちなみにこういった『裏切りの行為をした天使』は『堕天使』と呼ばれるのだが、その『堕天使』により『強制的』に『創世の大樹』から実を引き剥がされてしまった。おかげでワタシは『完熟する前の不完全な力の状態』となって顕現してしまった》

「どうしてそんなことを、その神官……『堕天使』は、やったんだ?」

《本来であれば、『天界の危機的状況』が増していくにつれワタシの力も増していく。理由は、天使らでは対応が難しくなるという状況が起きたときの存在であるからだ》

《そして、その危機的状況が『飽和点』に達したとき『完熟』……つまり『完全体』としてワタシは顕現するというのが本来の流れだ》

《しかし、今回、悪魔たちの最大の目的は『天界の侵略』の前の邪魔者となる『ワタシの抹殺』だったのだ》

「まあお前、ウザいからな~」

《あ、そういうことじゃないし、今はそういうのはいらないよ、零時くん》

「抹殺? つまり、お前を殺そうとしたってこと?」

《そうだ。奴らはワタシを『不完全な状態のまま顕現させ殺す』というのが本当の狙いだった》

「マジかよ……。あれ? でもお前がここにいるってことは……?」

《そうだ。それがワタシがここにいる理由だ――『堕天使』は、『創世の大樹』からワタシを引き剥がし、眠りからまだ覚めやらぬ状態のワタシをすぐに殺そうとした》

《しかし、寸でのところで扉から天界の精鋭部隊が突入し『その時』は危機を凌いだ》

「『その時』……は?」

《そう、何と言うことか……この『堕天使』は想像以上の強さだった。その精鋭部隊は五人いたにも関わらず、その『堕天使』一人に殺されてしまったのだ》

「えええっ!」

《その頃にはワタシも大分目覚めていた。そして周りを認識できるようになるとそこには……その精鋭部隊の、無残な姿が……ただただ……転がっていた》

「……!!」

 シッダールタは、コブシを強く握り、怒りの感情をむき出しにした顔をして震えていた。

《そして……こいつは精鋭部隊を殺したあと、再びワタシを殺そうと近づいてきた。しかしその時、精鋭部隊の一人が瀕死の中、恐らく最後の力を振り絞ったのだろう……『堕天使』よりも早くワタシの前へ移動し、残りの力で『転生の術式』をワタシに発動し、その場所からワタシを『人間界』へと飛ばしたのだ》

「て……『転生の術式』?」

《ああ。『転生の術式』とは本来は『人間界』で『寿命で死んだ者』や、『予定より早く死んだ者』を再び、『人間界』へと転生……つまり『生まれ変わり』をするための術だ》

「へえ……じゃあ、お前はその『術』で人間に生まれ変わったてこと?」

《いや、その術式は、恐らく術者の残りの力が足りなかったのだろう……不完全に発動してしまったのだ。おかげで、ワタシはすぐには人間へと『転生』ぜず『霊魂』の状態のまま、『人間界』を彷徨うこととなった》

「不完全? 霊魂?」

《ああ――とは言っても、まあ、そんなに時間もかかることなく新しい『器』をこうやって手に入れることができたからな。助かったよ》

「……それが俺ってわけ?」

《ご名答~! ワタシが『霊魂』の状態でフワフワと『器』を探していた矢先に、君が『悪魔』に襲われているじゃ、あ~りませんか!》

 だからこいつ、何か、古いんだよな~。

《それで、君が『悪魔』に心臓を抉り取られた瞬間に『憑いた』ってわけ。そして、君の『脳の停止』……『脳死』が起きる前、つまり、まだ君の意識が肉体に留まっている間に契約を取り付けたってわけ》

「俺の肉体……『器』が必要だったから?」

《そのとおり。でも君はそれだけじゃなく、ワタシの力の回復も手伝うという提言にも了承した》

「力の回復?」

《そう。ワタシはこの『人間界』で力を回復し、『天界』へ戻り、悪魔たちを一掃しなきゃならないからね。それには人間の君の助けが必要だったというわけ》

「けど……俺、その『契約』したことなんてまったく覚えてないぞ」

《え~、そんなことは無いはずだよ。だってそのときの君は『脳の機能』には何も問題なかったんだから。人間の意識は『脳の機能』の一部に属するものだから『脳』が問題ないのであればちゃんと覚えているはずだよ。まあ、もしかしたら事件のショックで今だけ忘れているだけかもしれないけどね》

「本当かよ~?」

《本当だよ! だって現にホラ……》

 そういうとシッダールタの手の平が光り、ホログラムのような映像が映し出された。

「う、うわっ!」

《ほらね、ちゃんと君が契約しているだろ?》

 そのホログラム映像には、『切迫した顔のシッダールタ』と『表情のない能面のような顔をした俺』が会話をしていた。


 シッダールタ:「零時、君の身体を天界のためにワタシに捧げてほしい!」

 俺:「……カマワナイ」

 シッダールタ:「それだけじゃない。この人間界でワタシの力の回復を一緒に手伝ってほしい!」

 俺:「……カマワナイ」

 シッダールタ:「そうか、ありがとう! 助かるよ!」

 俺:「……キニスルナ、モトモト、オマエ ト ワタシハ ヒ……」


 えっ?

 こ、これ、俺か?


――プツン。

 すると、途中で映像が消えた。


「お、おい! 続き見せろよ」

《いや、ここであの『通り魔の悪魔』が頭を潰しにきたもんだから、ワタシは咄嗟に君の身体を動かして身をかわしたんだ……だから、映像はここまでしかないんだよ》

「頭って……コエーよ、悪魔」

《まあ、でも、君はワタシと契約をした後だったから、その後はワタシがその『通り魔の悪魔』をやっつけたよ》

「やっつけたって? あの悪魔……すごい強かったぞ」

《それは零時、君の『人間』としての感覚の話だろ? あの程度の悪魔、ワタシの力を顕現させた君と比べたら『スマップ』と『ジャニーズジュニア』くらいの差がある》

「『例え』がわかりづれーし微妙だよ」

《まあ、とにかく! あのくらいの悪魔、『敵じゃない』ってこと》

 本当かよ……あの『通り魔の悪魔』すごく強かったぞ。何だろう、こいつの言ってることだからどうしても信じられん……。

《あ、零時……信用してないな》

「当たり前だ」

《ひ、ひどい!》

 ひざをつき、ガックリとうなだれる天界の救世主メシアさん。

「とにかく状況はある程度理解したよ。つまり、俺はお前の『力の回復の手伝い』と、力が回復した後、『身体をお前に譲る』ってことだろ?」

《あ、ああ。ただ『身体を譲る』って意味は……》

「わかってる――そのときに俺は正式に死ぬってことだろ?」

《…………》

 シッダールタは何も言わなかった。

 まあ、それが『答え』なのだろう。

《いいのか、零時? いまさら手遅れな話ではあるけれど……》

「まったくだよ。そんな、いまさら『いいのか?』なんて聞くなよな~……ま、いいさ、別に」

《本当?》

「ああ……こうして生き返ったおかげで、家族や親友たちを一時であるにせよ、喜ばせることもできたしな……それで充分だ」

《……零時》

「ありがとな、シッダールタ」

《……》

 こうして俺はシッダールタから事情をすべて聞いた。

 正直、普通だったらマトモには信じられない話だが、こうやって『身を持って知った話』だ……疑いようがなかった。

 シッダールタがどれくらいの期間で力を回復させるのかはわからない。だが、それまでの命ってことがわかるだけでもありがたい。

「期限付きの命」ってことだけでもわかれば、せめて後悔しない人生を送ってやるさ。

 俺はそうやって自分に改めて『活』を入れた。


――しかし、


 話は、そう『単純な話』ではなかったことに、俺はこの後改めて気づかされるハメになる。

 シッダールタのバカ野郎のおかげで。


――それとはまた別に、

 俺の知らないところで、別の『思惑』が動いていることにこのときの俺は気づかずにいた。


《……何とか、うまく『誤魔化せた』みたいだな》


 物語はまだハジマッタばかりだ。



週一ペースで配信できるよう、頑張ります。

どうぞ、よろしくお願いいたします。


m(__)m

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