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奏太が鎌田さんと幼馴染だったなんて知らなかった。
名前を聞いた時、同じ名前はあまりいなそうだから、もしかしたらそうかなと思っていたけど、拓人さんの話を真面目にしていたので、聞けなかった。でも、当の本人が来たので2人そろってビックリした。
「どこまで話した?」
「小5の夏休みに高校野球の予選を観に行ったとこまで」
「そうか…」
それを聞いて、2人そろってため息をついていた。短い沈黙の後、口を開いたのは奏太だった。奏太は拓人さんとの話の続きを話してくれた。
奏太と拓人さんはその予選を見て一つの約束をした。
同じ高校に行って、拓人さんは甲子園を目指すこと、奏太はスタンドで応援の演奏をすること。
「絶対な、ってね。どこの高校にするかとか、中学入る前から決めてさ。一緒に行けるって信じて疑わなかった。あの頃は、ホント単純に何でも信じることができてた。」
ただ、その約束はかなわなかった。
かなわなかった約束。
奏太の話は続いた。
中学に入る少し前から、拓人さんが体調を崩し、学校を休みがちになったこと。それでも入学式には出ることが出来た。
満開の桜の下、二人で頑張ろうなってたくさん笑ったこと。拓人さんはちょっと体調が思わしくないけど、ただの風邪だと思うと話していた。
拓人さんの体調不良はその後も変わらず続いていて、奏太は奏太のお母さんから大きい病院で検査したことを聞かされた。
入学式から2週間経った、ちょうど今と同じぐらいの4月の終わりに、拓人さんから奏太に話があった。拓人さんが自分の体調不良の原因が脳腫瘍であったことを話してくれた。翌日から入院することを、緑がまぶしい葉桜の下で聞いた。
「自由にしてやるって言われた時、そんな自由いらない、そんなこと言うな、甲子園行けなくたっていいじゃないかって…」
奏太はそこまで話したあと、言葉が続かなかった。しばらく沈黙が続きそうなところで、目的の駅に着いた。
「ごめん」
「いや、大丈夫。話したくなったら話せばいいよ。」