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休日の電車だからと侮っていると意外と混んでいる。それが僕の家の最寄駅だ。隣の駅の近くにアミューズメントパークがあり、そこと提携しているホテルもあったりするから、朝の時間帯は意外と混む。待ち合わせの駅までは3駅。20分もあれば着く。
ただ、気が競ってしまう。落ちつけ落ちつけと自分に何度問いかけただろう。そわそわ落ち着かない状態で、なおかつ場違いな荷物を持った自分が、なんだか滑稽に思えてきた。
ちょっと笑える。
目を閉じて深呼吸して、窓の外を見た。いい天気だ。
昨日、花を買って帰ったら、母さんからもう1年経ったのね、と感慨深げに言われた。分かってくれていた。去年も同じ頃に拓人のお墓に行っていたから、別段不思議なことでもなく、むしろもう1年経ってしまったのかということにビックリしていた。
1年の間に、晴香と出会って、いろいろたくさん話した。あれこれドタバタしたり、ドタバタしているのを見たりしているうちに、晴香を好きになった。いろいろ悩んだ。何度も拓人を思い出した。相談できたらよかった。
「晴香ちゃんってさ、恋愛対象としての好きがあったとしても、見ていないふりをするというか、そういうのは面倒とか、不器用さを分かっているから、お前の気持ちに気づいていそうで気づいていないんじゃないのかな」
泰一郎は鋭い。晴香と同じクラスだから余計にかもしれない。
同じ部活にいる1年の中で一番周りが見えていて頼りになる。僕が晴香を好きだということを最初に見抜いた張本人だ。そして、嘘をつくとあいつにだけはばれる。誰かがばらしたわけでなく、天性の勘が働くようだ。
大和と電車でばったり会った翌日、晴香にいつも通り接する自信がなくて、風邪引いたと言って部活を休んだ。その夜、泰一郎から電話があった。
「何があったんだか知らないけど、普通に話せないようになるんだったら、腹くくって、玉砕すりゃいいじゃん。失恋ぐらい大したことないって。奏太は物事を複雑に考えすぎるからさ。もっとシンプルに考えて動きゃいいんだよ。」
なんで玉砕前提なのかがよく分からなかったが、同じようなことを二人から言われると、きちんと告白して決着つけることでしか前に進めないということを痛いほど理解できた。確かに、複雑に、というか、どこかで拓人の存在に縛られて、気持ちの根っこを見失っていた。
晴香はあわてていないだろうか。昨日の自分の態度を反省した。何も言わずに約束してくれた晴香に感謝した。今日ならきちんと言えそうだ。
待ち合わせより10分早く、約束した改札の前についた。休日の改札は不思議なくらい人が少ない。晴香はまだ着いていなかった。ただ、改札についたころ、逆側の電車が到着した。ふと階段を見ると、なぜか焦ってバタバタと駆け降りる晴香が見えた。ちょっと笑ってしまった。
「待った?」
「いや全然。っていうか、時間まだ間に合うのに、何急いでんだよ」
「そうだよね…」
もう一度ホームに上がりながら、手元に注がれる視線を感じた。そりゃ気になるだろう。ちょうど電車が来たので乗った後に話を切り出した。