表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
葉桜~late spring days  作者: ともかlabo
前に進むということ
23/24

4

 「こんな待ち受けでいいのかよ、女子高生。」

 「いいんだよ。」


 そう言った晴香は、まっすぐに僕を見ていた。優しいのに、まっすぐで、嘘のない視線。


 「私ね、ずっと見ないフリしてた。それでいいと思ってた。というか、その方がいいと思ってた。」

 

 分かってた。心の中で答えた。


 「でもね、昨日葵ちゃんと電話で話してて気がついたんだ。

 見ないフリをしていても、気がついたら、奏太のかけらをずっと手の届くところにおいていたんだ。私の行動は他の人から見たら、逃げているだけに見えることだったみたい。」


 僕は話している晴香の手をとって、そっと握った。柔らかい、少し小さくて白い晴香の手のひらを、両手でそっと包んだ。晴香がうつむいて、重ねた手をじっと見ていた。


 廊下を数人が走っていく足音がした。そろそろ昼練をするやつが来るかもしれない。晴香の顔をそっと覗いた。


 「言ってほしいな。」

 

 晴香がビクッとして僕の顔を見た。


 「うそ。」


 ほっとして油断した晴香の手に、キスをした。


 ビックリした晴香が、口をパクパクしていた。ちょっとやりすぎたかな。でも昨日から落ち着きのない気持ちでいた晴香に、ちょっとでも元気が出たらなと思った。


 というか、本当はキスしたかっただけだけれども。

 

 「おまじない。午後も頑張れるように。」

 「あ…あり、がとう。」


 どぎまぎした顔の晴香に、言うかどうか悩んで、やっぱりお願いしてみた。


 「ごめん、おまじない、してくれる?」

 「えぇぇぇ!」

 「誰か来ちゃうよ。」

 「…えっと…」

 

 誰もいないのに、きょろきょろ見回したあと、恥ずかしそうに、僕の手にキスをしてくれた。


 「ありがと。残りの授業、がんばれそう。」


 キスをもらった手を晴香に見せて笑った。晴香は恥ずかしいのかうつむいて、僕の方をなかなか見なかった。


 さて、そろそろ限界だなと思い、音楽室のドアの方を見た。案の定、サックスコンビと、入らないよう止められたのか、昼練をしにきた泰一郎がそこにいた。やっぱりな。


 僕は晴香の様子が気になりながらも、音楽室のドアを開けた。


 「お待たせしました。ご協力ありがとう。」

 「奏太くん、奏太くん。」


 ワクワクした顔をしたヒヨコちゃんコンビと、やれやれという顔をした泰一郎がそこにいた。とりあえず、できる限りの笑顔を3人に向けておいた。


 言葉にしなくとも、伝わるものは伝わるってことで、晴香から聞きたかった言葉は、また落ち着いた時にでも聞くとすることにした。そりゃ、やっぱり、好きって、好きな彼女から聞けたら何より幸せ。


 うっかりしていて、おっちょこちょいで、恥ずかしがり屋の晴香の隣を、ゆっくりゆっくり歩いていこう。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ