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晴香がすぐ来ないであろうことを見込み、僕は4限終わりにダッシュして購買に向かった。昼飯のこととか何も考えてないだろうし、晴香自身が自分のことでいっぱいいっぱいであろうことが予測できたので、昼飯用にパンを4つ買っておいた。
教室に戻る途中で晴香に会った。
「ごめん、お昼の時間なのに。」
晴香の言葉にかぶりをふった。
「とりあえず、後ろのお二人さん、ゴメン、二人で話したい。」
「あはは…ばれてたか。」
高城と畑中がこっそりついていこうとしていたのが見えたので、お引き取り願った。気になる気持ちは分かるが、今しばらく我慢してほしい。
「さ、どうしよっか?とりあえず、音楽室行くか?」
うなずいた晴香と音楽室に向かった。
昼練をするやつがいたとしても、まだ来ないだろうという予測通り、まだ誰もいなかった。晴香はずっと、少しうつむいてどうしようって顔をしていた。話し辛い気持ちが見て取れた。
「晴香、昨日はごめんな。」
「ううん。…いや、こちらこそ、あの後混乱しちゃって。送ってくれてありがとう。」
「昨日も言ったけど…急がないから、ホント。」
「ううん、違うの。」
違う…何が違うんだろうと思いながら、晴香の顔を見た。晴香は少し考えたあと、意外なことを聞いてきた。
「奏太、あのさ、携帯見せて。」
ビックリした。言われたら見せるつもりではいたけれども、できれば隠しておきたかった。でもこの状況で見せないのはずるい。ポケットに入っていた携帯を晴香に差し出した。
緊張して、ずっと自信のない顔をしていた晴香が、待ち受けを見ていつもの晴香の明るい顔に変わった。
「ホントだったんだ。」
「え?」
ドキッとした。ホントだったということは、誰かから聞いたということだ。待ち受けの写真のことは、僕と泰一郎しか知らないはずだ。
僕の携帯の待ち受けは、泰一郎が隠し撮りした、チューニング中の僕と晴香だ。普段、二人で撮ろうと言うと、晴香が照れて先輩とかサックスコンビを呼んでしまうから、隠し撮りしないと無理だと思ってさ、と言われた。学園祭の演奏の前に何してんだよって思わなくもなかったが、素直に感謝してそれからずっと待ち受けにしていた。
「ありがとう。」
「…どういたしまして。誰から聞いた?」
「葵ちゃん。たまたま見ちゃったんだって。」
どこで誰に見られているか分かったもんじゃない。
「私はね、これなんだ。この写真大好き。」
そう言って差し出された晴香の携帯の待ち受けは、うちのぶさいくネコのココアさんだった。しかも、僕にもみくしゃにされて気を許しまくって、おなか全開のダラダラ写真だった。思わず吹き出してしまった。