表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/24

Haruka Side 1

 それは、なんてことない、いつもと同じ部活の帰り、のはずだった。


 その日は合奏でうまく吹けなくて、ぼこぼこに凹んで、練習が終わった。放心状態だったらしく、奏太に軽く頭をはたかれて、周りの状況に気がついた。


 「とりあえず、楽器後にして、譜面と椅子ぐらい片付けろ。みんなが帰れないだろうが」

 「ごめん。ぼーっとしてた」


 とりあえず、楽器を部屋の端の机に置いて、譜面と椅子を片づけた。ミーティングは特に連絡事項もなく、あっさり終わった。明日が休みでよかった。みんなさっさと帰りたいので、さっさと終わってくれた。


 とりあえず、楽器を片づけなければ帰れない。精神的に凹んでいると、いつも遅い片付けが、さらにどうしようもなく遅くなってしまう。


 「まあ、そんなに落ち込むなよ。休んでまた、来週練習して挽回すりゃいいじゃん。帰ろう帰ろう。駅まで一緒に行こうぜ。」


 奏太は優しい。


 同じクラリネットパートで同じ学年、並んだ時も隣同士。クラスは一緒になったことはないけれども、何かと仲良くしてくれる、気楽な仲間だ。


 そう、ただの、気楽な友だち。


 駅 まではそんなに遠くないけれども、合奏後のクタクタ状態の私にとっては、ちょっとした苦行だ。誰か話し相手がいるとちょうどいい。特に凹んだ部活の後の話 相手が奏太だと、駅に着くまでに気が晴れることが多い。

話の中身は他愛もない、世間話だったり、今日の合奏の話だったりするのに、駅に着くころには落ち込んだ気持ちが晴れている。たぶん、どこかで、浮上させるカギを知っているのかもしれない。そういう話をうまく見つけて、今日はこういう方向かなとか察しているのかもしれない。こういうことできるって、すごいよなー、女の私が見習えよと思うぐらい。


 いいやつだなって思う。


 話が途切れて、やや間が空いて、ふと溜息をついたところだった。


 「ところでさ、晴香、明日、暇?」

 「え?」


 ちょうど目の前をトラックが通り過ぎて、今聞こえた言葉が本当なのか、よく分からなかった。


 「だから、明日の日曜日、暇かどうか聞いたんだけど。」

 「明日?特に予定ないから暇だけど?」


 いつもふわっとニコニコしている奏太が、その時は妙に真面目な顔をしていた。


 「ちょっとさ、付き合ってもらっていい?」

 「え?」

 「一緒に行ってほしいところがあるんだけど。」


 あまりにまじめにそんなことを言うから、妙に緊張してしまった。うまく言葉が見つからない。別にただの同じパートの同じ学年の、たまたま隣の…要はただの友だちにそう言われてしまい、いったいなんなのか、頭が回らない。


 どうしよう。


 「無理ならいいよ、一人で行くから」

 「い、いや、無理じゃない。っていうか、突然すぎて。何で?」


 今度は奏太が黙った。自分が付き合ってほしいとか行ったくせに、なぜ黙る。さては、後ろめたいことなのか?それとも…あまり言いたくないし、聞きたくないけど…やっぱりその…


 「彼女に何かプレゼント、とか?」

 「いや違う。違うけど……明日でいいか?」


 私の発した言葉は、奏太の真面目な表情の前で一気に気化して消えた。そんな思いつめた顔しないでほしい。いろいろ、あれこれ、どうでもいいことを考えてしまう。


 「分かった。じゃあ、明日教えてね。で、どうするの?待ち合わせとか…」


 駅に着くまで、明日どうするかを打ち合わせて別れた。奏太の家は私と逆方向だ。お互い待ち合わせやすい、学校の最寄駅で、朝9時に待ち合わせることにした。


 奏太と別れて、ホームに上がり、ベンチに座ってぼんやり、反対方向のホームを眺めた。


 少し遅れて階段を上がってきた奏太は、数分前の真面目な顔に戻っていた。でも、電車を待っていた私に気付いて、いつもみたいに手を振ってくれた。奏太の方向より前に、私の方の方向の電車が来た。窓越しに奏太に手を振った。


 また明日。とりあえず、また明日だ。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ