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前日、慰められる

 私って本当に馬鹿です。明日の朝には旅に出るというのに、家が恋しくなりました。

 今まで、大好きなファンタジーな世界に来れてとても幸せな気持ちで過ごしてきました。それなのに急に不安になってきたのです。魔法はまだ少ししか覚えていません。覚えた魔法だって練習で使えてもいざというときに使えるかわからない。危険な旅だから命を落とすかもしれない。

 不安だなあ、って考えていたら、家に帰りたいと思うようになってしまいました。

 そもそもどうして私がこの世界に来たのかがわかりません。勇者の助けになる人なら、もっといい人がいるはずです。

 さっきからこんなことばかり考えています。うう、部屋の空気が私の溜め息と憂鬱オーラでよどんでいく……。窓開けてるのに。

 ゴーン……

 あ、夕飯の時間だ。

 食堂に行こう。悩んでたらお腹が空きました。

 食堂に行くと大勢の人にえらく心配されました。毎日廊下ですれ違う人たち、魔法の練習に付き合ってくれた人たち、見覚えのない人たちまでもが私を見て大丈夫かと聞いてくるのです。そんなに私の具合が悪そうに見えたのでしょうか。

 いつも一緒に食べている人たちを見つけたので、そちらに行くと、やっぱり心配そうな顔をしています。

 スチュワートさんが聞いてきました。

「どうしたのレイちゃん。かなり暗い雰囲気だし、顔色が悪いよ」

「えーっと……その……ホームシック、です」

「?」

 ああ、ホームシックは通じないか。

「えっと、家族はどうしてるかな、って考えちゃって」

 実際は、自分がどうなるか、を考えてましたが。でも本当に家族はどうしているでしょうか。私のこと、心配してくれているのでしょうか。あの世界に帰れたら、時間が経ってないといいな。そうなれば家族も心配する必要はありません。

 私の答えを聞いたスチュワートさんは納得したようです。

「そっか。そういえばレイちゃんは気付いたらあの浜にいたんだよね。家族もレイちゃんがいなくなって心配だろうね」

 彼女がしみじみとそう言うと、ハルクロードさんがこんなことを言いました。

「あちこち行くんだから、いつかレイちゃんの故郷にも行けると思うよ」

 それが行けないんですよおおおおお!

「他にも心配事があるだろ?」

 心の中でハルクロードさんに向かって叫んでいたら、ブロンテさんにずばり言われてしまいました。何故わかったのでしょう。

「何でわかったんだ、って顔だな。ふっ、理由は簡単だ。オレはいつもジークと一緒にいたからな、表情の変化が乏しいヤツとか無表情のヤツの考えてることやら感情やらがわかるようになったんだ。レイは感情があんまり出ないけど、ジークに比べればわかりやすい」

 なるほど。レルアンさんの考えていることがわかるなら私の考えていることなんてよくわかるでしょう。

「……旅に出るのが不安なんです……」

 もう白状します。彼ら七人になら悩みを相談してもいい気がします。

「私は弱いし、魔法も少ししか覚えていません。だから、ハルクロードさんを助けられるって思えません。それに、死ぬかもしれない、って考えてたら、日本に普通に暮らしてたらこんなことを考えないでいてよかったのに、って思えてきて、それで……それで……」

 ああもう、上手く言えません。うわあどうしよう、涙出てきちゃった。

「大丈夫ですよ、レイさん。旅をしながらだって魔法を覚えることはできます。それに、あなたは魔法を上手に発動させることができます。努力していけばとても優秀な魔法使いになれます。私が保証します」

 エリエントさんが慰めてくれました。先生、ありがとうございます。

「おれは、レイが旅に出ても大丈夫だと思うよ。レイは他国の兵や魔物に気付かれにくいだろうから」

 ルファットさんが不思議なことを言いました。私は影が薄いってことですか?

 私が疑問に思っているのがわかったのでしょう。ブラウンさんが、疑問に答えるように言いました。

「ここにいる誰もが、あなたを視界に入れるかあなたが音を立てるまで、あなたの存在に気付くことができません。あなたの気配を感じ取れないのです。それはどこに行っても相手が人間でなくても同じだろう、というのが私たちの見解です」

 あー、そういえば皆さんはよく私に「いたんだ」とか「気付かなかった」って言ってましたね。影が薄い方だとは思ってましたが、これほどとは。一人で納得していると、今度はスチュワートさんが不思議なことを言いました。

「レイちゃんは毎日印象が違うから、万が一他国の兵に追われることになっても大丈夫だろうね」

 毎日印象が違うと言われたのは初めてです。どういうことでしょうか。

「大丈夫だよ、レイちゃん。レイちゃんは隠れて魔法で支援してくれればいいから。万が一の時には守るし。な、ジーク」

 ハルクロードさんが言うと、レルアンさんがこくりと頷きました。ていうかハルクロードさん、いつからレルアンさんを呼び捨てに?

「そういう訳だから大丈夫だ。もっと気楽にすればいいんだ。……まあ、泣きたいなら今日の内に泣いとけばいいと思うぞ。明日目が覚めたらすっきりしてるかもしれないし。とりあえず、今は悩んでないで夕飯を食べろ」

 ブロンテさんがそんなことを言いました。ああ、ご飯のこと、すっかり忘れていました。お腹ペコペコです。


 部屋に戻ったら思いっきり泣いて、それで、すっきりするといいな。

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