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言わないできたこと

 食堂から宿に戻ってすぐに「話があるから」と言われ、エドワードさんとジークさんの泊まる部屋に連れてこられました。

「座って」

 言われたとおりに椅子に座ると、エドワードさんはもう一つに座り、ジークさんはベッドに腰掛けました。

「聞きたいことがあるんだ」

 エドワードさんがとても真剣な顔をして言いました。ジークさんはいつもと同じような、そうでないような。

「何ですか」

「神の道具のことなんだけど」

 ジェフリーさんが赤ペンをくれたことが気になるのでしょうか。

「レイちゃん、君は何か隠してないかい?」

 ……ああ、ついに来たか。

 きっと、ずっと前から気付いていて、今日になって問い詰める気になったのでしょう。

「どうしてそう思うんですか」

「レイちゃんは神使だなんて呼ばれて、人間じゃない扱いされることあるけど、人間の女の子だよね」

 はい、そうです。この世界の「人間」とは違うところもありますけど。

「別に不思議な力があるわけでもない、聖職者ってわけでもない、たくさんいる学生の一人なんだよね」

 高校一年生……“でした”? 一年生“です”? まあともかく、私は高校生で、ここに来る前は春休みを満喫していましたよ。

「それなのにレイちゃんは、神の道具の使い方をわかってるし、ごみだって言ったこともある」

 隠すなら、もっとよく考えてから発言するべきでしたね。

「というわけで教えてほしいんだ。僕らが『神の道具』って呼んでる物は、何?」

 わかっているのでしょう、そんなこと。

「聖剣とか薙刀とかの武器以外は『人間の道具』でいいと思います。懐中電灯とかはたぶん、私みたいにこっちに来ちゃったんです」

「……そうだと思った。じゃあさ、どうして黙ってたんだい?」

「教会に昔から大事に大事に保管されてたのが『その辺で買える文房具』だなんて、言いづらかったんです。それに、もしかしたら本当にすごいものなのかもって思ってて……実際に聖剣はすごいものじゃないですか」

 聖剣だけでなく、茶色と青とオレンジの三人組の一人が持っている矢も相当強力なものです。きっと、エイミーが持っている竹刀に見せかけた刀も、デュークさんが持っている薙刀も、よく斬れるとか刃こぼれしないとかあるのでしょう。

「あと、昔からあるにしては、状態がいいので……」

 ですが、私の携帯電話の充電が切れていなかったことを考えると、武器以外はきっと普通のものなのでしょう。この世界ではあちらの物の状態が良いままで保たれるようになっているのではないでしょうか。

「……黙っていて、ごめんなさい」

 私が異世界から来たことを言うのと同時に伝えておくべきだったのかもしれません。

「……まあ、いいよ。別に困ったわけでもないし。でも」

 おうっ!? おでこが痛いです。エドワードさんにデコピンされました。黙っていた罰ということでしょう。

「ついでに聞くけど、他には何かないかい。言いたくないなら、別にいいけど」

 いい機会です。髪と目の色のことを言いましょう。

「……証拠見せてから言おうと思ってたことがあるんですけど……」

「それなら何か見せてくれてからでもいいよ」

 実はもう、一度見せているのですよ。でも最初の一枚以外は無駄でした。

「それができないんです。でも今言います。……私は、髪の毛も目も黒いはずなんですっ」

 思い切って言うと、ジークさんは首を右に少し傾げました。エドワードさんは「何言ってんだこいつ」とでも言いたげな目で見てきました。いやあ、久々です。相変わらず怯ませてくる目ですね。私が勝手に怯んでいるだけですけど……うう……でも!

「どう見ても紫だけど」

 今日は紫ですか。そうですか。トマスさんとジェフリーさんを探しにきた人が驚いたわけです。

「私には、黒に見えてるんです。それと、他人には毎日違う色で見えてるみたいなんです。マリアさんが、私の印象が毎日違うって言ってたのはきっとそのせいです。昨日の私も、紫でしたか」

「昨日のレイちゃんもやっぱり紫だった」

 エドワードさんはそう言って、ふと何かを考えるような様子を見せてから付け足しました。

「……と思う……」

 少し自信がなさそうですね。記憶が証拠として使えるかもしれません。

「ジークさんは憶えてますか」

「……昨日、俺のよりレイの方が色が濃いって思った、ような気がする」

 よし、二人にいろいろ思い出してもらいましょう。

「ニールグ国王は私のこと藍色の髪だって言っていました」

 でも旅に出た時にエドワードさんは「私とジークさんは珍しい赤だから目立つ」というようなことを言いました。それなのに私を初めて見た時のジークさんの感想は「変わってるとは思ったけど自分と同じだとは思わなかった」でした。

 旅に出た日に赤と言っていたエドワードさんは、ニールグとアクトの国境の近くで「私とジークさんは見た目は似てないけど兄妹みたい」だと言いましたし、ジークさんの赤毛に驚かなかった警備兵が私を見て盛大に驚いていました。

 遺跡がある山の麓の村では少年が「黄色」と言っていました。

 ひまわり帝国では「赤毛が二人いる」と驚かれました。

 携帯電話に保存してある家族の写真を見せたら、エドワードさんは「みんな藍色」と言いました。

 国境の川を渡った翌日には、緑色に見えていたらしいエドワードさんは「秋には赤か黄色になるかな」なんて言いました。

 洞窟近くの村では酒場の息子さんが「紫のやつは初めて見た」と言いました。

 エドワードさんとジークさんの、私の見た目についての発言と、二人もそこにいて見ていたはずのことを憶えている限り言ってみました。

「……え……え?……あ、あれ? おかしい、何で……あれ?」

 エドワードさんを混乱させてしまったようです。

 ジークさんを見ると、彼は虚空を見つめていました。自分の世界に入っていろいろ思い出したり考えたりしているのでしょう。

 ふう。出来事の記憶が変わっていたり消えていたりしていなくてほっとしました。

「お母さんもお父さんも妹も弟もみんな黒いんです。くろちゃんと、家族の写真見せて、言おうと思ったんです」

 私も本当は黒なのです、と。

 エドワードさんが困りきったような顔をして言いました。

「でも、僕は……僕とジークには……その時は、レイちゃんとレイちゃんの家族が藍色に見えてた、と」

 そうです、そうです。それで言う気が失せてしまいました。

「猫のくろちゃんの毛は黒色でしたよね」

「うん。それで目は青かった」

「毛の黒い猫とかがいるなら毛の黒い人間だっていてもおかしくないと思いませんか」

「うーん、緑の毛の動物はいるけど人にはないよ? 目にならあるけど」

 しまった。そうでした。地球上でも緑や青色の鳥はいても人の髪には染めなければありませんものね……。

「じゃあ、髪の毛のことはいいです。目のことは信じてください」

 「異世界から来た」よりはずっと信じられると思うのですが。

「……レイちゃんはごまかすし隠し事もするけど基本的に嘘つかないね」

 自分の見た目について嘘をついたところで何もいいことなどありません。

「うん。信じる」

 やった!

「それなら、あの、何でこうなってるかわかりませんけど、もし、私がいきなり黒くなっても……」

 すぐに殴らないで、とお願いしようと思いましたがやめます。

「……やっぱりいいです」

 私の言おうとしたことがわかったらしいエドワードさんが真顔で呟きました。

「……レイちゃんが魔人とか怖過ぎる……」

 ええ、私もそう思います。なってしまったら、即何も話せないようにしてもらわないといけません。

「よかった」

 ジークさんが口を開きました。ゆっさゆっさ揺さぶられる前に自分で自分の世界から出てきたようです。

「黒じゃなくて他の色に見えててよかったんだな」

 そうですね。この世界に来た日に、半殺しの目に遭わなくて本当によかったです。

 戸惑うこともありますが、私の髪と目が黒に見えないのは基本的にいいことです。

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