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どこにでも

 手袋を買いました。

 これで、もっと寒くなっても大丈夫です。あんまり寒いと手袋をしていても指が動かなくなりますが。

 ここはこの国の首都です。

 この街に住むお金持ちの家に、アーロンの弓があるそうです。まだ誰も持ち出していないのであれば。

 今は私一人です。エドワードさんとジークさんは、ここに住む諜報員に会いにいっています。彼らが一緒でないのは少し不安ですが、視線が突き刺さるようなことがなくていいです。それに今日の私は特に変な色をしているわけではないようで、驚かれることもありません。快適に……違う、普通にあちこち歩けます。

 さて、時間に余裕があるので、ルルリア大聖堂という所に行ってみようと思います。なんでも内装はものすごく凝っていて、素晴らしい絵画や綺麗な水晶などが展示されていて、時間が合えば感動して泣く人続出の讚美歌が聴けるらしいです。

 手袋を買ったお店から歩いて十分程で大聖堂に着きました。

 ここには鳥居は無い……あ、あった。出入り口の周りにうっすら青い色の部分があり、それが鳥居の形をしています。

 ゴーンという音も何度か聞いているので、釣り鐘もどこかにあるのでしょう。

 見られる所は見て回り、最後に讃美歌を少し聞いてから宿に戻ることにしました。

 聖堂内にちょっとしたコンサートホールのような空間があり、讃美歌はそこで歌われていました。

 ……ん? 聞いたことのあるようなメロディーです。何かの曲に似ているのでしょう。えーっと、何で聞いたのかな……。

 思い出そうとしていたらなんだか眠くなってきました。この曲を最後まで聞いたら宿に戻るとしましょう。



 聖堂から出て、讃美歌のことを考えながら歩いていたら、

「お嬢さん、寒いから俺らと一緒にお茶でもどう?」

 全然知らない人たちが声をかけてきました。

「……はっ?」

 声をかけてきたのは若い男性三人組です。何?

 よくわからないでいたら、もう一度言ってくれました。

「だから、寒いから一緒にお茶でもどう?」

 …………あ、あれかな。

「罰ゲームか何かですか」

「は?」

 あ、驚いたせいか相手にわからない言葉を使ってしまいました。

「あー……えっと、何かの勝負に負けてやらされてるのかと」

「かわいい子だと思ったから声かけたんだけど」

 えっ、えー?

 ちゃんと見えてますか? かわいい子というのは、あっちでお喋りしてる子とか、あそこでぽーっとしてる子のことですよ。

 お酒でも飲んでいるのかと思いましたが、そうでもないようです。ということは……

「物……」

 おっといけない。うっかり声に出してしまいました。でも少ししか言っていないのでたぶんセーフです。相手には聞こえていないはずです。

「……遠慮します」

「遠慮なんかしなくていいから」

 はっきり言わないと伝わりませんか。

「嫌です」

「まあそう言うなよ」

 む。左腕を掴まれました。

「放してください」

「悪いようにはしないから」

 放すどころか引っ張りましたよ、この人。何が「悪いようにはしない」ですか、まったく。既に悪いではありませんか。

 振りほどこうとしても相手の力が強くて、いえ、私が弱くてうまくいきません。こうなったら、魔法を使ってしまいましょうか。いいですよね、この人混みで杖を振り回すわけにもいきませんし。

【放してください】

 腕が自由になりました。

 さて、宿に戻るとしましょう。



 宿までの道の途中にある広場で、ジークさんがベンチに座っているのを見つけました。エドワードさんは一緒ではないようです。

 気楽な街歩きはここまでです。

「ジークさん」

 そばに寄って声をかけました。

 ジークさんは、手袋のはまった私の手をちらりと見て言いました。

「いいの買えたか」

「はい。エドワードさんはどうしたんですか」

 ジークさんはある方向を指差しました。

 そちらには、木の剣を持った子供たちに挑みかかられているエドワードさんがいました。

「子供たちにせがまれて剣を教えてる。俺は教えるの下手だから見てた」

 そうでしたか。

「変なやつに声かけられたりしなかったか」

「お茶しないかって言われました。本当にそれが目的だったら、物好きですよね」

「あまり自分を低く言うな」

 そう言われてもなあ……。

 しばしの間ジークさんと並んで座ってエドワードさんたちを眺めていたのですが、気が付けばジークさんが私を見つめてきていました。こういう時の彼は大抵何かを想像している気がします。今回は何でしょうか。

「あのー……?」

「レイだったら、暇な時は魔法の勉強してる気がする」

 はい? いきなり何ですか?

「あそこの井戸端会議見て思った」

 井戸端会議……未来の私を想像したと? それは……

「……それは、たぶんないです」

「……ここは嫌か」

 わかりにくく言ってしまいましたが、ジークさんは正しく受け取ってくれたようです。

「嫌じゃないです。悪くもないと思います。……そのうち、こっちの方がいいって思うようになるかもしれません」

「そうか」

 ジークさんと話しているうちに、エドワードさんが子供たちと別れてこちらに歩いてきました。彼は私の手袋を見て「あったかそうだね」と言いました。

「ジーク、弓のこと話したか?」

 エドワードさんの問いにジークさんは首を横に振りました。

「じゃあ僕から話すよ」

 エドワードさんは私の隣に座ると話し始めました。

「アーロンの弓、なくなったらしいんだ」

 ああ、駄目でしたか。

「五日前になくなってるのがわかったんだってさ。まあ、盗まれたんだろうって」

 そうでしょうね。違うならいたずらでしょうか。

「困ったことに最後に見たのが一月は前のことだから、いつなくなったかわからないし、犯人の見当もつかないって」

 どこかの勇者でしょうか。

 エイミーたちは……違う気がします。ニールグで教会を襲った時のように、こそこそやらないで堂々とやりそうです。

 トマスさんとジェフリーさんが持っていくにしては時期が遅いでしょう。……いや待てよ、イリム大陸で先にいろいろ集めてからこちらに戻ってきて回収した、という可能性もあるのでは?

 そうでなければデュークさんでしょうか。

 それともまた別の人でしょうか。勇者とか関係ない人ということも……ああそうだ、青髪と茶髪とオレンジ髪の三人組かもしれません。彼らも探しているようでしたし。

「話は変わるんだけど、空賊っていうのがこの辺りにいるんだってさ」

 へえ! 空にも盗賊が。

「秋の初めくらいから出るようになったらしいんだ。空にいても地面にいても襲ってくるんだって」

「魔物と一緒ですね」

「誰でも襲うってわけじゃないから、魔物よりはましかもしれないよ」

「この辺りでのことなら、魔物の方が弱くて馬鹿でましじゃないですか」

「それもそうだね。国の中心近くで悪事働くとか度胸あるよね」

 そして捕まらない自信もあるのでしょうね。

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