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変えられたもの。

 首都の近くまで来ました。

 地震からは六日が経っています。地震の翌日程ではありませんが、今日も魔物をよく見ます。この辺りは地震などなかったらしいので、地震とは関係なく魔物が増えているのかもしれません。

 あ、また魔物です。鳥みたいなのが飛んできています。狙いは私のようです。魔物の視線を感じます。……ふむ。

 そおれっ!

 エドワードさんとジークさんから少し離れて、野球のバッターっぽく杖を振ってみたら、飛んできた魔物に上手い具合に当たりました。

 打たれた魔物は五メートルくらい飛んで地面に落ちて、空気に溶けていきました。首都の近くの魔物が弱いことは変わっていないのです。ほんの少し強くなっているかもしれませんけど。

「何をするのかと思ったら。やるじゃないか」

 エドワードさんに褒められました。

「なんかいけそうな気がしたんです」

 なんとなくでやってできたから良かったものの、失敗したらかなり恥ずかしいですね、これ。周りには私たち以外にも人がいますし……。魔物が私目がけて一直線に来てくれて助かりました。



 さらに四日が経ち、私たちは国境を越えました。

 今日は曇っていて、とても寒いです。相変わらず魔物は多めです。

 ここはアーカリス王国という国です。この国には、勇者の仲間の一人であるアーロンが使っていたという弓があるそうです。

 マリーの日記によれば、弓はとても頑丈なもので、アーロンはしばしば弓で攻撃を防いだり魔物や不届き者を殴ったりしていたようです。

 そんな頑丈な弓と、魔物を一発で倒せてしまう矢をアーロンがどのように手に入れたのかはわかりません。エドワードさんが読んだ分のマリーの日記には「お姉ちゃんは『秘密だよ』と言って教えてくれない」というようなことが書いてあったそうです。

 武器の秘密といえば、聖剣のことについてもローズは知りましたが、マリーに教えなかったようです。話したくなかったのか、話してはいけなかったのか……。

 考え事をしながら何気なく空を見上げて、雪が降ってきたことに気が付きました。

「あ、雪……」

 寒いと思ったら。

「ん? ああ、雪か」

 エドワードさんも気が付いたようです。

 少し早いように思えますが、この辺りでは今くらいの時期に降るものなのでしょうか。

「積もらないといいけど」

 そうですよね。少しくらいなら大丈夫ですが、たくさん積もったら移動が難しくなってしまいます。



 国境を越えてから十日が経って、とある町の宿に泊まったのですが、よくわからないことになりました。

「……何これ」

 朝起きたら、靴を置いておいた所に、見知らぬ茶色い丈の長いブーツが置いてあったのです。そのすぐ横に、黒いペンか何かで「Merry Christmas」と書かれたカードもありました。

 夢でしょうか。どれ、ちょっと頬を引っ張ってみましょう……痛いです。

 ……サンタさんいるんですか? あと私の靴どこ?

 もしかして他に何か書いてあるかとカードを裏返してみれば、「靴は預かった。返してほしくば頑張れ。」と日本語で書いてありました。

 ……靴が人質になったー!?

 ちょっと待って、ちょっと待って、犯人……じゃない、その前に落ち着かないと。

 落ち着いて、よく考えてみましょう。

 まず、このブーツが何かを考えましょう。

 カードに書かれた文字を見るに、クリスマスプレゼントと考えるのが妥当でしょう。クリスマスは日付的にはまだですが。

 今のところ雪が降ってもろくに積もっていないので歩くことに支障はありませんが、これから先どうなるかわかりません。どこかで山を越えたら豪雪とまでいかなくともかなり雪の降る地域になるかもしれませんし、明日急にこの辺りで大雪が降るかもしれません。このことを考えると良いプレゼントを貰えたと思います。

 このブーツを履くとなると私が履いてきた靴は邪魔になるわけですから預かってもらっておくのが良いでしょう。そして頑張って返してもらいましょう。何を頑張ればいいのかわかりませんが。……ああ、そういえば、この世界に来た日にも……。

 次にプレゼントの送り主を考えましょう。

 たぶん、いえ、絶対あの神様です。

 あの存在は日本語を話せます。あの知的な感じのする神様のことですから、書くことも読むことも当然できるでしょう。

 ジークさんに血液型を教えていることと洞窟のレバーのヒントから考えて、ローマ字と英語も理解しているのは間違いありません。

 さらに、ジークさんには星座も教えているので、あちらの世界のことをある程度わかってもいるのでしょう。クリスマスのことを知っていても不思議ではありません。

 ……さて、どうしましょう……まあ、これを履いて過ごすしかありませんよね。

 ブーツに足を入れてみると、ちょうどよいサイズでした。

 部屋から廊下に出ると、ちょうど隣の部屋からエドワードさんが出てくるところでした。

「あ、レイちゃん。おはよう。……どうしたんだい、それ」

 エドワードさんは、ブーツを見て首を傾げました。

「クリスマスプレゼントっぽいです。靴がなくてこれしかなくて」

「もうちょっと詳しく」

 ああ、うん、わかりにくいですね。

 さて、エドワードさんにクリスマスの話はしたことはあったでしょうか。ブラウンさんには話した覚えがあるのですが。

 宿の食堂で、クリスマスプレゼントのことをエドワードさんとジークさんに説明しました。

 説明を聞いたエドワードさんは少し困ったような顔をしました。

「……つまり、神様が、レイちゃんの世界にある宗教の教祖の誕生日を祝ったってこと?」

「祝ったっていうか、ただそういう時期だから贈り物をしてくれただけじゃないかと……」

 私がそう言うと、ジークさんが「たぶんそうだと思う」と同意してくれました。

「……親切っていうか……気前がいいね」

 そうですね。それに、マリーの誕生日にたくさんのノートを、どこぞの貴族には「頑張っていたから」と金色の剣をあげているのですよね。ノートのことは、神様のしたことだとはっきりわかっているわけではありませんが、他にそんなことをできる人はいないでしょう。ノートは日本製――この世界のものではなかったのですから。

 エドワードさんのご先祖様にも剣をあげたようですが、やはり何かの記念のプレゼントかご褒美なのでしょうか。

「これさ」

 エドワードさんは私から受け取ったカードを見つめて言いました。

「神様直筆ってことかな」

 はっ、そうか! ということは、これはものすごく貴重なもの……?

「それにしても、よくこんなの覚えられるなあ」

 え? ああ、漢字のことですか。

「これ見ると……レイちゃんの名前って簡単な方なのかな」

 まあ、エドワードさん!

「私の字覚えてるんですか」

 ずっと前に見せてそれっきりなのに。

「なんとなくね。書くのは絶対無理だけど、見たらわかる気がする」

 きっと、私が「檸檬」とか「薔薇」とかを読めるけど書けないのと同じような感じですね。

 エドワードさんはカードを裏返して今度は英語の方を見ました。

「こっちのは簡単そうだ」

 普段エドワードさんが読み書きしているものに似ていますものね。きっとすぐ覚えられるでしょう。



 朝食をとった後すぐに出発して、日没前に今日の目標にしていた町までたどり着きました。

 足が痛いです。慣れない靴で長距離歩いたせいです。ブーツがとても重いものに感じられます。すっかり疲れてしまいました。

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