慌てる人々。
もぐらもどきたちが共食いをした結果、体長二メートル程のもぐらもどきになりました。それを見た通りすがりの旅人が「何じゃこりゃあ」と言って顔を引きつらせました。
巨大もぐらもどきは私の魔法にばっちりかかっているので、魔物は動けなくしてあるから気にしないでいいと伝えると、旅人は逃げるように去っていきました。
「さてと……」
エドワードさんが大もぐらもどきの横に立ち、剣を構えました。
「はあっ!」
いつになく気合の入った声と共に振られた剣は、巨大もぐらもどきの胴体を傷つけました。
「グウウウウウウゥゥゥゥ!」
斬られた巨大もぐらもどきが苦しそうに鳴きました。ですがまだ消える様子はありません。魔法にかかっていなかったら反撃してくるところでしょう。
エドワードさんが今度は思いっきり剣を突き刺すと、巨大もぐらもどきは力尽きました。
「よかった、斬れて」
空気に溶けていく魔物から離れて、エドワードさんはほっとしたように言いました。
「とどめは突きだったけど」
さて、たくさんいたのを一気に片づけられたのはよかったのですが……
「穴だらけですね」
「うん」
道となっている所も、そうでない枯れかけの草ぼうぼうな所も穴だらけになっています。もぐらもどきのせいです。馬車でこの道を通ろうとする人は苦労するでしょうね。
「放っておいてもいいよね」
すぐそばの穴を見つめてエドワードさんが言いました。
穴を掘ったのは私たちではありませんが、もぐらもどきが穴を掘った原因は私たちですよね……。
「俺たちは悪くない」
ジークさんが言い切りました。
「そうだよな。出てきたの倒しただけ。……行くか」
エドワードさんは穴を放置することに決めたようです。
もうもぐらもどきが出てこないといいのですけど。
三日後、とある町の食堂でお昼を食べている時のことでした。
揺れを感じました。
おおっと、地震です。
「キャアアアアア!」
わ! 何?
「うわあああ! どうなってんだ!」
「きゃあああ! ケーエス様ー!」
何? 何かあった? 誰?
次々と上がる悲鳴に驚いているうちに揺れが収まりました。料理は無事でした。
まだ何人かは騒いでいます。店内を見回してみましたが、何かが倒れたとか、お皿が落ちて割れて怪我をしたとかはないようですし、壁や天井がおかしくなっているわけでもなさそうです。
「そんなに揺れたわけじゃないのにすごい騒ぎですね」
もしかしたらどこかは強い揺れに襲われたかもしれませんが、ここの震度は三くらいだったと思います。外を歩いていたら気付かなかったかもしれません。
「レイちゃんは落ち着いてるね。揺れたことより悲鳴に驚いたんじゃないかい」
おお、エドワードさん、私のことわかっていますね。そのとおりです。
最初は、料理がこぼれて女性が火傷をしてしまったのかもと、ちらっと思ったのですが。
「悲鳴がすごかったからまさか殺人事件でも起きたのかと……」
悲鳴に驚いてしまって、テーブルの下に潜ることが頭から吹っ飛んでいました。これではいけませんね。
「揺れてる中で殺人事件って、それ地震に慣れてるどころじゃないんじゃ……」
エドワードさんに少し呆れたように言われてしまいました。
だって、まるで第一発見者とか目の前で誰かが刺された人のような悲鳴で……って、サスペンスの見過ぎでしょうか……もう半年以上は見ていないのですが……。
「……慣れてないとこうなっちゃうんですね」
家族が心配だと大急ぎで出ていく人もいれば、頭を抱えてぶるぶる震えている人もいますし、手を組んでお祈りしているらしい人もいます。店内の雰囲気が、のんきに食事をしている場合ではない、という感じです。
これが日本だったら、「揺れたねー」とか話しながら食事を再開する人とか、携帯電話をいじりつつ食事をするというお行儀の悪い人が多いのではないでしょうか。
「不安になるのは仕方ない」
ジークさんが言いました。
「揺れるだけで済めばいいけど、他にもいろいろ起きるかもしれない。最近は魔物が強いから“近いうちに魔王復活説”がもっと広まるかもしれない」
何ですか、それ。魔王が地震を起こしてるとか、地震は魔王復活の予兆とかそういう考えですか。
「火事とか津波とかはわかりますけど、魔王もですか」
「地震と魔物は無関係とは言えないらしい」
そう言うので、どんな関係があるのか聞いてみました。
なんでも、地震が起きると、揺れた地域では急に魔物が増えたり強くなったりすることがあるそうです。一時的なことらしいのですが、長いと半年くらいは厄介な状態のままなのだとか。
「よくわからない存在がいるって大変ですね……」
場所によってはただでさえ面倒な相手なのに地震がきたらもっと面倒なことになるかもしれないなんて。しかも地震の規模によっては警戒するべきものが増えてしまいます。
「ずっとずっと昔は魔物なんかいなかったらしいし、魔法もなかったってあの人言ってたけど、だとしたらどうしてこうなったんだろうね」
へ? エドワードさん、今、衝撃的なことを言いましたね?
「魔法、なかったんですか?」
魔法のあるファンタジーな世界ではなかったと?
「ん? あ、あの人に会った時レイちゃんいなかったか。まあ、かもしれないってだけだよ。かなり昔のものっぽい壁画とか石版とか、古ーい本とかに魔法のことがないんだってさ。魔物もね。見つかってる資料自体が少ないからはっきりとは言えないらしいけど」
へえ!
「そんな楽しそうな話してくれる人といつ会ったんですか。あとその人何者ですかっ」
エドワードさんがふっと笑いました。たぶん私は「本当に魔法好きなやつ」とか思われたのでしょう。
「船に乗ってる時に、ほら、朝早くにやたらと跳ねる魔物が襲ってきた日に。魔物が来る前に甲板でちょっと話したんだ」
んー、そんな魔物……あ、早い時間に魔物退治をしたとエドワードさんとジークさんから聞いた日がありましたが、あの日でしょうか。
よく跳ねる魚のような魔物がたくさん船を追いかけてきて、エドワードさんたち目がけて跳んだり船の上で跳ね回ったりしたと聞きました。結構面倒な魔物だったらしいです。私を起こすのは遠慮したともエドワードさんは言っていました。叩き起こしてくれてもよかったのに。
「一応学者だって言ってたよ」
いいなあ。たとえ少しだけでも、私も話を聞きたかったです。
食堂の外でも、不安で落ち着けない人が多いようでした。
街を歩いていて聞こえてくる会話から察するに、揺れを感じなかったけれど揺れを感じた人から話を聞いて不安になっている人も多いようです。
教会の前を通った時、エドワードさんが呟きました。
「名前で呼ぶのか……」
「何のことですか」
「ここの人は神様のこと名前で呼ぶんだなーって思っただけ」
「え?」
神様を名前で?
そういえばあの神様の名前を私は知りません。どういう神様なのかと考えたことはあっても、名前のことは考えていませんでした。
「え? あれ、レイちゃん知らない? 神様はケーエスっていう名前なんだよ」
ケーエス? あ、それお店で聞きました。誰だと思ったら神様の名前だったのですか! 助けが欲しい時に呼ばれるわけです。
「そうなんですか」
何か神様から聞いていないかとジークさんに確認してみたら、
「『間違ってはいない』って言ってた気がする」
と返ってきました。
そうかー、あの神様にはこんな名前がついていたのですね。よし覚えた。
悲鳴を聞いて、一瞬だけ、事件の被害者の名前かと思ったのは秘密にしておきましょう。




