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増える魔物

 ロランさんの家をお暇して通りを歩いていると、

「離してください!」

 という、悲鳴に近い叫び声が聞こえました。

 声の方を見てみれば、私と同じ年くらいの女の子が二人、いかにもごろつきな五人に取り囲まれていました。

 ごろつきっぽい人たちは「ぶつかったんだから謝れ」的なことを言っていますが、わざとぶつかって因縁ふっかけて少女二人を連れ去ろうとしているようにしか見えません。

 あっ、ごろつきたちの中に刃物を抜き身で持っている人がいます。私たちが恐喝の現場に遭遇したことは間違いないようです。

 彼女たち、怖いでしょうね。でももう大丈夫です。エドワードさんもジークさんも危険な目に遭っている人を見たら放ってはおきませんから。

 ジークさんが、

「俺が」

 とだけ言って、ごろつきたちにすたすたと歩み寄り、何も言わずにごろつきの一人に華麗な回し蹴りをお見舞いしました。

 驚く街の人々の前で、ジークさんは次々とごろつきを地面に転がしました。お見事!

「いってえええ……」

 ごろつきは脚やお腹を押さえて痛そうにしています。

「怪我はないか」

 ジークさんが、ぽかんとしている女の子二人に声をかけました。

「……あ、ありがとうございました! 助かりました」

「……あっ、ああありがとうございましたっ」

 おおう、片方の子の顔が真っ赤ですよ。ついでにジークさんから目が離せなくなっているようにも見えます。

 少女二人だけでなく他の住人からも感謝されるジークさんを見ながら、エドワードさんが小声で言いました。

「きっとあの子にとってジークは王子様か何かだね」

「やっぱりそう思いますか」

「うん。わかりやすい子だね」

 二人でこそこそ話していると、ジークさんが戻ってきました。ごろつきはここの住人に任せたようです。

 かっこよかったですよ、ジークさん。

「前からずっと思ってましたけど、エドワードさんもジークさんも見てて面白いくらい女性に人気ですね」

「……そうかな。改めてレイちゃんにそう言われると、なんか照れるな」

 あ、エドワードさんの顔が少し赤くなりました。珍しいですね。

「何回も告白されてたりしませんか」

「あー……二十よりは多いかな」

 わあ、すごい!

 どのくらいが普通か知りませんが、二十回以上というのは多いでしょう。

「ジークさんはどうですか」

「一度もない」

 えっ……あ、ジークさんには近寄り難いのが原因でしょうか。無表情で口数が少なくて喋ったかと思えば感情なんてなさそうな声を出しますし、珍しい赤毛でおまけに目も赤いですし。ケイさんが隣にいればいくらか近付きやすくなるかもしれません。

「レイちゃんは」

「ないです」

 私にそんな経験あるわけないじゃないですか、エドワードさん。

「僕が全部言う前に答えるなんて珍しいじゃないか」

「私は影が薄くて地味なやつです」

 冬休み前に高校の同級生から「名前は覚えてるけど顔が浮かばない」「教室にいるのを見て誰だろうって思った」と言われるくらいには。そう言った彼とは席が近かった記憶はありませんし、話したこともなかったはずですので当然のことだったのかもしれませんが……いえ、普通そんなことはないですよね……。もう少し目立っておいた方がよかったのかもしれませんが恥ずかしがり屋の私にそんなことはなかなかできません。

「確かに派手って感じはしないけど、中身は悪くないと思うよ?」

「え……あの、ありがとうございます?」

 なんだか恥ずかしいというか照れくさくて視線を下げたら、エドワードさんが少し笑った気配がしました。……嫌な予感。

「うん、そうやって顔が赤くなるのがかわいい」

 ……う、あああ! そんなこと言われたら! からかわれているとわかっていても!

「ははは、真っ赤」

 エドワードさんの策に盛大に嵌った気がする!

 どうにかしたい! 恥ずかしいとすぐ顔に出るのどうにかしたい……!



 街を出て街道を歩いていると、上の方から魔物のものらしき鳴き声が聞こえました。

「ギャアアアアァァ」

 うわ、大きいの来た!

 大きな鷲のような魔物が一匹飛んできています。なかなかの速さですが、海で飛んできた魔物よりは遅いですね。周りに人がいないので私たちが狙いでしょう。

「さーて、ここの魔物はどんなかな?」

 エドワードさんがどこか楽しそうに言いつつ剣を抜き、

「それっ」

 馬鹿正直に真正面から突っ込んできた魔物をスパッと斬りました。

「うん、まだまだ大丈夫そうだ」

 空気に溶けていく魔物を見ながらエドワードさんは満足そうに言いました。

 それからまた少し歩いたところで、地面が少し盛り上がったのが目に入りました。

「ギュー!」

「ギュウウゥゥ!」

 出たっ。

 二匹の魔物がほぼ同時に地中からニュッと顔を出して鳴きました。

 魔物には耳らしきものが見当たりません。何の形をしているのでしょうか。

「よしレイちゃん、任せた」

 はい。やります!

【動くな!】

 魔法で魔物たちは動かなくなりました。

「うん、レイちゃんの魔法はここでも強力だね」

「場所によって変わったら困る」

 エドワードさんとジークさんがそんなことを言いながら魔物を剣で刺しました。

 はい、魔物退治終了。と、思っていたのですが、五十メートルも歩かないうちに同じ魔物が出てきました。今度は一匹です。

 とりあえず魔法で魔物の動きを止めると、ジークさんが魔物をがしっと掴んで引っこ抜きました。

 魔物は体長三十センチくらいでした。この形は、もぐら?

 エドワードさんがジークさんに何をやっているのかと聞くと、

「全体を見てみたかった」

 とジークさんは答えました。

「何度も思ってるけど……よくやるよ、本当に」

「何度も言ってるけど、何ともないからな」

 魔物を触りたいと思ったら気兼ねなく触れるのは少し羨ましいです。ローズだって駄目だったらしいのに。

「重くないですか」

「それほどでもない。持ってみるか」

「嫌です」

 こんな所に出る魔物なんて触ったらどうなることか。暗い気持ちになったり怒りっぽくなったりするだけならまだいいですが、周りに迷惑をかけてエドワードさんに殴られるなんて絶対嫌です。

「そうか」

 とだけジークさんは言うと、ぱっと手を離して魔物を地面に落とし、聖剣で容赦なく刺しました。

 今度こそ魔物退治終了でしょうか。

 私の考えていることがわかったのか、エドワードさんが冗談めかして言いました。

「この下にまだいっぱいいたりして」

 うわ、それは嫌ですね……。

「また共食いでもさせて出してみますか」

「いい案かもしれないけど、数によっては大変なことになるかもよ?」

 蜂もどきも蟻もどきもすいかくらいの大きさになって出てきましたものね。もぐらもどきが大量にいて、それが全部くっついたらどんなに大きな魔物になるでしょうか。……大きな魔物か……ふむ。

「魔王って大きいんですよね」

 借りた本では超巨大とんぼみたいな感じでしたし、あの日記には「魔王はすごく大きい蛇みたいな魔物」というようなことが書かれていました。

「それがどうかした?」

「今のうちに大きいのに慣れておいたらどうかなって思って」

 そう言ったら、ジークさんが、

「そんなのが出られるくらいの巨大な穴作ってどうする」

 あー、そのことを考えなければいけませんでしたか。

 蟻もどきの時は穴がそれほど大きくはなかったので簡単に埋めて放置してきましたが、今回は一匹ずつ地道に倒していった方がいいのかもしれません。

「たくさんいるとしても、別に全滅させなくていいんじゃないかな。この辺りの魔物は強いってみんなわかってるはずだし」

 確かにそうですね。きっと強い人もたくさんいますし、大丈夫ですよね。それに、どうせまたどうやってか出てくるのでしょうし。

 そんなことを考えていたら、不意に足下が盛り上がりました。またですか。

「えいっ」

 出てきた魔物を杖で思いっきり突いてみたら、魔物は苦しそうに鳴きました。強いはずですが防御力はあまりないようです。

 魔法で動けなくしてから何度か突くと魔物は空気に溶け始めました。ふう。

「うわ大量。面倒だな」

 エドワードさんの言葉に周りを見てみれば魔物があちこちで顔を覗かせていました。

【魔物はうごくなーっ】

 とりあえず魔法で動けないようにしました。で、どうしましょうか。

「やっぱり共食いさせましょうか」

「うん。任せた」

 さあ覚悟しなさい、魔物たち!

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