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一人は怖い

 怖いです、すごく怖いです。懐中電灯の明かりだけのエレベーター怖い!

 小学生の時に読んでみた本とか中学生の時にうっかり見てしまったテレビ番組を思い出してしまいました。どちらも内容はホラーです。誰も乗り降りしないのに止まる、扉が開かなくて外に出られない、気が付いたら乗っている人がいる、扉が開いたら中で人が……ああ怖い!

 ホラーでなくてもありえることではあるでしょう。誰も乗り降りしないのはボタンを押し間違えたとか、乗り降りをやめたとか。扉が開かないのは故障。人が中で死んでいるようなのは殺人事件。あ、病気の可能性もありますね。気付いたら人が乗っているのは……えっと、その、鈍感だから……?……あああやっぱり怖い! 暗いエレベーターに一人きりは怖い! しかもここ洞窟! 洞窟といえば出られなくなってしまった人があああ、もう考えたくない……!

 杖と懐中電灯を握りしめて恐怖に耐えていたら、

「地下二階です」

 そんなアナウンスが聞こえました。いつの間にかエレベーターが止まっていました。

 前を懐中電灯で照らしてみれば、また「強く押す」と書かれた壁がありました。

 降りるべきでしょうか。エレベーターにボタンは見当たりません。スピーカーは見つけましたが何かできるわけでもありません。どうしようもないですね、降りてみます。

 入ってきた時のように、体重をかけて押すと壁がくるりと回って、私はエレベーターの外に出ました。

 エレベーターの外は、足下は白い床で他はエレベーターの向かいの壁を除いて散々歩いてきた道と同じでした。道は左に延びていて、途中から床が地面に戻っています。

 エレベーターの向かいの壁がどう違うかというと、大きな看板が設置されているのです。そして、なんとその看板にはこの洞窟の案内図が描かれています。

 看板によるとこの洞窟は「第二保管施設」といって、地下三階から地上二階まであるらしいです。

 看板の中心より左には地下階の図が、右には地上階の図があり、地上一階の図の下には備考があれこれ書かれています。

 地下二階の図の中心よりやや右下に赤く短い線が引かれていて、そのすぐ下に赤い字で「現在地」と書かれているので、私が今いるのはエレベーターで聞いたとおり地下二階のようです。すぐそばの下向きの矢印はおそらくエレベーターでしょう。

 エレベーターに乗ってしまったのは地上一階のようで、行き止まりだと思っていたエレベーター前の床の所から道が延びていて、進んでいくと階段で二階と地下一階に行けるようです。備考によると「第一昇降機の降下で通行可」だそうです。第一昇降機というのは私が乗ったエレベーターのことでしょうね。

 第一昇降機の降下によって変わったのはあそこだけではありません。私が出っ張り――どうやら「第二開放装置」というらしいです――を押したことで動いた壁が閉じられたようなのです。ここから出るには……まずは地下一階に行けばいいのかな……?

 どうやら地下三階以外は階段で繋がっているようです。簡単に行き来できるわけではないようですが。地下三階へは地下一階でエレベーターに乗ればよさそうです。地下三階だけなんだか特別扱いみたいですね。もしかしたら“よくわからないけどすごいもの”は地下三階にあるのかもしれません。

 さて、どうしましょう。どうしたらエドワードさんとジークさんに会えるでしょうか。

 エドワードさんとジークさんはどうするでしょうか。地下一階に下る階段の前には壁があるみたいです。その壁は、備考欄に「第一開閉切り替え装置で操作可」とあり、どうやら動かせるようですが、第一開閉切り替え装置がどこにあるのかわかりません。二階に行くことになるのでしょうか。

 二階に行ってそれで、どうなるのでしょう? 階段は一つだけなので戻ることになりそうですが、二階に何もないとは思えませんから……そうですね、切り替え装置があるとか、保管施設だから何か保管されているとか? 探している“よくわからないけどすごいもの”が地下三階ではなくて二階にある可能性だってありますし、また別のものがあるのかもしれません。

 案内図があるのはいいですが不親切です。装置の場所はわかりませんし、昇降機には“第一”とか“第二”とかついているのにどれがどれか書かれていません。何も無いよりはましでしょうけど。



 私なりにいろいろ考えて、地下一階の、地上一階への階段か地下三階へのエレベーターを目指してみることにしました。

 分かれ道を曲がったり曲がらなかったり、手を伸ばしてボタンを押して壁を動かしてみたり、壁に付いているレバーを上げても何も起こった様子が見られなかったりしながら進み、無事に地下一階への階段を見つけました。

 地下一階に上がってみると、相変わらず真っ暗で、地上一階、地下二階に比べると幅の狭い道が延びていました。

 この階は分かれ道が多く、先へ進めるルートがいくつもあるので、他の階に比べて迷いやすいでしょうから注意せねばなりません。

 でもまあ、大丈夫だとは思います。携帯電話で案内図の写真撮ってきましたから。使えないかもと思いましたが、普通に電源が入ってしかも充電はほぼ満タンでした。

 あれこれ押したり引いたりしながらそれなりに順調に歩いていて、道が左とまっすぐに分かれている所に差し掛かった時、突然、

「うっ……!?」

 足下が崩れましたあああああ!?

「おいっ」

 誰かの声が聞こえて、左手首のあたりをがしっと掴まれました。

 ……えーっと、何が、どうなって?

 私の足は地面についていません。腕を掴まれてぶら下げられています。どうやら地面に穴が開いて下の階に落ちかけたところを助けてもらえたようです。落ちていたら死ぬことはなくとも骨折くらいはしていたかもしれません。

「間に合った……」

 頭の上からほっとしたような声が聞こえました。

 引っ張り上げてもらって穴から離れた所に座り、一体誰が助けてくれたのかと目の前に座る人の顔を見てみれば、なんと、元どこかの勇者さんでした!

「怪我はないか」

 元勇者さんとは別の人に声をかけられて、彼の隣に立っている人を見れば、これまたびっくり、氷みたいな人でした!

「にゃー」

 あ、シロちゃん!

 氷の人の足下にいた白い猫――シロちゃんが寄ってきて、私の膝の上に乗りました。ふふふ、かわいいなあ。

 それにしてもこれってどういう組み合わせ……おっと、考える前に、元勇者さんにお礼を言わなければ。

「ありがとうございます」

「ん。――あの二人はどうした?」

「……はぐれました」

「何があった?」

「……私の、不注意です……壁が回って、戻れなくて、エレベーターが動いて……」

 ああもう、今になって泣きたくなってきました。私の馬鹿!

「一緒に行くか?」

 ……え?……えーっと、どうして?

「あの二人が見つかるまで。お前一人っていうのは、なんていうか……」

 どこかの勇者さんは何を思ったかそっぽを向いてぽつりと言いました。

「……心配だから」

 あらまあ、初めて会った時とは別人のようですね、この人。誰かを心配するような人にはちっとも見えませんでした。今日で会うのがやっと三回目の私が誤解していた可能性も大いにありますが、あちこち行って考え方でも変わったのでしょう。確か、勇者をやめた理由が「命令どおりに動くのが嫌になった」でしたし。

 ところでこの人はよくても氷の人はどうなのでしょう?

「あの……お二人は一緒ですよね」

 聞いてみたら元勇者さんも氷の人も頷きました。

「まあ一応」

「シロが離れようとしないから」

 え、シロちゃんが原因なのですか。

「私も一緒でいいですか」

 今度は氷の人とついでにシロちゃんにも聞いてみたら「構わない」と返ってきました。シロちゃんも「いいよ」とでも言うように「にゃ」と鳴きました。

「……よろしくお願いします」

 また地面が崩れるかもしれませんし、それに、エレベーターでなくても暗い所に一人は怖いです。この二人と一緒にいれば安全というわけでもないと思いますけどね。むしろ危険かもしれません。でもやっぱり一人は嫌です。誰かがいればちょっとだけ安心できます。今の私にとって怖いのは生きている人より幽霊です。本当にいたとして、魔法が効くかどうかわからないのですから。

「お前、それどれくらい使える?」

 え? ああ、懐中電灯のことですね。

「わかりません。まだしばらくは大丈夫だと思います」

「じゃあ明かりはお前に任せる」

 はい、わかりました。

 ところでこの二人と一匹は何か辺りを照らせる物をもっているように見えないのですが、どうやってここまで来たのでしょうか。それに、元勇者さんはあの金色の剣を持っていないようです。代わりに普通(たぶん)の剣を持っています。

「あの、ここに来るまでの明かりは……」

「これで来た」

 元勇者さんは手のひらを上にして左手を見せてきました。そして、

「わっ」

 電気を点けた時のように、目の前がぱっと明るくなりました。

 元勇者さんの手の上に金色の光の塊のようなものが載っています。どうやらこれを明かりにして来たようです。

 彼は一体何をしたのでしょう?

「何ですかこれ」

「俺にもよくわからん。魔法使う時に指でやってることを手のひらでやってる感じか。難しいことじゃないと思うけど俺以外にできるやつ見たことない」

 何それすごい! 後で私もやってみましょう。

「じゃあ……あの金色の剣はどうしたんですか」

「折れた」

 えー……前に見た時にはすでにひびが入っていましたけど……。

「だから捨てたんだけどな、次の日に目が覚めたら枕元にあった。しかも直ってた」

「えっ」

 もしかして神様が直したのでしょうか。

「気味が悪かったから湖に沈めてやった。それから見てない」

 ……捨てたものが戻ってきているのは確かに気味が悪いと言えますが……余りものでできているといえどあれは神様が作ったものなのに。しかも直してくれたのかもしれないのに。

「何だよ、文句あんのか」

「……別にそういうわけじゃないです」

 答えたら、いかにも「怪しい」という目で見られました。

 ええそうですよ、文句ありますよ。でも口に出すほどではありません。

「あれのこと何か知ってんのか」

「頑張ってた人に神様が作ってあげたらしいです」

「誰に聞いたんだそんな話」

「神様から聞きました」

「何お前本当に神使なわけ?」

 人を物みたいに言ったあなたがそう言いますか。

「……いろいろ考えるようになってから怪しく思ってた」

 ああそうですか。

「人間だって言われると微妙だけどな」

 私は人間ですよ。でも、あなたの言う「人間」と私の言う「人間」は別のものかもしれません。

 最近思ったのですが、世界が違うのですから生き物もきっといろいろと違ってくるでしょう。似たような世界なら同じになるかもしれませんけどね。

「さあどうでしょうね」

「あっそ」

 素っ気なく言ったら素っ気なく返されました。

 ……はあ、やってしまいました。せっかく普通に話せていると思ったのに。助けてもらったのですからこんな態度ではいけないのに……。

「シロ」

 何を思ったか氷の人がシロちゃんを呼んで、元勇者さんを指差しました。

 シロちゃんは「にゃっ」と短く鳴いて返事をすると、私の膝の上から降りて素早く元勇者さんのもとへ行ったかと思うと、彼の脚に猫パンチを繰り出しました。

「こらやめろっ」

 シロちゃんは、やめさせようとする元勇者さんの手をかわして彼に何度もパンチしています。

 これは氷の人の指示でシロちゃんが動いているということですよね? ふふ、アニメの主人公とその相棒っぽさが少し増しましたね。それからシロちゃんは賢いですね。

 どうしてシロちゃんにパンチさせているのか氷の人に聞いてみたら、

「軽い制裁」

 ……はい?

「リヒトに何か嫌なこと言われたことがあるだろう」

 ……リヒト? 誰? あ、もしや、

「リヒトさん?」

 元勇者さんを指して氷の人に聞くと、彼は頷きました。

「おい、デューク、やめさせろ!」

 シロちゃんに手をべしべし叩かれながらリヒトさんが氷の人に向かってそう言いました。

「猫なんだから簡単に止められるだろう」

「こいつただの猫じゃないだろっ、いっ」

 あ、シロちゃんがリヒトさんの左の手の甲を引っ掻きました。

 うわあ、痛そう。

「にゃあ」

 シロちゃんが私の膝の上に戻って、私を見つめてきました。なんだか「褒めて」とでも言われているようです。

「やり過ぎだ」

 氷の人――デュークさんがシロちゃんの首の後ろを掴んで持ち上げました。彼はシロちゃんがリヒトさんを引っ掻くとは考えていなかったのでしょうか。

「あの、魔法と絆創膏とどっちがいいですか」

 そうリヒトさんに言ったら、彼は不思議そうな顔をしました。

「は?」

「だから、えっと、魔法で治すのと、絆創膏……傷口に貼ればいいのがあるんですけど、どっちがいいですか。魔法はほとんど使ってないので失敗するかもしれなくて、貼るのはちょっと小さいかもしれませんけど……」

「お前に魔法使われたくない。こんなもんほっときゃいい」

 だいたい予想どおりの答えが返ってきましたよ。

「もう行くぞ」

 リヒトさんは立ち上がりました。

「そうだな」

 デュークさんが頷いて、すっと手を差し出してきました。

 掴めばいいのですよね、これ。なんというか、騎士っぽいですね。

 立たせてもらってから、

「あの私、地下三階に行けるエレ……昇降機か上に行ける階段まで行ってみようかと思ってたんですけど、お二人はどうしようとしてたんですか」

 と聞いたら、リヒトさんがまた不思議そうな顔をして言いました。

「もしかしてお前、どこに何があるのかわかってんのか?」

 そういうあなたはわかっていないのですか。

「案内図見なかったんですか」

 あんなに目立つものを見ていないなんて。エレベーターに乗らなかったということでしょうか。

「どこにあったんだそんなもの」

「下の、昇降機降りた所にありましたけど」

「上がってきてたのか……」

 二人と一匹はどうやって来たのかと聞けば、どうやら案内図には無い道を来たらしいことがわかりました。

 なんでも洞窟に入ってすぐの所でシロちゃんが地面を何度も叩くので、そこをよく見てみたら不自然な窪みがあったそうです。

 窪みに手を掛けて上に引いてみたら、地面の一部が開き、穴の中には梯子がありました。

 梯子を伝って降りてみたらこの階で、細い道が延びていたのでとりあえず進んでみたらある所から道幅が広くなり、さらに進んだら私がいた、ということらしいです。

「お前の好きなように行けばいい。俺らはついてくから」

「じゃあこっちに」

 道がわかるのが私だけなので、私が行こうとしていたように行くことになりました。

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