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洞窟に

 ケイさんたちと会ってから二日でドルクという村に着きました。

 明日は洞窟探険をします。

 この村の近くにある洞窟の奥には“よくわからないけどすごいもの”があると言われているそうです。それがおそらく「神の道具」なんて御大層な名前が付いた物の一つらしいということで、取りに行ってみるわけです。

 どんな物なのかはわかりません。それを見た人はいないそうです。それでは何故洞窟にあることがわかるのかというと、三年前に神様のお告げがあったそうなのです。この村の、何故か酒場の息子に。

 さっそくお告げの話を聞きに酒場に行ってみたら、

「オレの話聞きにきた中であんたらが一番見た目が個性的だよ」

 と、お告げをもらったという酒場の息子さんに言われました。彼はエドワードさんと同じくらいの歳でしょうか。茶色の髪とオレンジ色の目で、普通の人に見えます。

「毛が紫のやつなんて初めて見た」

 ……今日の私は紫色ですか。毒々しい紫だったら嫌ですね……。

 酒場の息子さんは、ここで食事をすることを条件に、洞窟について彼が知っている限りのことを教えてくれました。ここには少なくとも月に三組は洞窟の話を聞きにくる人がいるのだとか、洞窟には明らかに何者かの手が加えられているのだとか、この国の調査団が誰よりも奥まで進めたのではないかとか、洞窟に入った人はおそらく全員無事に帰ってきているはずだとか……。

 一体、洞窟に何があるのでしょう。武器でしょうか。それとも平成の日本にたくさんある物でしょうか。

 今まで見つけた物は武器を除いて鞄に入る大きさの物ばかりですが、今度もそうとは限りません。テレビ本体とか大きなものだったらどうしましょう。



 翌日はよく晴れていました。洞窟探険をするにはちょっともったいなく思えます。

 村を出て、細い道を通って谷底にある洞窟の入り口まで来ました。すぐそこには川が流れています。

 ぽっかり開いた入り口から洞窟の中を覗いてみました。

 地面から天井までの高さは二メートルあるかないかくらいで、横は大人二人が横並びで歩けるくらいです。洞窟というよりトンネルのように思えます。

 酒場の息子さんが言うことには、現在行けることがわかっている所はどこも同じようになっているそうです。

 さて、暗い所を探険するのですから、懐中電灯の出番ですね。

 あ、そうだ、簡単には落とさないように懐中電灯に付いているひもを手首に巻きつけておきましょう。右手が杖で左手が懐中電灯で、両手がふさがってしまいましたが、いざというとき左手は空けられます。

「レイちゃん、本当にそれ使うのかい?」

「こういう時のための物です」

 それ、スイッチオン。

 懐中電灯で洞窟内を照らしてみました。見える範囲では一本道のようです。

「結構明るいんだね。これってどれくらい使えるもの?」

「……わかりません……そこそこもつと思いますけど……」

 懐中電灯に必要な電池は単三が二本で、トマスさんたちから奪ったリモコンも同じなので、もしも電池が切れたらリモコンのものと入れ換えることができますが、果たしてその電池もどれくらいもつことやら。

「ちょっと不安だけど、まあいいか。それが駄目なら松明にすればいいんだし。――行こうか」

 エドワードさんとジークさんの足を引っ張らないようにしなければ。



 障害物があるわけでもなく魔物が襲ってくるわけでもなく、洞窟内をただただ歩いていくと、道がまっすぐと右に分かれていました。

 まっすぐの方はすぐに行き止まりで、右は奥に続いています。

 右の道は三年前までは誰も存在を知らなくて、酒場の息子さんが神様に教えられて、洞窟内に隠されていた仕掛けを動かして通れるようにしたのだと聞きました。

 右に曲がって、奥へ奥へと進んでいったら、行き止まりになりました。

「広くなったね」

 エドワードさんの言うとおりです。通路だったのが部屋になった感じでしょうか。天井はやや高くなっていて、壁から壁までが遠くなっています。

「部屋ってここのことなんだろうな」

 ジークさんもここを部屋だと思ったようです。

 昨日、酒場の息子さんは「部屋から先は行ってない」と言っていました。つまり、先があって、どうにかすれば進めるということです。実際に、何組かの物好きとかこの国の調査団は先に行ったようですし。ここで諦めたのはわずかだろうとも聞きました。

 あちこち照らしてみたら、右の壁に白いペンキか何かで字が書かれているのを見つけました。

 なになに……右三、後ろ四、左二……。

 ゲームみたいに考えて、字が書かれている所から右に三歩、後ろに四歩、左に二歩動いてみました。

 ……足下には特に何もないようです。じゃあ上……あ、あった!

 天井に怪しげな長方形の出っ張りを見つけました。歩幅によっては出っ張りの真下に移動できたかもしれません。

「あれ、押してみていいですか」

「あれって押すもの?」

「……たぶん」

 そうでなかったら……引いてみるとか?

「いいよ、押してごらん」

 エドワードさんから了承を得られたので――えいっ。

 軽くジャンプして出っ張りを押してみました。ゲームみたいに考えるなんて馬鹿かもしれない、と一瞬思いましたが、押し込むことができました。

 その直後、壁の一部が地面に沈み始めました。

 おお! 洞窟の壁が動くとかなんてファンタジー……! 冒険ものが大好きな友達にも見せてあげたいです。

 壁が動くのを見ていたらしまいには大人一人が通れるほどの四角い穴が壁に開きました。

 壁の向こうには通ってきたのと同じような道が続いています。

 エドワードさんが、一部が地面に引っ込んだ壁を見て言いました。

「ここ、塞がってたけど、先に行って戻ってきた人がいるってことは塞げるってことかな」

「この出っ張りはもう押せないみたいですけど……」

 出っ張りは私に押し込まれた状態のまま元に戻っていません。

 もう一度押したら元に戻るかもと思って試してみましたがそうでもないようです。

 他にも出っ張りか何かないかと探してみても見当たりません。

 ここで塞げないのなら、どこか別の所で操作できるか、勝手に塞がるかでしょう。

「……行ってみるってものかな」

 とりあえず先に進んでみることになりました。



 壁から先には分かれ道が多くありました。

 どうやら奥に進めるルートは一つだけのようで、間違った道はすぐに行き止まりになっていて迷う可能性は低そうです。

 そのことに少し安心して進んでいったら、

「こっちも行き止まりか……」

 右も左もまっすぐも行き止まりになってしまいました。

「何かありそうだけど」

 エドワードさんの言うとおりです。何故なら、あと三歩くらい進めば地面が屋内の床のようになるからです。

 何か起こるのではないかとドキドキしながら床の上に立ってみましたが、特に何もありませんでした。

 床は、学校や病院などで使われている、えーっと、リノリウムと言うのでしたか? そんな感じで白色です。屈んで触ってみたら、思ったとおりつるつるしていました。

「あ、あそこ」

 エドワードさんが、床の右の端を指差しました。そこには、壁を指す黄色い矢印が描かれていました。

 何かあるのかと壁を下から見ていくと、私の肩の高さくらいの所に、壁に小さく白い字で「強く押す」と書かれていました。……あれ? これ、普通に読めましたけど、イリム語ではないではありませんか。

「これ、何語ですか」

「アルスリア語」

 聞いてみたらジークさんが答えてくれました。

 えーっと、確か、主にシクト大陸の、地図だと上半分くらいで話されているのがアルスリア語だったはずです。

「読めるか」

「はい」

 で、これは、出っ張りも何も見当たらないので壁自体を押せばいいのでしょうか。

 とりあえず字が書かれているあたりを手で押してみましたがどうもなりませんでした。

 力が弱いからかと思って、体重を壁に預けるようにして押してみると、

「わっ……あ!?」

 壁の一部が動きました。忍者屋敷の仕掛けのようにくるりと回りました。その場に踏みとどまれなかった私は壁の後ろの空間に入ってしまいました。

 周りを照らしてざっと見てみると、回った壁以外はどこも先程までいた床と同じものでできているらしい、狭い部屋のような場所だとわかりました。

「レイちゃん!」

「大丈夫か!」

 回った壁の向こうからエドワードさんとジークさんの焦ったような声が聞こえました。

「大丈夫です!」

 早く戻らなくては。また壁に体重を預けるようにすればきっと回るはずです。

 あ、二人がこっちに来るのもありですね。壁が回るのですから何かあるでしょう。

 とりあえず、回しましょうか。

「下に参ります」

 ……はい? え? 下に?

 突然、何度も聞いたことのあるような女性の声と台詞が聞こえたと思ったら、部屋全体が下がりだしました。

 いきなりどういうことですか、これは。

 慌てて前の壁を押してみるも全然動きません。もしかして一方通行でしょうか。それとも……。

「私そっちに戻れそうにありません! あとここ下がってます!」

 私ではどうしようもできそうにないので、とりあえずエドワードさんとジークさんにどうなっているか伝えようとして大声で言ってみましたが、ちゃんと届いたでしょうか。

 ああもう、何がどうなって私は戻れなくてここは下がってるんですか! 何ですか「下に参ります」って! エレベーターですか!……そうかこれエレベーターだ! 何でこんな所に!

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