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勇者が来た。

 お昼過ぎ、部屋で魔法の呪文の暗記に取り組んでいたところ、スチュワートさんがやって来て、言いました。

「勇者が来たよ」

 勇者かあ、どんな人かな。強いんだろうな。

 私が昨日連れていかれた広間にいくと、昨日のおじいさんが、二十歳くらいの男性と話していました。彼が勇者でしょうか。

「おお、お嬢さん、来てくれましたな」

 私に気づいたおじいさんが笑顔で迎えてくれました。

「勇者殿、紹介します。こちらのお嬢さんがお告げの人物のレイ……なんでしたっけ?」

「小林です」

「レイ・コバヤシさんです。すみませんな、名前を忘れて。で、お嬢さん、この方はエドワード・ハルクロード殿。勇者です」

 やっぱりそうですか! おっと、挨拶をしなければ。

「はじめまして。こば、レイ・コバヤシです」

 危ない危ない。日本でするように自己紹介をするところだった。疑問を持たれて質問攻めは嫌ですからね。苗字を知られた時点でもう疑問を持たれているかもしれませんが。

 私の心配をよそに、ハルクロードさんはにっこり笑って挨拶を返してきました。

「こんにちは。さっき大司教様がおっしゃったように、僕はエドワード・ハルクロード。旅についてきてくれるんだってね。これからよろしく」

「はい、よろしくお願いします」

 ハルクロードさんは深い青の髪と目をした親しみやすい感じの美形です。この人、きっとモテモテです。「すみません、遅れました」

 誰かが謝りながら広間に入ってきました。振り向くとレルアンさんがいました。

「真っ赤だ……」

 ハルクロードさんがそう呟きました。彼はレルアンさんの容姿に大層驚いている様子。もしかして、赤い髪や目は珍しいとか? こんなファンタジーな世界で青やオレンジがいるのに。

「勇者殿、紹介します。彼が先ほど少しお話ししたジーク・レルアン。優秀な剣士です。お告げがある前に、いくら勇者殿でも旅は一人ではきついだろうと思いましてな。会議の結果、彼を同行させるのがいいとなりました。今はレイさんがいますが、二人より三人の方がいいでしょうな。彼も連れていってはどうですかな」

 三人でも少ないと思うのですが、ハルクロードさんもレルアンさんもそんなに強いのでしょうか。私、足手まといなのでは?

「大司教様がそうおっしゃるなら。よろしく、ジーク君」

「よろしく」

 ハルクロードさんが笑顔で言うと、レルアンさんは無表情で素っ気なく呟くように返しました。

「ところで」

 おじいさん改め大司教さんが言いました。

「お三方は、一週間後に国王に謁見する予定になっておりますが、作法に自信はありますかな?」

 国王に謁見!? 何でそんなことを!

「そんな揃って嫌そうな顔ということは自信が無いようですな。大丈夫。一週間あればなんとかなります」

 大司教さんの言葉に旅の仲間二人を見ると、ハルクロードさんは「無理!」という顔をしていました。レルアンさんは無表情にしか見えませんでした。

「作法の勉強は明日からにしましょう。勉強場所などはおって連絡致します。勇者殿は今日はゆっくり休んでください」

 大司教さんはそうおっしゃるとお開きにしました。



 只今私は、夕食の時間なので食堂にいます。朝の顔ぶれに加え、ハルクロードさんがいて、十分くらい前から彼の話を聞いています。

 ハルクロードさんは首都から遠い町の出身で、その町の教会戦士だったそうです。二週間ほど前、教会の一番偉い司教から、大教会で行われた儀式で彼が勇者として選ばれ、さらに大司教がお呼びだと知らされ、教会戦士を辞めて、徒歩でここに来たらしいです。 彼はここにくるまでの間に様々な所で魔物に遭遇したそうですが、人が住む所には被害はでていなかったようです。

 彼は話の最後に言いました。

「首都に近づくほどに魔物は弱くなっていきました。何故でしょうね」

「他の国も同じようですよ。理由は不明ですが」

 ブラウンさんが答え、付け加えるように言いました。

「あなた方は世界中を旅するのですから、理由を知ることができるかもしれませんね」



 ハルクロードさんが来て五日と半日が経ちました。私はこの間、午前は作法の勉強をし、午後は魔法の呪文と魔方陣を覚えて過ごしました。

 今日も同じように過ごそうと思っていたらルファットさんが部屋に来て言いました。

「最近外に出てないよな。息が詰まらないか? 気分転換しないか?」

 というわけで、私は彼に教会戦士たちが使う屋外訓練場に連れていかれました。

 そこではブロンテさんとレルアンさんが練習用の剣を構えてにらみ合い、スチュワートさんとハルクロードさんが激しい闘いを繰り広げていました。

「これから一緒に旅に出る二人がどのくらいのものか知っておいて損は無いと思って連れて来たんだ」

 つまり訓練の見学をしないか、とそういうわけですか。

「おれも混ぜてもらおう」

 そう言うとルファットさんは激しい闘いに乱入しました。よくあんなのに混ぜてもらおうとか思えますね。私は怖くて近寄れません。

 一方、睨み合っていた二人も動き始めました。ブロンテさんが仕掛け、レルアンさんが受け止め、しばらく打ち合い、だんだん動きが速くなり、もう何をやっているのかわかりません。

 三人の闘いがさらに激しくなりました。他の訓練中の人たちが巻き込まれそうです。激しすぎですよ。ああ! 高速で動いていた二人が巻き込まれてしまいました!

 おっと、ブロンテさんが脱落。悔しそうです。私に気付いて近寄って来ました。

「レイ、いたんだな。どうしたんだ? 見学か?」

「はい。気分転換しないかって言われて、ルファットさんに連れて来てもらいました」

「そっか。あーあ、一番に脱落するなんてカッコ悪いとこ見られたなあ」

「かっこよかったです。速く動いているのが物語の登場人物みたいで」

「そうか?」

 のんびり話していると、スチュワートさんが脱落しました。彼女もこちらに気づき、近寄って来ました。彼女は上がった息を整えると言いました。

「やあ、レイちゃん。どう? 旅の仲間二人、なかなかなものでしょ?」

「はい、凄いです」

 このままでは私はやっぱり足手まといです。早く呪文と魔法陣を覚え、魔法陣を速く描けるようにしなければ。

 あ、ルファットさんが脱落しました。汗びっしょりです。ゼェゼェいってます。

「あはは、あの、二人、マリア、が、いな、く、なった、途端、おれにだけ、攻撃、してきた。ひどい、よな」

 息を整えてから話せばいいのに。そんなにあの二人がひどいって言いたいんですか。あはは、とか笑ってるくせに。

 おや? 闘っていた二人が動きを止めました。レルアンさんが膝をつきます。どうやらハルクロードさんの勝利のようです。さすが勇者!

 私が感心していると、ブロンテさんが言いました。

「今日はジークの負けかあ」

 え? 今日‘は’?

「昨日はジークが勝ったんだ」

 勇者が負けた? 勇者だからといって、最強というわけではないのですか。

「あ、レイちゃん来てたんだね。気付かなかったよ」

 ハルクロードさんが私に気付き、話しかけてきました。

「魔法の勉強はどんな感じ?」

「呪文はいいんですけど、魔法陣を覚えるのが大変です」

 魔法陣をもっと簡単にした魔法をぜひ誰かに開発して欲しいですよ。呪文は私にとっては母国語ですから、覚えるのは魔法陣に比べてはるかに楽です。

「そっか。あと一週間で出発だけど、焦らずに頑張ってね」

 あと一週間ですと!? 焦る!

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