話してみた
ジークさんがとても星座に詳しいことが判明しました。彼は幼い頃にお母さんから星座にまつわる話を聞いたことをきっかけに星と星座に興味を持ち、気が付けば好きになっていました。そのせいか神様が結構な割合で星座の話をしてくれるため詳しいのだそうです。
流れ星を待ちながら、ジークさんからいろいろな星座にまつわる話を聞きました。
猫座の猫は熊と魚の取り合いをして勝ったのだとか、猫座の上の方に見える三つ子座の三つ子はとても仲が悪かったけれど、死ぬ間際にちょっと仲良くなったのだとか、冬に見られる蛇座を魔王座と呼ぶ人もいるのだとか、神様によって夜空に上げられたと言われるものが多数あるけれど、神様は「自分はそんなことはしていない」と言っているのだとか……。
ジークさんはいつか星座にまつわる話をまとめた本を書けばいいと思います。きっと一冊くらい余裕でしょう。
翌日。
「ゆうべは何か願い事した?」
朝食の席でエドワードさんにそう聞かれました。
「してないです。三回は難しいので、見るだけにしました」
私の答えにエドワードさんは首を傾げました。
「“三回”ってどういうこと?」
へ?……あ、エドワードさんにとって流れ星は三回お願いするものではないのですね。
「私の世界、というか日本だと、誰が言いだしたか知らないんですけど、流れ星に三回お願いすると願いが叶うって言われてるんです」
「あのちょっとの時間で三回? 無理だよね?」
「たまにちょっと長く流れるのがあるでしょう? その時ならいけるって友達が言ってました。この世界は三回じゃなくていいんですか」
「うん。みんな一回しか願わないと思うよ。な、ジーク?」
「……五回」
「え?」
「王族と貴族と金持ちは五回願わないと駄目だって母さんに聞いた」
五回ですか……。頑張ればなんとかなる……わけない、いや、なるかも?
宿を出て街を歩きながら、星座にまつわる話をたくさん教えてもらったお礼としてジークさんとエドワードさんに私が知っている星と星座の話をしようと思い、まず始めにパッと思いついたオリオン座の話をしてみたのですが、
「それ、聞いたことがある」
ジークさんは神様から聞いて既に知っていました。
「探しても無いって神様が言ってたから不思議に思ってた。異世界の話だったんだな」
探しても見つからない星座で他に知っているものはあるのかとジークさんに尋ねてみると、カシオペア座、北斗七星、南十字などなど、いろいろと知っているようでした。
「他の世界のは無いんですか」
「……ここと、レイの世界以外の世界のことか」
「はい」
「今あげた中にレイが知らないものがあったら、それがそうなんじゃないか」
うーん……ジークさんがあげた星座の名前は全部知っているものだった気がします。ということは、神様はジークさんにこの世界と私のいた世界の星座しか教えていないということです。それは何故? 人々が星座を作り出した世界が二つだけだとは思えません。ただ単に神様がジークさんに他の世界の星座を教えていないだけでしょうか。
「立派だな。なんか悔しい……」
あれこれと考えていると、エドワードさんがぽつりと呟いたのが聞こえました。気が付けば、全体的に白くて大きな教会のすぐ近くまで来ていました。ニールグの大教会に比べれば小さいのですが、こちらの方が手の込んだ造りになっています。外壁には四角形や三角形が組み合わさった模様が、鳥居には植物を意識したであろう模様が彫られていておしゃれです。
少しの間立ち止まって教会を見上げていると、人を乗せた茶色いペガサスが教会から飛んでいくのが見えました。この世界に来てから何度もペガサスを見てきましたが、いまだに大空を駆けるその姿を見ると胸が躍ります。ああ、なんて素敵。おお、なんてファンタジー。
「ペガサスってどうやって生まれたんですか」
ふと思いついた疑問を口にすると、エドワードさんが不思議そうに私を見ました。
「いきなりどうしたんだい?」
「私の世界にはペガサスはいないんですけど星座はあるんです。そのペガサスはメデューサっていうかメドゥーサっていうか……そんな感じの名前の化け物の血から生まれたんです」
「それはまたずいぶんとびっくりな生まれ方だね……。どうやって生まれたかは知らないよ。これは僕の町の教会の司教様から聞いたことなんだけど、ペガサスはユニコーンと一緒に七百年くらい前に急に姿を現したらしいよ」
へえ~……って、えええええ!? ユニコーン!?
「“ユニコーン”って馬に角が生えてるののことですか? いるんですか?」
「そうだよ。いるよ。レイちゃんの世界にはいない?」
「はい。エドワードさんは見たことあるんですか?」
「あるよ」
「どこで見たんですか? っていうかどこで見れますか?」
「子供が一人で森の中にいるとその子のもとに来るんだ。悪い子のもとには来ないけどね。今度森に行ったら一人になってみる? 十八まで来てくれるからレイちゃんなら会えるよ」
やった! ふふふふふ、ペガサスだけでなくユニコーンまで見ることができようとは。
「私が今まで見たことがないってことは、ペガサスみたいに飼ってないんですか?」
「うん。捕まえられないからね。いつかは捕まえられるようになるかもしれないけど。――嬉しそうだね。魔法のことになった時みたいに目が輝いてるよ」
うっ……嬉しさが顔と声に出ている自覚はありますが、指摘されると少々恥ずかしいです。「目が輝いてる」なんて……。
「恥ずかしがることないのに」
そう言うエドワードさんは意地悪な笑みを浮かべているように見えなくもないです。私が恥ずかしがるとわかっていて、嬉しそうにしていることを指摘したのではないかと思ってしまいます。エドワードさんは誰かを――特にエイミーを――怒らせるのが上手ですから、恥ずかしがり屋な私を恥ずかしがらせることも簡単にできるでしょう。……いいえ、“エドワードさんには簡単”でなく、“誰にとっても簡単”でしょうね……妹と弟にとっては私を恥ずかしがらせるより怒らせる方が簡単なようですが。
「……何で子供の所に来るんですか」
別のことを考えて恥ずかしさを抑え込むために質問してみました。
「さあね。好きなんじゃないかな。やたらと甘えてきたし」
「それを利用して捕まえられないんですか」
「十九以上の人が近づいたら寝てようが何だろうがすぐどこかに行っちゃうんだ」
「じゃあ、十八までの人が捕まえようとしたらどうなるんですか」
「それは“悪い子”に入るみたいだよ」
つまり、捕まえようとする人のもとにはユニコーンが来てくれない、と。
大人察知能力に悪い子察知能力持ちの生き物がいるなんて、しかもその生き物を見ることができるかもしれないなんて。どこかの森で一人になるのが楽しみです。またエドワードさんに「嬉しそう」と指摘されてしまうかもしれませんが、頬が緩むのを止められません。




