山の中に
また国境を越えました。この国では古代の遺跡が発見されており、しかもそこには神の道具があるそうです。まるでロマン溢れる組み合わせですが、神の道具は日本の一般家庭にある物の可能性が高いので、期待はしないでおきます。
五日後、山の中にある遺跡に着きました。ほとんど土に埋もれてしまっています。全部掘り出すのは大変でしょう。
「一体どこにあるんだか……ん?」
エドワードさんは何かに気付いたようです。木々のむこうを見つめています。
しばらくすると、女性集団が姿を現しました。
「よりにもよって、何でコイツらがいるのよ」
私たちを視界に入れた途端にムスッとした顔になるエイミー。
「美人はいいね。不機嫌そうな顔してても絵になるね」
と、エドワードさんが言うと、
「誉められてるのになんかムカつく」
エイミーはますます不機嫌そうになりました。
「まったく、わざわざこんな山の中まで来てみれば、コイツらがいるわ遺跡は埋まってるわ……まあいいわ、そこのフワフワ女に聞きたいこともあるし」
フワフワ女って私のことか。
エイミーは軽く私を睨みつつ聞いてきました。
「本当にアンタは神使なの?」
「私が神使だなんて誰に聞いたんだ」
「アタシの情報網をなめない方がいいわよ。で、どうなの?」
「神様に聞いてみれば」
エイミーなんかに正直に答えてやるものですか。
「答えないのなら、無理矢理聞いてみようかしら」
エイミーは剣を抜きました。今日のエイミーはなんだか落ち着いていますね。
エドワードさんも剣を抜き、
「君も懲りないね。もう僕らに二度負けてるのに」
「三度目の正直って言葉知ってる?」
「二度あることは三度あるって言葉があるよ」
エドワードさんとエイミーの間で火花が散っている気がします。私は隠れるべきでしょうか。
「ねえ、戦ったら神の道具がどうかなっちゃわないかな?」
エイミーの仲間の一人が心配そうに言うと、それにエイミーは、
「ここにあるのがどんな物かは知らないけど、神様の物なら簡単には壊れないでしょ。むしろ戦ったら何かの弾みで出てくるんじゃないかしら」
「そっかー。それもそうだね」
なんて乱暴な探し方……。
ああもう、本当に私はどうすれば? エイミーたちには護符とやらがあるので、魔法に簡単にはかからないでしょう。彼女らが動いている状況で魔法陣を描きあげる自信は私にはありません。なんとか戦闘を回避できないでしょうか。
「今日こそはアタシたちから奪っていった神の道具を返してもらうわよ。この盗賊もどき」
エイミーの言葉にエドワードさんは笑いました。
「教会を襲った君たちに言われたくないな」
「カーメイ教なんて無くなればいいのよ。間違ってるんだから」
「間違ってないよ。その証拠が神使であるレイちゃんだ」
「ソイツが神使なら、どうして答えないのよ。本当は違うんじゃないの?」
「君はレイちゃんが神使には見えないのかい?」
エイミーは黙り込みました。彼女も、私が人間には見えないのでしょうか。
「……ソイツが神使かどうかは今は置いておくわ。とにかく、神の道具を返しなさい」
「返せと言われて返す馬鹿はいないと思うよ」
「あらそう。じゃあ覚悟しなさい」
エイミーが闘志のこもった目でこちらを見据えると、エドワードさんは剣を構え直し、
「レイちゃんはジークのそばにいるといい。ジーク、レイちゃんに怪我させるなよ」
「わかった」
うう、すみませんお二方。ご迷惑をおかけします。
「じゃあいくわ……っきゃあ!」
エイミーが一歩を踏み出し、突然可愛らしい悲鳴をあげました。何故かエイミーの頭がとても低いところにあります。どうやら落とし穴のようなものに落ちてしまったようです。
「エイミー!」
「大丈夫?」
などとエイミーの仲間が心配そうな声をあげると、
「大丈夫よ。私を誰だと思っているの?」
エイミーは不敵な笑みを浮かべました。
「ははは。そんな風に笑ってもその状態だと滑稽だよ」
「いつまでそうやって余裕にしていられるかしら?」
エドワードさんに言い返して、エイミーの姿が見えなくなりました。穴の中で屈んだのでしょうか。
「エイミー、何やってるの?」
エイミーの仲間が問いかけると、
「いい物を見つけたかもしれないわ」
穴から出てきたエイミーは、竹刀を持っていました。
「これ、神の道具じゃないかしら? 剣みたいね」
エイミーは、竹刀をじっと見つめると、ふっ、と笑い、竹刀を左右にゆっくりと引っ張りました。すると、なんとびっくり、中から刃が現れました。エイミーが見つけた物は、竹刀に見せかけた刀だったようです。
「やっぱり剣だわ。形が聖剣に似てるわね。同じようなものなのかしら?」
エイミーは満足そうな笑みを浮かべました。……さっきからエイミーの笑顔ばかり見ている気がします。はっきり言って、エイミーの笑顔は魅力的です。これで初対面の人を馬鹿呼ばわりしなければ好感が持てるのに。
エイミーは刀を構え、
「今度こそ、いくわよ」
と、宣言して一歩踏み出し、
「きゃあああああ!」
可愛らしい悲鳴を残して消えました。また穴に落ちてしまったようです。しかもさっきより深い穴に。
「エイミー!」
「大丈夫? 怪我はない?」
「上がってこれる?」
エイミーの仲間たちは心配そうに穴を覗き込んでいます。
「大丈夫よ! ちょっと時間かかるかもしれないけど、上がれないことはないわ!」
相当深い穴のようですね。……ん? もしかして彼女らの注意が私たちから逸れてる?
エドワードさんは剣を鞘にそっと戻すと、小声で言いました。
「あれはあの子たちに譲ろう。ここで戦ってもあの子みたいに落ちるかもしれないし」
や、やったあ! 戦闘を回避できました!
こっそりと立ち去ろうとすると、エイミーの仲間の一人が声をあげました。
「エイミー! カーメイ教のやつらが逃げようとしてるわ!」
うわあ、気付かれましたよ。いや、気付いたというより、彼女は最初から私たちを見ていたのかもしれません。十四人もいれば、誰か一人は敵を警戒するものでしょう。
「逃がしちゃっていいわよ!」
エイミーも、ここで戦わない方が良いと判断したのでしょうか。
「その神の道具は君にあげるよ! 僕らは下山するけど、君たちは遺跡の発掘でもするといい! それでそのまま考古学者にでもなるといいよ!」
エドワードさんがエイミーに聞こえるように大声で言うと、
「発掘はしても勇者は辞めないわよ! アンタこそ早く勇者辞めなさい!」
と、エイミーが返してきたので、
「僕は辞めないよ!」
と彼は返し、小声で付け加えました。
「辞めたくても辞められないよ。僕は勇者じゃないんだから」




