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魔法使い。

 日が暮れる頃、小さな町に着きました。ふふふ、五日ぶりのベッドです。

「レイちゃん嬉しそうだね」

 と、宿で部屋の鍵を渡された時に、エドワードさんに言われました。

 エドワードさんの言う通り、とても嬉しいです。何故なら昨日と今日と、魔法を使って疲れたからです。正確には、魔法を使って失敗して、自分で自分に被害を与えたために疲れました。

 あーあ、どうして大教会で練習した時のようにうまくいかないのでしょう。ふーむ、教科書を見てみるとしましょうか。何かヒントが載っているかもしれません。

 とりあえず初級の教科書の初めから読んでみます。実を言うと、このあたりはほとんど読んだことがありません。魔法使いとしての心構えや魔法の理論がわかりやすく書かれているのですが、エリエント先生に軽く説明されただけで、飛ばしていました。……考えてみれば、基礎を飛ばしてうまくいくわけありませんね。ああ、また馬鹿な自分を発見してしまいました……。

 教科書を読んでいると、だんだん眠くなってきました……眠い……おやすみなさい……


「れいはおおきくなったら、なにになりたい?」

 両親に聞かれて、

「れいちゃんはおおきくなったら、なにになるの?」

 保育園の先生に聞かれて、

「れいちゃんはおっきくなったらなにになるの?」

 友達に聞かれて、当時そんなに恥ずかしがり屋ではなかった私は、堂々と夢を語っていました。

「まほうつかい! ほうきでおそらをとぶの」


 ゴーン……

 ……お寺の鐘の音で目が覚めました……いや、お寺ではなく、教会ですね。どこの国でも教会に釣り鐘があるそうです。ブラウンさんがそんなようなことを言っていました。

 町から出てしばらくして、エドワードさんに、

「レイちゃん、眠いのかい?」

 と、聞かれました。

「眠くはないです」

「だったら、どうしてぼんやりしてるんだ」

 今度はジークさんに聞かれました。

「夢を見たんです。その夢のことを考えてしまって」

「どんな夢?」

 またエドワードさんが聞いてきました。

「保育園……小さい頃の私が、いろんな人に将来の夢を聞かれて、どの人にも『魔法使い! ほうきでお空を飛ぶの』って答える夢です。小さい頃の記憶を夢として見た感じです」

「レイちゃんは魔法使いになりたがってたってこと?」

「はい」

 卒園してから魔法使いは諦め、代わりに科学者を目指すようになりました。科学にはまるで魔法のようなところがあるから。

「そうかあ、レイちゃんは夢が叶ったってことなんだね。で、ちょっと疑問があるんだけど」

「何ですか」

「ほうきで空を飛ぶっていう夢はどこから出てきたんだい?」

「その頃の私にとって、魔法使いは黒いゆったりした服を着て黒い三角の帽子をかぶってほうきに乗って空を飛ぶ人、っていう認識だったんです」

 成長して、本を読んだりゲームをするようになってから、いろいろな魔法使いを見て、そのイメージは薄れていきました。でもまだまだ根強く残っています。

「へえ。その変わった魔法使い像はどこから?」

「えーっと……たぶん絵本から」

 いや、アニメかも?

 まあ、そんなことはともかく、まさか夢が叶うなんて思ってなかったわけです。夢が叶うなんてなんと素晴らしいことでしょう。思い描いていたものとは違うし、ほうきで空を飛ぶ夢はまだ叶っていませんけどね。



 お昼頃、魔物の群れを発見しました。

「グギャー!」

「グギャアア!」

「グギャアアアア!

「グギャアアアアアア!」

 ひええぇぇぇ! 凶悪な羊がいっぱいいるううぅぅぅ!

 いや落ち着け私。落ち着くんだ! 「魔法使いは落ち着いていなければなりません」って教科書に書いてあったじゃないか!

「レイちゃん、やる?」

「やります」

 まずは魔物たちの動きを止めます。ついでに黙らせましょう。

【動くな。黙れ】

 だいぶ静かになりました。

 さて、魔法陣を描きましょうか。落ち着いてやればきっと大丈夫。

 描きあがった魔法陣はちょっと曲がっていますが、まあ良しとします。

 大切なのはこれからです。魔物たちの獲物を見る目に恐怖してはいけません。恐怖に負けず、落ち着いて、気持ちを込めて、呪文を唱えるのが重要です。でも怖いのがすぐに克服できるはずがないので、ちょっとずるをします。

【こっちを見るな】

 どの魔物も私を見なくなりました。代わりにエドワードさんとジークさんを見ているようですが、お二人なら平気でしょう。

 では!

【水よ湧け 濡らしてしまえ 何もかも】

 魔法陣が輝いて、水が勢い良く吹き出しました。魔物が何匹か倒れました。私に水はかかりませんでした。つまり、成功です!

「うまくいったみたいで良かったね。でもまだいっぱい残ってるよ。一昨日みたいにたくさん出るようにできたりしない?」

「無理です。あれは、たまたまできたことなので」

 私に魔法の改良なんて難しそうなことができるわけないじゃないですか。

 四回魔法を使って、やっと全部の魔物を倒せました。

 無事成功したのはいいのですが、

「はあ……」

「溜め息なんか吐いてどうしたんだい?」

「倒すのに時間がかかるなあって思って」

 魔法陣をもっと早く描けるようにならないと。

「僕は魔法のことはよくわからないけど、きっとそのうちに魔法陣を描くのに慣れると思うよ」

 ああ、そういえば教科書に、「魔法陣は何度も描いて練習しましょう」と書いてありました。まだまだ努力が必要ですね。

 この世界に来てちゃっかり新しく生まれた、世界一の魔法使いになるという夢を本当に叶えるくらいの気持ちで、地道に頑張ろうと思います。

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