勇者と
「人がいる」
昨日に引き続き、魔物を見つけては私が魔法を使ってなんとか倒していると、ジークさんが言いました。
「こっちに向かって来てる」
「どこかの勇者な気がする……レイちゃん、その魔物は杖で殴って倒して」
「え、あ、はいっ」
魔法を使っていると時間がかかるからさっさと杖で殴って倒せということですね。魔法使いのくせして魔法をうまく使えない役立たずでごめんなさい。
五メートルほど先に、魔法で動けなくした魔物が一匹います。この魔物、簡単に言うと、「凶悪な羊」です。鳴き声は「グギャアアア」で、ご多分に洩れず獲物を見る目で私を見ています。この目が怖いので魔物の後ろにまわって殴ろうと思います。えいっ。む、やはり一回殴ったでは倒れてくれません。
五回殴ってようやく魔物は倒れました。その頃にはもう、遠くにいた人はすぐ近くまで来ていました。オレンジの髪に青い目の男性です。歳はジークさんくらいでしょう。ついでに美形です。私はこの世界に来てから見目麗しい人を何人見たのでしょうか。
彼は私たちを順繰りに見ると、
「カーメイ教の勇者とその仲間か」
ズバリ当ててみせました。
「そう言うお前はどこの勇者だ」
エドワードさんが問うと、
「あててみな。ま、わかんないだろうけど」
と、こちらを挑発するように返してきました。
「勇者だとわかれば十分。どこのやつかは興味無い」
エドワードさんがいつもより素っ気ないです。
「あっそう。ところでそこのお前」
彼は私をじーっと見ています。
「何ですか」
あと、どうしてそんなに見つめてくるのです? 恥ずかしいのでやめてほしいのですが。
「俺と一緒に来ないか?」
おや、何かと思えば勧誘ですか。
「お断りします」
「何でだ?」
「エドワードさんについていくのが役目なので」
「違うだろ。勇者についていくのが役目だろ」
「エドワードさんについていくって決めました」
「ふーん。じゃあ、力ずくで俺についてきてもらおうか」
彼は剣を抜きました。うわー、勧誘できなくて暴力に頼りましたよこの人! そこまでする価値は私には無いと思います!
エドワードさんもジークさんも剣を抜きました。私はどうすればいいのでしょう。街の外で人に会う時はいつも、エドワードさんとジークさんはさりげなく私を庇うように立ってくれます。今もそう。こんな状況になる度に、私って弱いな、と思います。
「三対一で勝てると思ってるのか?」
というエドワードさんの問いに、
「勝てるから一人で旅してんだよ」
彼は自信ありげに答えました。すると、今度はジークさんが、
「だったらどうしてレイを連れていこうとするんだ」
「コイツ神使なんだろ? 神の道具の知識があって、魔法語で会話ができるんだろ? いたら便利」
あ、私が神使だっていうこと、すっかり忘れていました。って何でこの人はこの事を知っているのでしょう。
それにしても、「いたら便利」ですか……まあ、所詮私はそんな存在ですよ。自分でそう認めるとちょっとむなしいですけど。
「便利なだけで、いなくても問題無いと思いますよ」
と言ってみると、
「便利な物があれば持っときたいものだろ」
私は物扱いですか。
「暴力に頼ってまで手に入れる価値が私にあるんですか」
無いでしょう?
「ある」
「えっ、何で?」
「便利なだけじゃない。お前は神使だ。神使がどこかの宗教のやつと一緒にいるということは、神様がその宗教を正しいと認めたと考えるやつが多いだろうな。お前の存在が自分たちの正しさの証明になるんだ。だからお前にはかなりの価値がある」
えー、何それー。納得できません。いや、そんなことよりちょっと疑問が。
「同じ神様を信じてるんですか」
「は?」
彼は不思議そうな顔になりました。
「同じ神様を信じてるから神使が一緒にいることが、正しさの証明になるんでしょう。別の神様の神使にそんな価値は無いでしょう?」
ますます不思議そうな彼。あれー? そんなに私は説明が下手?
「レイ」
ジークさんに呼ばれて耳打ちされました。彼が言うことには、少なくともイリム大陸で信じられている宗教はどれも同じ神様を崇めていて、神様がたくさん存在するという考えを多くの人は持っていないそうです。話が通じないわけですよ。
「何二人でこそこそやってんだ」
「あなたには関係ありません」
「あっそ。もう一度聞くけど、俺と一緒に来ないか?」
「お断りします」
すると、彼はエドワードさんにむかって、
「コイツを手放す気は?」
「無い」
エドワードさんにまで断られた彼は、面白くなさそうな顔をすると、消えました。へ? と思った次の瞬間、彼はジークさんに喉元に聖剣を突き付けられていました。ああ、なるほど。彼は物凄い速さで動いたのですね。でもジークさんに即座に反応されてしまったのですね。アニメみたいですねっ。
「一人じゃ勝てないみたいだな」
そう言うエドワードさんは彼の後ろにいて、彼に剣を突き付けています。
「怪我したくなかったら神の道具を出すといい」
エドワードさんの脅迫に彼は、
「持ってない」
肩をすくめて答えました。
「レイちゃん、出番だ」
私の出番、つまりは、魔法を使えということですね。
【神の道具を渡せ】
彼は動きません。魔法が効いていないのか本当に持っていないのかわかりませんね。要求を変えてみましょうか。
【剣を捨てろ】
彼の手は剣を離し、剣は地面に落ちました。彼は驚いています。
「本当に持ってないみたいです」
「そうか。じゃあ」
ゴン!
彼はバタッと倒れました。
剣で、剣で殴りましたね、エドワードさん!
「どんな道具が出てくるかと楽しみにしてたのに。まあいいや。こいつが起きる前にさっさと行こう」
「あー……」
思わず気の抜けた声が出ました。また魔法を失敗して、頭からバケツ三杯分くらいの水をかぶってしまいました。
「大丈夫?」
エドワードさんの声に顔をあげると、整った顔が思いの外近くにあってびっくりして、ふと気になりました。
「どうしてエドワードさんが勇者に選ばれたんですか」
「どうしたんだい、急に」
「前から、今まで会った勇者を名乗る人ってみんな顔が良くて不思議だな、って思って、勇者に選ばれる基準に顔の良さとかがあるのかな、とか考えてたんです。それで、今エドワードさんの顔が近かったのでその疑問がむくむくとわいてきて」
エドワードさんは街の女性の多くが頬を赤く染めたり私に敵意の視線を向けてきたりするくらいかっこいいです。たぶんトマスさんも同じ部類に入るでしょう。
エイミーは文句無しの美少女です。白い肌が羨ましいです。
氷のような人はまるで手の込んだ作り物。街で彼とすれ違えば、男女を問わず多くの人が振り返るでしょう。
今日の彼は、もし彼が高校生ならば、学校一モテるでしょう。
「どうして選ばれたかは知らないなあ。聞くの忘れてた。ジークは何か知ってる?」
「国中から強いやつの情報を集めてその中から見た目がいいのを抜き出して、くじ引いて決めたって聞いた。くじ引いたのが儀式」
えええええ! 儀式ってなんかもっと凄いのを想像してたのに、まさかのくじ引きなんて!
「くじ引きか……まあ、そのお陰で世界中旅できるわけだし、ジークやレイちゃんに会えたから、いいかな。やっぱり僕はついてる」
エドワードさんは嬉しそうです。
「僕が選ばれた理由聞いてがっかりした?」
「いいえ。くじ引きにはちょっとがっかりしましたけど」
魔法があるこの世界で、「儀式」なんて言葉を聞いたものだから、不思議な現象でも起こして勇者を選んだのだと思い込んでいました。
「そっか。ところでレイちゃん」
はい、何でしょう。
「そのままだと風邪ひくよ」
あ……また忘れてました。




