困った
本文中にギリシャ文字やキリル文字がでてきますが、文字としてではなく、☆や○のような記号として捉えてください。わからない言語を示すためであって、ギリシャ語やロシア語にはなっていません。
ここが家から遠い所だというのはわかりました。でもそれしかわかりません。ちょっと考えてみます。って考えてわかるわけないですね。
それにしても海はきらきらしていてきれいです。空には雲一つありません。いい景色です。でもちょっと眩しいので顔を俯けます。
そこで視界に私の斜め掛けバッグが入りました。あ! いいことを思い付きました! 中には財布や携帯電話が入っています。そう、携帯電話に付いているGPS機能を使えばいいのです! 早速携帯電話を取り出します。……圏外です。GPS使えるでしょうか。…………やはり駄目でした。
どうしたらいいのでしょう。うーん、暑くなってきました。
海とは反対側、私の今いる場所から五十メートルくらいの所に木が数本生えています。さらに五十メートルほど先には砂浜が消え、林が見えます。とりあえず近くの木陰に移動しましょうか。
木の幹に背中を預けて座って、今どういう状況か考えてみます。
私は出掛けようとして、玄関を閉めたところで気持ち悪くなり、その後意識を失いました。目を覚ますと何故か私は見知らぬ砂浜にいました。携帯電話は圏外です。困った状況です。
ところで私が背中を預けているこの木は一体何でしょうか。銀杏に似ています。砂浜に生えるような木には見えません。葉は緑色のかわいらしいハート型です。秋には赤くなればちょっと素敵だと思います。
……こんなことを考えてみてもどうにもなりません。私がもっと賢ければ何かわかるでしょうか。もういっそのこと、夢ならいいのに。
考えるのをやめて、海を眺めることにしました。きれいな青です。私は青色が好きなのでなんだか嬉しいです。が、私以外に生き物がいなくてちょっと寂しいです。波の音と、風で木の枝と葉がわさわさいうのしか聞こえません。
海を好きなだけ眺めたので、林にちょっとだけ入ってみることにしました。砂浜に知らない木があるのだから、林にもあるでしょう。
林に近付くと、道があることに気付きました。人が2人並んで歩けるくらいの幅です。長いこと使われていないのか、道が隠れるほど草が生えています。
この林は草木が生い茂っていますが、太陽の光が地面まで届いているので明るいです。緑が眩しいです。おかしいですね、今は春のはずですが夏みたいじゃないですか。あ、ここは家から遠い所だからおかしくないのかも。
そうそう、知らない木が思った通りありました。楓だと思っていたらよく見ると葉が星形で違うものだと気付きました。この星の木はたくさん生えています。
数は少ないようですが、葉がひし形の木もあれば、三角のもの、よく目にするものもあります。
こうして植物を観察していて気が付きましたが、この林も砂浜と同じでとても静かです。もっと奥に行けば、生き物がいるでしょうか。
寂しいなぁ、と思っていたら、ガサガサという音が聞こえました。何かが近付いて来ているようです。生き物がいないのは寂しいけれど、熊とか恐いのはいなくていいです。逃げた方がいいかと考えていると、話し声が聞こえました。人間のようで安心しました。草木の間から姿が見えます。何人もいるみたいです。
向こうも私に気付いたようで、足を止めました。私を見て、驚いたらしい彼らは、何やら話し合い始めました。時々チラッと私を見ます。居心地悪いです。
姿を現したのは全部で六人。変な人たちです。髪の色が輝く金の人、驚くほど赤い人がいます。この二人はまあいいです。しかし、他の四人は青やオレンジなのです。
話している言葉は日本語ではありません。英語でもないようです。ヨーロッパのどこかの国の言葉っぽいです。
着ているものも変わっています。なんていうか、コスプレ? ファンタジーな世界が舞台の本とかゲームの登場人物が着ている感じのものです。六人中二人は全体的に白い服を着ています。きっと僧侶か神官です。杖を持っています。残りの四人は剣士ってところでしょう。腰に剣らしきものを吊っています。
話し合いを終えたらしく、白い服の一人が近付いてきました。青い髪と目の男性です。三十歳くらいかな?
「Αξαυαθαδασεδετφλα?Δοφτιυελολοξιισφξοδετφλα?」
うわ、何か話しかけてきたけど何言ってるのかわかんない! わからないということを示すために首を傾げてみます。すると相手は、
「αξυαθδσδτλ?δφτυλλξισξδτλ?」
さっきのとはたぶん違う言葉で何か言ってきましたがやっぱりわかりません。ですから私は、
「何を言っているのかわかりません」
と言ってみました。あ、「おっしゃっているのか」の方が良かったかな? 敬語の勉強不足です。まだ高校生だしいいかなって考えています。でも家に帰ったらちょっと勉強しようかな。
私の日本語を聞いて相手は困ったような顔をしました。どうしよう。日本語が通じないという恐れていたことが現実になりました。
こうなったら英語で! ってどう言えばいいかな。うう、こういう時咄嗟に出てこない! 話すのは苦手です。敬語も英語も勉強不足! テストの問題はわりと解けるのに。
私が焦っていると、相手は待っている人たちのところに戻り、また話し合い始めました。さっきみたいに私をチラチラ見てきます。
話し合い終えたのか、さっきの人が手招きしてきました。ちょっと恐いけど近寄ります。
「Υφιυελιυελφδαται」
身振り手振りから察するに「ついて来い」と言っているようです。知らない人について行くのは駄目なのは知ってますが、今はついて行く方がいいと思うのでついて行きます。
どこに行くのか。この道の先には何があるのか。不安でいっぱいです。でも、知らない所に行くわくわくもちょっとだけあるかも。