表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/102

仕返ししたら

 エドワードさんは決して正しい人ではありません。

「こういうことでいいね?」

「いい」

 それはジークさんにも、

「……他に思い付きませんし、いいと思います」

 そして私にも当てはまることです。



 三日後、ある森の中を通る道で。

「やあ。久しぶり。相変わらず無駄に美人だね」

 エドワードさんは高飛車な美少女勇者に爽やかな挨拶をしました。

 私は藪の陰に、しゃがんでというより座って、隠れています。エドワードさんたちの様子は見えません。

「無駄に、って何よ!」

 怒る高飛車。

「怒ったら負けだよ。エイミー」

 彼女の仲間の一人がやんわりと諭しました。あのクーマ教の勇者はエイミーという名前のようです。

「そうかもしれないけどっ、ムカつくじゃない! せっかくお母様とお父様のいい所ばっかり似て生まれたのに、それを『無駄』って!」

 騒ぐエイミーとは対照的にエドワードさんはいたって静かです。

「せっかくの美人もそんなにすぐ怒るようじゃ台無しだよ。だから『無駄』なんだよ。もっと冷静になればいいと思うよ。性格変えろとは言わないよ。せめて演技しなよ」

「何でアンタみたいなヤツの前で演技する必要があるのよ」

「僕たちに演技は不要ってことかい?」

「当たり前でしょ。する価値なんて全く無いわ。敵からどう見えたって構わないもの」

「そうだね。僕たちは敵同士だ。はいここで問題です。物語において敵は主人公に何をする?」

「そんなの話によるでしょ」

「じゃあ問題を変えようか。君が主人公で僕が敵。問一、僕は君に何をする? 問二、どうしてレイちゃんは隠れてる?」

 エドワードさんの声は何だか楽しそうです。遊んでいるかのよう。

「まさか……」

「わかったみたいだね。僕はね、やられたらやり返す主義なんだ。そういうわけだから、君たちの持ってる神の道具を渡してもらおうか。早くしないとレイちゃんの魔法で強制的に貰うよ」

 ニールグに接する五つの国のうち、クーマ教の国はここアクト王国だけ。そのことを考えるとニールグから出ていったであろう彼女らはこの国にいる可能性が高い、ということで宿探しをしつつ、町の人にそれとなく勇者のことを尋ねた結果、居場所を知ることが出来ました。何せ彼女らは十五人もいるうえにエイミーが、エドワードさんの言葉を借りれば、無駄に美人なので目立ち、さらにクーマ教の誇るべき勇者とその仲間たちなので有名です。

 居場所を掴んだ私たちは、彼女らの向かうであろう場所を予測し、この森で待ち伏せすることにしました。別に彼女らが来なくても良かったのですが、幸運なことに来ました。エドワードさん曰く、「毎日のお祈りの成果」です。

「さあどうする? おとなしく渡すか抵抗するか。抵抗は邪魔をすることとみなすよ。言ったよね、邪魔したらどうするか」

 あの時のことははっきりと覚えています。爽やかな青年がどこかへ行き、物騒なことを言う青年が現れました。

「アタシたちは抵抗することを選ぶわ。アンタたちが来るって思ってたから、服に護符を縫い付けたし、他にもいろいろしたわ。魔法なんて気を抜かなければなんてことない。たとえあの子の魔法でもね」

「随分と自信があるようだね。レイちゃん聞いてる? 魔法は使わなくていいから、自分の身を守ることに専念してね。この子たちは僕とジークでなんとかするから」

「アンタこそ随分と自信があるのね」

「まあね。こっちには聖剣があるから。よく斬れる聖剣が。なあ、ジーク?」

 おそらくジークさんは頷いたのでしょう。エイミーは不審そうな声になりました。

「斬れる? それが?」

「そうだよ。よく斬れるんだよ。二日持ってて気付かなかった君たちは……馬鹿かな?」

 このエドワードさんの言葉は彼女らを怒らせたようです。戦闘開始の合図となりました。

 魔法使いたちが魔法で攻撃しているようで、ドゴーンとかズガーンとか聞こえ、振動が伝わってきます。

 二対十五でエドワードさんたちの方が不利なはずですが、剣戟の音や爆音に混じって聞こえるのは女性の悲鳴ばかり。

 正直、今の状況は怖いです。音を聞いているだけでも戦闘の激しさがわかります。エドワードさんとジークさんが心配ですが、それ以上に自分の身が心配です。いつ戦いに巻き込まれるかとビクビクしています。

「キャアアアアアア!」

 一際大きい悲鳴が聞こえたと思ったら、宙を舞ってきた、魔法使いであろう女性がすぐ近くの木にゴッとぶつかり、地面に落ちました。その人は呻きつつも起き上がり、私を視界に入れると目を見開き、口を開け、

「ふーっ!」

 叫ぼうとしましたが、私は咄嗟に彼女の口を手で塞ぎました。自分でも信じられないくらいの速さで。

 私の荷物の中にはニールグの魔法の教科書という他国の人には見せられない物と、たぶん神の道具のボールペンがあります。さらに私はエドワードさんとジークさんの荷物を預かっています。今の私の役目は荷物を守ることです。荷物と自分の命を守るためには、この人に叫ばれたら危ない、そう直感しました。

 私に口を塞がれた彼女は私の手を払おうとしましたが、どこかが痛むらしく、動きを止めました。

【そのままおとなしくしろっ】

 私は咄嗟に思い付いた言葉を口にしました。ついでに片腕だけでも押さえておきます。

 護符とやらが効果を発揮しているのでしょう、彼女はおとなしくなりません。暴れています。でも少しは魔法が効いているようです。私でもなんとか押さえ込めるくらいです。

【おとなしくしろって言ってるんだからおとなしくしろ!】

 この叫びが他の敵に聞こえていませんように。

 彼女は暴れなくなりましたが恐ろしい形相で睨み付けてきます。視線で人を殺せてしまいそうです。怖い!

 ドサッ、と何かが倒れる音がして、急に静かになりました。

「レイちゃん、大丈夫?」

 不意に声を掛けられてビクッとして振り向くと、怪我をしたエドワードさんとジークさんがいました。

「一人残ってたか」

 エドワードさんはそう呟くと、私が押さえ付けたままの彼女に近寄り、私にとっての恐怖の視線などどこ吹く風というように、手刀で彼女の首筋を叩いて気絶させました。

 こうやって気絶させる場面は何度も本で読みましたが、実際に目の前で人があっさり気絶するのは不思議な感じがしました。ついさっきまで脅威だった人が今ではただ気絶して倒れているだけの存在に変わってしまいました。

「ごめんね。レイちゃんのいる方に飛ばしちゃって。怪我はない?」

「大丈夫です。お二人こそ怪我して大丈夫ですか? 手当てしますよ。それとも魔法で治しましょうか?」

「僕はいいよ。たいした怪我じゃないし、こんなのすぐ治るし」

 エドワードさんは頬に付いた血を拭ってみせました。頬に傷は一つもありませんでした。

「ほらね。もう治った」

 え? いくらなんでも早すぎませんか? 拭った血は本当にあなたのものですか?

「この通り僕のことはいいからジークを手当てしてあげて。あちこち怪我してるし、さっき魔法で飛ばされて着地に失敗して足痛めたみたいだから」

「そんなことまで言わなくていい。あと、俺も手当てはいらない」

「何言ってるんだよ。さっきから右足庇って動いてるくせに。ところでレイちゃんにお願いがあるんだけど」

「何ですか」

 エドワードさんは気絶させた人を指差しました。

「この子たちの荷物あさって神の道具を探してくれる? 僕やジークに触られるの嫌だろうから」

「いいですけど、十五人分を一人でやってたら時間がかかると思うんですが」

「じゃあ、十分間でできるだけあさることにしよう。僕は鞄とか探すから、レイちゃんは服を調べて。ジークは動くなよ」

「……」

 ジークさんはどことなく不満そうです。

「動きたいならレイちゃんに治してもらいな。それが嫌なら自分で手当てしておとなしくすること。僕を怪我人を働かせる程の悪人にしないでくれ」

 エドワードさんに言われて、ジークさんは荷物の中から救急箱を取り出しました。救急箱と言っても、旅の邪魔にならない大きさです。旅をする人は大抵持っています。

 ところで、ジークさんは魔法による治療が嫌なのでしょうか? それとも私にされるのが不安? ……この可能性が高いですね……。

 少し落ち込んでいたらエドワードさんがそっと慰めてくれました。

「女の子に頼るのが嫌なんだと思うよ。それも年下の子に頼るのが」

 気を取り直して、とりあえず目の前の人からあさらせてもらいましょう。

 エドワードさんの持ち物の一つに、「神の道具一覧」があります。それによるとクーマ教の国にある神の道具はほとんどが小さい物です。大きい武器もあるはずですが、まだ彼女らは手に入れていないようですね。

 目の前の人のポケットをひっくり返したり、あちこち触ったりしてみましたが、それらしき物はありませんでした。

 他の人を調べようと思い、立ち上がるといろいろなものが目に飛び込んできました。抉れた地面、折れた剣や杖、倒れた木々と人。まるでアクション映画でも見ているかのようです。あ、エイミー発見。

「レイちゃん、どうかした?」

 エドワードさんが荷物をあさりつつ聞いてきました。

「……現実の光景には見えないな、って思って」

「ああ、レイちゃんには刺激が強すぎたかな……。ごめんね。これからこういうことは何度もあると思う。レイちゃんには慣れていって欲しい」

 申し訳なさそうに言うエドワードさん。でも手は一切止めていません。

 ……いつまでも突っ立っていないであさるとします。



 夜、ある小さな町の宿で、私たちは集めた神の道具を広げました。

 十分間あさって、神の道具と思われる物を三つ見つけました。

 これがまた私にとっては人間の道具なのです。

 一つは懐中電灯。電池が入っていてちゃんと点きます。

 二つ目はビデオカメラのカセットテープ。何が記録されているかは不明。

 三つ目は電卓。これも問題なく使えます。

 一通り私の説明を聞いたエドワードさんは首を傾げました。

「……僕、神の道具を集める理由は魔王を倒すためだと思ってたけど違うのかな」

「えっ、何のために集めるのか知らないんですか?」

「うん。神の道具を集めて魔王が復活したら倒すのが役割だ、って聞いたから魔王を倒すためだと思ってた。でも今のところ戦闘で役に立ちそうなのって聖剣くらいだよね」

「そういえばそうですね」

 ていうかおかしいですよね。聖剣以外日本の一般家庭にあるものばかりです。カセットテープはちょっと古いので無い家も多いかもしれませんが。

「どうして『神の道具』って言うんだろうな」

 ジークさんの呟きに、

「神様の道具だからじゃないのか?」

 エドワードさんは他に何があるのかと言わんばかりの顔をしました。

「神様が道具で暗い所を照らすのか」

「それは……どうなんだろうな……あ、レイちゃん何か知ってる?」

「神様のことなんてただの人間の私にはわかりませんよ」

 実は人間の道具だ、って知ったらこの二人はどんな反応をするでしょうか。残念がりそうですね。特にエドワードさんが。

 このことは黙っておきましょう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ