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やったね!!

 とうとう来ました。神の道具の一つがある村に。

 村の名前はペルン村。今、その村の教会にいます。

 先程、昼食をいただきました。大教会の食事より美味しかったです。きっと食材の鮮度の違いでしょうね。

 テーブルを挟んで私たちの前に座っているのはこの村の司教さん。司教さんは八十歳くらいの方ですがかなりお元気そうです。腰痛に悩む私のお祖父ちゃんとはえらい違いです。

「この中に、神の道具の一つが入っております」

 そう言って司教さんは縦二十センチ、横五センチくらいの箱をエドワードさんに差し出しました。

「開けても?」

「どうぞ」

 エドワードさんは箱を慎重に開けました。

「何だこれ……」

 彼は箱の中身が何なのかわからないようです。私に見せてくれました。

 箱の中に入っているものは、細く、十五センチほどの長さの物。これは………………

「……ボールペン……?」

 ただのボールペンです。これ、神の道具じゃなくて人間の道具です。

「レイちゃん、これが何か知ってるのかな?」

「ボールペンです」

「何それ?」

「ただの筆記用具です」

「え……」

 エドワードさんは残念そうな顔をしています。そんな顔したいのは私の方ですよ。わくわくしてたのに! 何でボールペン!?

「これは神の道具ではないということか」

 ジークさんがぼそっと言った言葉に司教さんが何とも言えない顔をしました。

 全員が黙り込んでしまい、空気が重くなりました。この状況を作ってしまったのは私です。どうにかしたい。でもどうすれば…………あっ! 大切なことを忘れてました! これ、この世界にある物ではありません。だから、

「これは神の道具と言っていいと思います」

 たぶんいいよね?

「え? でもただの筆記用具だ、ってレイちゃん言ったじゃないか」

 まあ聞いてください、エドワードさん。

「これ、見たことありますか。ないでしょう。司教さん、これを今まで見た人の中に使い方がわかった人はいましたか」

「ん~、これを管理するようになって六十年くらい経つがのう、そんなやつはいなかったのう。みんな見るだけで触らんかったしのう。まあ、見たやつは少ないがのう」

「だそうですよ。見たことはないし、使い方もわからないなら、神の道具と言っていいと思います」

 自分で言って納得できない理由ですが、納得してください、エドワードさん。

「でもレイちゃんはこれが何かわかってるし、使い方も知ってるよね?」

 納得してくれませんでしたか……。ならば。

「どうして私が一緒にいるのか考えてください」

 そう。私は戦闘の補助だけが役目というわけではないのです。

 エドワードさん、今度こそ納得してください。

「そうか……。レイちゃんなら知っててもおかしくないか」

 納得してくれましたか? どうして知っているかは聞かないでください。

「それでは司教様、これ、もらっていきます。いいですね?」

 よし! うまくいった!

「どうぞどうぞ。旅の役に立つと良いですのう」

「ありがとうございます。レイちゃん、これ預かってくれる?」

「はい」

 ボールペン(箱付き)ゲット! きっとどこかで使えるでしょう。メモする時とかに。

「じゃあ行こうか。司教様、お元気で」

「勇者殿もお気をつけてくださいのう。そっちの坊っちゃんと嬢ちゃんも」

「はい」

 将来はこの人みたいに健康的な年寄りになりたいものです。



 ふう。やっとペルン村から出られました。いやあ、大変でした。

 美形二人は村でも大人気でした。

 村なら人口が少ないのであの視線も少ないと思っていました。ところが、村とはいえ、首都に近いので人口は多かったのです。

 一般人に魔法をかけるのもどうかと思って、あの「見ないで」は我慢しました。でも一回だけ「見るな」と言ってしまい、しかも魔法が発動しました。ペルン村の皆さん、ごめんなさい。

 そういえば、次はどこに行くのか聞いていません。

「エドワードさん、次はどこに行くんですか」

「ナタークっていう町。一週間以上はかかるかな。そこの教会に神の道具の一つがあってね。手入れいらずのよく斬れる剣なんだって。聖剣って呼ぶ人もいるらしいよ」

 聖剣……! なんて心踊る響き!

「ああそうだ、今日は野宿だから。野宿したことある?」

「ないです」

「草の上とかで寝たことは? 昼寝とかで」

「えーと、砂の上に寝てたことならあります」

 あれはびっくりしました。起きたら砂浜にいたんですもの。

「じゃあ大丈夫か」

 砂の上で寝てたからって野宿しても大丈夫だとは思いませんよ。



 夕方になりました。

「このへんがいいかな」

 エドワードさんはあちこち見ています。野宿にいいかどうかを見ているのでしょう。

 ここは林の中。夕方の林ってちょっと不気味です。夜になったら怖くなる気がします。

「今日はここで野宿。ジーク、何か獲ってきて」

 ジークさんはこくりと頷くとどこかに行きました。獲ってこい、と言われて獲ってくることができるのですね。

 ジークさんが行っている間に、私とエドワードさんは薪を拾いました。これから魔法で火を着けます。

 教科書を見ないで魔法陣を描いてみました。合ってるはず。えーと、呪文は……

【暗闇で 静かに燃える 小さな火】

 魔方陣から火が出て燃え移りました。うまくいって一安心です。

「短い間によく覚えたね。他にいくつ覚えた?」

「えっと、魔法陣のいるのが三つといらないのを六つ。あと、今日たまたまできたのも」

 覚えたのはどれも大したことはありません。攻撃に使える魔法は呪文が長くて魔法陣が難しすぎです。覚えるのにどれくらいかかることやら。

 エドワードさんと話しているとジークさんが戻ってきました。手には緑色のもの。何でしょうか。

「随分大きいウサギだな」

 エドワードさんが感心したように言いました。

 え、これウサギなんですか。おや、長い耳。

 ジークさんはナイフを取り出すと、ウサギを捌き始めました。

 私、こういうの見ても大丈夫なんですね。絶対無理だと思ってたのに。しかもウサギが捌かれるところなんて。色がウサギとは思えないからでしょうか。

 なんだか世界が赤いです。夕日と炎とウサギの血と肉とジークさんの髪の色。私も髪が赤いらしいのですが信じられません。髪を掴んでまじまじと見ていると、エドワードさんに質問されました。

「そんなに髪の毛見てどうしたの? あ、女の子としては気になるのかな?」

 違います。いやまあ、女としてもちょっと気になりますけど。

「えーと、その、私のこれ、どう見えてますか」

「え、髪の毛のこと? 綺麗な赤だなあって思ってるけど」

 やっぱり赤く見えているのですね。ところが私には黒く見えているのですよ。

「どうして初めて私と会った時驚かなかったんですか。ジークさんのことは驚いてたみたいでしたけど」

「あー、そういえば何でかな。女の子が見習い司教の服着てたことにはびっくりした気がするんだけど……わからないな」

 えー。今朝、私の髪と目が赤いって聞いてからずっと気になってたのに。うーむ。ジークさんにも聞いてみましょうか。

「ジークさん、私を初めて見た時、どう思いました?」

「不審者」

 えええええ。まあ、私もジークさんたちを変な集団だと思いましたけどね。お互い様ですね。

「ジーク、レイちゃんが聞きたいのはそういうことじゃない。僕たちの会話聞いてただろ?」

 エドワードさんがジークさんに呆れたように突っ込みました。突っ込まれたジークさんは、

「変わってると思った」

 と言いました。うわー、自分のこと棚に上げましたよこの人。

 彼はふと何かを思い出したように付け加えました。

「俺と同じだとは思わなかった……今は同じだと思うけど」

「? それはどういう……」

「わからない」

 えー。結局わからないのかー。



 夜。

 やっぱり大丈夫じゃありません。眠いのに寝れない。風とか虫とかが煩わしい。しかも幽霊出てきそう。

 耐えられなくなって起き上がると、見張りで起きていたエドワードさんに心配されました。

「寝れない?」

「寝れないです。いろいろ気になって」

 焚き火を見ているだけというのはつまらない。何かいじりたい。眠いから魔法を覚える気にならない。あ、そうだ、ボールペン。

 ボールペンの入った箱を開けました。

「やっぱりそれ気になる? 僕もそれのこと考えてたよ」

 エドワードさんもですか。そりゃあ気になりますよね。なんせ神の道具と呼ばれる物ですから。

「これ、触ってもいいのでしょうか」

 神様の物と考えるとちょっと触りにくいです。

「レイちゃんがいいと思うならいいんじゃないかな。僕にはわからないよ」

 エドワードさんの言葉に思いきってボールペンを持ってみました。ふむ。普通のボールペン。ん? あ! あああああ! MADE IN JAPANって書いてありますよこのボールペン!

「どうしたのレイちゃん、驚いてるみたいだけど」

「え、いえ、ずっと昔からあるにしては状態がいいなって」

「そっか。神様が使うような道具なら長持ちするだろうね」


 言えない。神の道具が日本製だなんて、言えない。

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