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祝!

 今、私たち三人はこの町(首都)の出口に向かって歩いています。ここから西の村に神の道具の一つがあるらしいのです。一体どんな物なのでしょうね。わくわくします。

「それにしても、二人とも目立つなあ」

 エドワードさんが突然言いました。二人ともって、私とジークさんのことですよね。何が目立つと言うのでしょう。考えてもわからないのでエドワードさんに聞いてみます。

「どうしてですか」

「二人とも髪の毛と目が赤いから」

「…………は?」

 何言ってんですかこの人。私の髪は黒いです。よく誉められる自慢の黒です。染めた覚えはありません。念のために髪を見ましたがやっぱり黒いです。目だって黒いはずです。そういえば国王は私の髪を藍色と言っていたような。

「……どうして髪と目が赤いと目立つんですか」

「は? あ、もしかしてレイちゃんの故郷は赤い髪や目は珍しくないのかな?」

 そんなことありません。本の中でならたくさん見られますが。

「この大陸では、かなり昔に魔王を倒した勇者が赤い髪だった、って記録が残ってるだけだよ。目が赤い人は今までいなかったんじゃないかな」

 なんですと!? ジークさんは超珍しい人ということですか? それでエドワードさんは初めてジークさんに会った時に驚いていたのですね。

「で、とにかく二人ともかなり目立つからどうしようかっていう話なんだけど。今はまだ朝早いから人がいないけど、そろそろにぎわってくるだろうね。そうなると二人はジロジロ見られると思う。もし二人がそういうのが嫌なら、こんな大通りじゃなくて人気のない道を行ってもいい。ただ、そういう道は面倒なことに巻き込まれることもある。二人はどうしたい?」

「見られるのは慣れてる」

 ジークさん即答。このままでいいってことですか。

「レイちゃんは?」

 うーん、迷いますね。このままだと目立ちますし、人気のない道って物騒ですし。むう……。

「このままでいいです」

 恥ずかしがりの私がいつか慣れると期待して。



 二時間後。私は、死にそうなほど心が弱っています。何故なら、髪が赤くてジロジロ見られてるのと、もう一つ、「何あいつ」的な視線が突き刺さってくるからです。こういう敵意混じりの視線は本で何度も読んで知っています。主人公がよく苦労していました。美形と一緒って大変です。エドワードさんもジークさんも人間離れした容姿だったらいいのに。二人とも人間の範囲にいるものだから、彼女たちが私の存在に気付いて私にこんな視線を向けてくるのです。しかも時々、ヒソヒソと私のことを話している声が聞こえます。

 ああ、そこの看板娘さん、そんなに見ないで。そっちの気の強そうなあなたも見ないで。

 杖を持っていて良かったです。私は何かを握っていれば少しは心の平穏を保てます。この杖は握ってすがるのにちょうどいいです。こうやって両手で握っておけば…………いーやー! そちらの気高そうなお嬢さん、そんなに厳しく険しく

「見ないで」

 思わず声が出ました。小さくて彼女には聞こえなかったでしょうが。

「レイちゃん、何か言った?」

 隣を歩いていたエドワードさんには聞こえたようです。

「いいえ」

 私に話し掛けないでください。さらに視線が厳しくなったではありませんか。ううう、あなたたちそんなに

「見ないで」

 また声が出ました。

「見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで」

「レイちゃん? 何言ってるのかな……?」

 エドワードさん、話し掛けないで。そして、

「見ないで」

 俯いてブツブツ言ってる私は不気味なのかエドワードさんは私から視線を外したみたいです。

 エドワードさんだけじゃなくて、全員、

「見ないで」

 厳しい視線が一気になくなりました。私はそんなに不気味ですか? 問題を起こさないように、彼女たちに聞こえないように小さい声で言ったのに。

 不思議に思って顔をあげると誰も私を敵意を込めて見ていません。髪が赤いのに驚いてそのままジロジロ見てくる人もいません。驚いてそれっきり、すぐに別のものを見ます。

 エドワードさんが前を向いたまま話し掛けてきました。

「レイちゃん、魔法使った?」

「へ? 使ってません」

「じゃあさっきまで何を言ってたのかな?」

「……見ないで、って言ってました」

「そうは聞こえなかったよ。まるで呪文を唱えてるみたいだった」

「呪文? ……あ」

 私、日本語で「見ないで」と言っていたことに気付きました。

「日本語で言ってました」

「そう。みんなレイちゃんのことを見なくなったから魔法を使ったのかと思った」

 そんな魔法あるんでしょうか。

「おめでとう」

 私たちの少し後ろをを歩いていたジークさんがいきなりそんなことを言いました。何を祝っているのでしょうか。

「何が、おめでとう、なんですか」

「レイは新しい魔法の開発に成功した」

「え?」

「レイが母国語で何か言えばそれがそのまま魔法になるかもしれないとエリエント司教に聞いた」

 つまり私は……。

「やっぱりレイちゃんは魔法使ったんだ。自分が知らないうちに」

 そういうことになりますね……。ていうか先生、ジークさんじゃなくて私に教えてくださいよ! うっかり日本語で何か言って変な魔法が発動したらどうするんですか!

「ところでレイちゃん。僕にまで魔法がかかってるけど、これいつまで続くのかな? 少しも視界に入れられないんだけど。このままだとレイちゃんに何かあっても助けられないよ」

「俺にもかかってる」

「えっ。あ、ごめんなさい」

 仲間にまで被害を及ばせてしまうなんて。

「あー。やっと見れるようになった。レイちゃんってよっぽど魔力が強いんだね。僕、けっこう耐性があるんだけど、初めて魔法にかかったよ」

 やっぱり勇者って魔法に対する耐性も強いんですね。頼もしいですよ、エドワードさん!

 感心しているとジークさんが衝撃的なことを言いました。

「レイはあっさりエドに勝てるんだな」

 …………え、あ、私、勇者に、勇者に勝った!?

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