第96話 努力の賜物?
視点変更 ハイナ2世→ネイ
私達はマンスターの集団と戦って暫く経った。 敵はかなり多く、レイちゃん達と別れてしまったので今、単体で戦っている。
「シャアアァ!」
前から棍棒を持ったマンスターが奇声を上げ、ジャンプしながら私に向かって振るって来る。 それを一歩引いて攻撃を交わし、フィルがくれたナイフでマンスターの肘の辺りを斬りつける。 ナイフはマンスターの腕をあっさりと切り離し、棍棒と腕の一部が短い草の中に落ちる。 切り口は黒々としてまるで火傷したようになっている。
「キシャアアァ!」
腕の痛みからマンスターはまるで落雷が落ちた様な悲鳴を上げるがすかさずナイフで腹を切り裂く。 マンスターがどうなったか見る前に横から別のマンスターが2匹、私を挟むように襲って来る。
「邪魔! 【奥義 二刀回転乱舞】!」
私は素早くポーチから別のナイフを取り出し、回りながら2体のマンスターをそれぞれのナイフで切り裂く。
「……ん? 意外とあっさり」
マンスターは確か平原から南にあるシンオウカの樹海に生息しているモンスターだった気がする。 モンスターのレベルが結構高くて誰も入れないと1回他の冒険者から聞いた覚えが有った。
そんな所から来たモンスターをさっきから何体も私は倒している。 何というか……私、強くなった?
「ネイ! 後ろに!」
自分の事を少し考えているとアリアが私に警告を発し、背後のマンスターの存在に気付く。 急いで振り向くとそこにはボロボロの剣を持った小さな人型が私に向かって飛びかかろうとしていた。
「!【奥義 高速突き】」
私がマンスターにナイフを突き出すが、マンスターの剣に防がれ剣を真っ二つにした事しか成果が無くマンスターがそのまま私に掴み掛かろうとして来る。 私は足を曲げ無理矢理体制を崩しマンスターの魔の手から離れる。 その時、私の上を何かが通り過ぎて行った。
「……な、何?」
何が通ったのか確認しようと顔を上げ、周りを見渡すと……角にまだ動いている茶色い肉が刺さった一角獣が立っていた。 どうやらピンチだった私を助けてくれたみたいだ。
「あ、ありがとう……」
「……」
私がお礼を言うとシャイニングユニコーンは頭を強く振り刺さった茶色いのを地面に落とし、瀕死のマンスターに前足で勢い良く怨念を込めるかの如く踏み潰す。 ……何かお怒りのご様子?
「な、何でそんなに怒ってるの?」
「……」
シャイニングユニコーンは無言だが目は明らかに私に伝えて来た。 「こんな汚い物を私を触らせるな」という怒りの目をしている。 つまり、彼(彼女?)は相当な潔癖症の様だ。
「ご、ごめんなさい。 私が隙を見せたから……」
「……」
そう慌てながら言うとシャイニングユニコーンの目が今度は突如優しい雰囲気に変わり、角が光り輝き始める。
そして彼(彼女?)が頭を軽く振ると角から電撃が飛び、近付いてきていたマンスター達が一気に弾け黒い塊になる。
「……」
「あ、ネイ! そっちも終わったの……ってどうしたの?」
私がシャイニングユニコーンのその力に驚き軽く放心状態になっていると、後ろからレイちゃんがやって来る。
隣には黒猫さんとアリア、空には飛んでいるヒッポグリフが居る。 どうやら戦いは終わったみたいだ。
「ん、シャイニングユニコーンに驚いただけ」
「そう? あ、怪我とか無い?」
「あ、それは大丈夫」
レイちゃんは体の心配をして来るが、私はマンスターの攻撃をギリギリだが全部避けたので傷は無い。
「それなら良いけど……そう言えばネイってかなり強いんだね。 マンスターのレベルって80位じゃなかった?」
「え? 80?」
いやいや、私のレベルは確か30前後。 マンスターのレベルがそんなに高い訳が無い。
「いやいや、武器が良かったんだよ」
「ネイ、普通のナイフで切ってませんでした?」
「……そうだっけ?」
そう言えば【奥義 二刀回転乱舞】の時のナイフでもあっさり切れていた気がしない訳でもない。
「じゃあマンスターが弱かったんだよ。 そうに違いない」
「いやいや、ネイが強いんだよ」
「いやいや……」
「いやいやいや……」
「いやいやいやいや……」
「……レイさんが【補助】を使って能力を調べれば良いんじゃないですか?」
私がレイちゃんの言葉に謙遜?しているとアリアが呆れた口調で提案していた。
「あ、そうだね」
「それが良いよ! さあ、レイちゃん! 来い!」
「良し! ネイの全部見てやる!」
『その言い方は止めた方が良いと思う』
夜に戦ったせいか、真夜中に眠れなくなるあの現象と敵との戦いでテンションがハイになっている私達に黒猫さんが冷静な声を上げていた。
視点変更 ネイ→レイ
「レベル92……ネイの嘘つき!」
「へ……えぇ!?」
俺の言葉にネイが驚いた声を上げる。 今、俺はネイに対して【補助サーチ】をしたのだが……。
【ネイ 獣人 レベル92 ♀ 義賊】
……あれ? 俺の記憶が正しければオルアナ王国の騎士団長よりレベル高くない?
「え、何でネイそんなに強いの? ドーピングでもした?」
「してないよ!」
ネイが俺の言葉に怒りながら抗議する……けどどうしてこんなに強いんだろ?何か原因は……。
「あ、クルルシュムのおかげか」
「へ、クルルシュム?」
『成る程』
俺の言葉にネイが不思議がり、黒猫さんが納得している。
「ほら、ネイはクルルシュムと戦ったじゃん。 だからレベルが凄い上がったんじゃないかな?」
「ああ……そっかぁ」
ネイも俺の言葉に納得してくれたようだ。 そう言えばクルルシュムと戦ったのはネイ以外にもガントとかが居たが、彼らもレベルが上がったのだろうか?
「ま、もう関係無い話か」
ガント達のレベルが上がっても余り俺には関係無いしな。
「あの、レイさん。 魔導隊の人達がこちらに来ますよ?」
俺が頭の中で勝手に結論付けているとアリアがハイナ教国の国境の方を指差す。 指の方向を見てみると紅い服を着た人達が5人位こちらに来るのが見えた。 シャイニングユニコーンの攻撃とかは派手だったし偵察みたいなものだろうか。
彼等は俺達の所にやって来て俺達の姿と周りのマンスターの惨状を見て話し掛けてくる。
「あ、君達! 魔導隊の者だがこれは一体何が……」
魔導隊の男の言葉が途中で止まり、目を見開きながら呆然としている。
「……ん? どうかしましたか?」
「う、後ろに……」
魔導隊の男はそう呟きながらもずっと何かを凝視している。 俺はその様子を不思議に思いながら、後ろを向く。 俺の後ろなんてせいぜい俺が召喚したモンスターが居るくらいで……。
「あ、あれはユニコーンじゃないか?」
「あ、この子達私が召喚したモンスターだから気にしないでね」
魔導隊の人達からざわめきが起きる。 成る程、俺が召喚したモンスターに驚いていたわけか。
「ユニコーンを召喚した……だと?」
「そう言えば闘技大会の優勝者も召喚してませんでした?」
「まじかよ……俺国境の見張りだから闘技大会見てないんだよ」
「えぇ~今回の闘技大会凄かったよ。 モンスターが一杯で超楽しかった」
「ちょっと待て。 という事は彼女は闘技大会の優勝者である可能性が微……」
「あ、あの~」
俺達を無視して喋り続ける魔導隊の人達に俺が話し掛ける。 すると会話がピタリと止み、じーっと俺を見て来る。
「話を戻しません? ここで何があったかを確認しに来たんでしょう?」
そう言うが魔導隊の人々は何も話さず俺の方をジッと見ている……あ、あれ?俺何か変な事言った。
「レイちゃん……」
俺が動きが止まった魔導隊の人達に戸惑っていると、後ろのネイから話し掛けられる。 俺がネイの方向に振り向くと。
「レイちゃんに敬語って凄い似合わないね」
と今の状況と全く関係のない事を言われてしまった。 それに対して俺は周りの雰囲気で口には出せたかったが心の中で思いっきり突っ込みを入れるのであった……。