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第95話 勘と精霊の知らせ

 雪はどんどんと降る量が増え、何も無い大地を白くしていく。 私達はテントを早めに張り、夜に備えていた。


「団長」

「何だ?バルテン」


 テントで首都への道や作戦を確認していた所、バルテン・リヴィルがテントに入って来る。


「団長、聞きたいことが有ります」

「別に構わないが……何を?」

「ヴェルズ帝国の首都についてです。 私には首都にも人が居る気がしません」

「……そうか」


 バルテンの言葉に私も同意する。


「で、それがどうがしたのか?」

「だからここで王に次の指示を待つべきなのではないだろうか」

「……ああ、だが村の事を報告したが進軍の指示しか来なかった。 ならばここでも来る指示は変わらないだろう」


 ヴェルズ帝国の宿屋の事も鳥を使って報告したが指示は変わらなかった。 ならば今回も変わらないだろう。


「ですが、行くのは敵の中心です。 もう少し考えねば」

「そういう事は私も考えた。 だがこれ以上長引けば騎士達の士気も関係する。 これ以上、部下を疲れさせる訳にはいかない」

「……分かりました」


 バルテンは私の言葉にしぶしぶといった感じで呟き、テントから出る。 ……もしかしたらバルテンは首都に何か嫌な物を感じたのかも知れない。 冒険者の勘といった物だろうか。


「……部下を出来るだけ死なせない」


 私は地図を見て、また作戦を考え初めていた。










視点変更 レオーナ→レイ


 空が暗くなり、周りは夜に包まれてしまった。 俺は野営の準備をしながら【補助 ホークアイ】で周囲を見渡す。 すると視界に印象的な茨の壁が見えた。


「あ、ハイナ教国の国境が見えるよ。 結構近くまで来てたんだ」

「へ、へー……そうですか」

「……アリアちゃん、大丈夫?」


 俺の言葉をアリアが魂の抜けた声で返事をする。 ハイナ教国には行こうと思えば行けそうだが、アリアがこんな様子だし移動するのは明日にしよう。 何て考えながら【魔法】を使い木の枝を用意し、更に【魔法】で火を付ける。 それを見て「おぉ」と感心したように声を上げるネイ。


「やっぱり【魔法】って便利だね~。 私も使えるようにしたいな~」

「私は教えるの下手だから黒猫さんに教わったら?」

『……』

「って黒猫さん、どうだしたの?」


 ネイと会話中に黒猫さんに話を振ったが黒猫さんは俺達がやって来た方向……つまり東の方をジッと見ている。


「黒猫さん?」

『……何か来る』


 俺の言葉に口数少なくそう答えた黒猫さん。 普段と変わらないが、俺達よりもそっちに神経を集中させているような黒猫さんの様子に俺達も危険だという事を理解する。

 俺は黒猫さんの向いてる方向の先を【補助 ホークアイ】で見る。 すると視界に茶色い小さな人みたいのが50体近く、手を使い4本足のように走りながら向かって来ているのが見えた。


「あれってマンスターだっけな……」

「マンスター?」


 確かレベル100位のモンスターで人間みたいに武器を使って戦うモンスターだ。 背はプレイヤーと同じ位だが何時も四足歩行の為、接近戦だと攻撃を当てづらいモンスター。

 ちなみに「マジック・テイル」の設定だと人に近い存在(ゴリラみたいな感じ?)だから名前がマンとモンスターを合わせたマンスターらしい。


「けどあのモンスターは基本縄張りに入るか、仲間を襲わない限り攻撃して来ないんだけど……」

「……ねえ、レイちゃん」


 俺の疑問にネイが深刻な顔で聞いてくる。


「もしかしてスレイプニルで轢いたのって……」

「あ」


 確かスレイプニルが轢いたのは茶色い何か。 もしかしてあれがマンスター……だったとか?


『考えるのは後。 ご主人様これからどうする?』

「ハイナ教国に逃げる? いや、それじゃ魔導隊の人が怪我しちゃうかも知れない」


 ハイナ教国の砦が有るが、もしスレイプニルの接触事故が原因なら更に追って来そうな予感がする。 スレイプニルをずっと追いかけてきたみたいだし……有り得る。


「私はここで戦うよ。 ネイは?」

「もちろん私も戦うよ! 黒猫さんは?」

『私はアリアの周りを守りながら援護する』

「すみません、皆さん。 私だけ何も出来なくて……」


 アリアが戦う準備をする俺達を見て頭を下げる。 別に気にする必要は無いと思うけど……。 と思いながらアリアに出来る事を考える。


「じゃあ、アリアは他の方角からモンスターが来ないか見張ってて。 何時の間にか囲まれてたら大変だから」

「え、はい! 分かりました」


 アリアが元気に返事するのを見ながら、【召喚】の準備をする。


「【召喚 ヒッポグリフ】」


 地面に浮き上がった魔法陣から鷹と馬を融合させたようなモンスターが現れる。 その後俺は更に魔法陣を地面に発生させる。


「【召喚 シャイニングユニコーン】」


 白くて金色の角が生えた美しい馬が堂々と前足を持ち上げながら現れる。

 その2匹を見てネイが「おぉ!」と感心した声を上げる。


「相変わらずレイちゃんの出すモンスターは凄いね。 捕まえるの大変だったんじゃない?」

「うん、捕まえるのには苦労したよ~」


 こくこくと頷きながらネイの言葉に同意する。 ヒッポグリフは動きは速いし、空中や地上を自由に動き回る。 防御力は低いが逆にそれが仇となりついつい倒しちゃうことも何度か……。


「……レイさん、集中して下さい」

「ご、ごめんアリア」


 俺の苦労話はアリアの静かな一言に止められた。


「レイさん、油断禁物ですよ。 ほら、マンスターが少し私にも見えてきましたから、準備しましょ」

「……」


 何かアリア気が強くなった……というか肝が据わった?










視点変更 レイ→ハイナ2世


 ハイルズの夜は静かだ。 元々気性が大人しい種族であるエルフの国。 多種族の冒険者が居る外側は少しうるさいかもしれないが、ハイルズの中心であるこの城には喧騒は聞こえない。


「女王様、まだ眠って居ないのですか?」


 城のベランダに立ち街並みを眺めていた私に女官が後ろから聞いてくる。 それを聞き私は顔を上げ、彼女の方を向く。


「ええ、ちょっと精霊達が気になる話をしていたの」

「気になる話……ですか?」

「ええ」


 女官に微笑みながら私は答えるとベランダから離れ、私室に入る。 私が入ったのを確認した彼女はベランダの扉を手際良く閉める。


「……ついさっき「北の国に大きな闇が有り、東から大いなる光がやって来る。 2つはぶつかり互いに消える」って急に言って消えてしまったの」

「大きな闇……ですか? あ、紅茶のご用意は」

「別に要りません。 それより、私の話を聞いてくれませんか?」


 女官は話が長くなると感じ、飲み物を用意しようとするが、私がそれを止めさせる。 私の言葉に彼女は少し困った表情を見せる。


「はい、畏まりました。 ですが私そう言うのはあまり詳しくないので、精霊使いの方に話した方が……」

「構いません。 今の私は精霊の言葉を分析したいのでは有りませんから」


 精霊は時々独特な言い回しをする。 私達エルフはそれを聞く事は出来るが理解出来ない事が有る。 それを解読する事を専門にし、精霊を操る職業を精霊使いという。 でも今はそういう専門的な人とでは無く、目の前に居る彼女みたいな精霊使いでない人と精霊の事を話したい気分だったのだ。


「分かりました……で北に大きな闇でしたっけ?」

「ええ、あなたは何だと思いますか?」


 そう聞くと彼女は少し悩み


「北の国だから……ヴェルズ帝国から強力なモンスターが襲って来る。 とかでしょうか?」

「あら私と似たことを考えていたのですね」


 私が感心しながらそう女官に言うと、彼女は少し照れくさそうに「お褒めいただきありがとうございます」と丁寧に頭を下げる。


「じゃあ、光は……何かしら?」

「恐らくそのモンスターを倒せる何かだと思うんですけど」

「詳しくは判らない……と」

「はい」


 2人で首を傾げながら考えていると私の目に「10」を指した、時計が入って来た。


「この話は明日にしましょうか」

「あ、はい分かりました。 おやすみなさい、女王様」


 私の言葉を聞いた女官は少し頭を下げ、部屋から出て行く。 私はそれを見た後ベッドの中に入る。

「北の国から大きな闇が有り、東から大いなる光がやって来る。 2つはぶつかり互いに消える」……この言葉の意味を暫くベッドの中で考えたが、やがて深い眠りに私は入っていった。

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