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第93話 出発

 その後宿に戻った俺は直ぐに寝てしまった。 黒猫さんも寝てしまったらしい。 そして何事もなく夜を明かし朝になった。 ……のだが


「……2人共大丈夫?」

「はい、少し頭が痛いですけど……問題ないです」

「……」


 明らかに2人の調子が良くなさそう。 アリアはともかくネイは二日酔いが重症である。 今日ライヴァン同盟から出たかったけど……


「明日にしよっか?」

「いや、レイちゃん行こ」


 俺が提案するとネイが直ぐに否定してヨロヨロと立ち上がる。 ネイの顔色からして明らかに無理が有る……何というか3歩歩いたらリバースしそう顔だ。


「私は大丈夫だから」

「でも、ハイナ教国にはスレイプニルで行こうと思ってるんだけど……」


 そう言うとネイの顔が明らかに恐怖の色を示す。 流石に「魔神」の事が有るし早く行かないと……けどネイがこんな状態だし普通に馬の方が良いよな。


「いや、大丈夫大丈夫……問題ない問題ない」


 バリバリ無理してる顔で言われても……。

 俺がネイを心の中で不安しながらどうしようか考える。 流石にあの状態で行くのはマズそうだしちょっと休憩させてから行きたい。 ……そういえば


「ねえ、ネイ。 あなたへの贈り物。 ガントから貰って来て良い?」

「贈り物?……あぁ」


 ネイが俺の言葉に不思議な表情をするが、直ぐに理解したようだ。

 ガントの弟子達がお礼にと作った贈り物。 ハイナ教国に行く前に受け取らなくちゃ……まあ、昨日の騒ぎが有ったし俺は出来てるとは思っていない。 けれども俺がガントの元へ行き、完成してなければここに留まる理由が出来るし、もし完成してたら外で酔い直しの薬でも買い、ネイに渡せば良いだろう……という気持ちで聞いた。


「それ貰うの私が行くよ」

「え、でも……」

「大丈夫、大丈夫」


 戸惑うネイを俺が無理矢理ベッドに戻し、アリアと黒猫さんにネイの見張りを命じる。 するとネイは諦めたのか少しため息を着き


「……じゃあ、お願い」


と小さな声で言った。










「……という訳だから頂戴」

「は、はぁ」


 宿を出て一直線にガントの工房の前にやって来た。 そして工房に居る人をノックで呼び出した所、ナギというドワーフが出て来たので俺が直球で用件を言うと困った顔をしてた。


「……駄目?」

「いえ、確かに贈り物は完成しているのですが……フィル辺りが文句を言いそうなので」


 フィル……ああ、ネイの病室に来た3人の内の1人に居たような気がする。


「んー……フィルっていう人的には直接渡したいの?」

「ええ、恐らく」


 分かりやすい人ですからと笑いながら答えるナギ。 フィルってよく分からないけど病室の時のイメージから礼儀正しいのかな? 誰かに仲介を頼むのはいけない!って感じなのかも知れない。


「で、そのフィルは……」

「寝てますよ。 夜に作り終えて大騒ぎしてました」

「うーん、どうしよう。 やっぱり明日とかに延期かな……」


 そう言うと笑顔だったナギの顔が急に真面目な顔になる。


「今日、ここを発つのですか?」

「あ、うん。 けど贈り物は直接渡すのが一番だよね。 じゃあ明日に……」

「分かりました。 フィルを叩き起こしてきます。 暫くお待ち下さい」

「へ?」


 俺の言葉を遮らながらナギはそう言って来た。 その後直ぐに工房の中に入って行き……巨大な金属音が何処からか耳に突撃して来た。 その音の大きさに思わず耳を塞ぐ。


「うっ……一体何?」


 少しジンジンする耳を気にしながら工房の周囲を見渡す。 周りに居る町人らしき人も耳を塞いでいるので、この音は自分だけ……何ていう変なものじゃなそうだしスキルでも無さそうだ。 なら一体……。


「あ、申し訳御座いません。 外にも聞こえていましたか」


 俺が耳を塞ぎながら考えていると工房からナギ……と顔色がかなり悪いフィルがやって来た。


「フィルを起こして来ました」

「どうやって?」

「ハンマーでガツンと」

「ナギ、その起こし方は止めてくれ……」


 ナギに疲れた声で抗議をするフィル。 相当夜遅くまで騒いだというのが分かる。 その彼が俺の方を見る。


「あー、ネイの仲間のレイだったよな」

「うん、そうだけど」


 俺が普通に返事すると「ちょっと待ってくれ」と言い工房の中に入って行く。 数分後彼は右手に頑丈そうな木箱を抱えて現れた。 木箱の大きさは余り大きく無く、ワインを入れる箱みたい。


「それが贈り物?」

「そうだ、俺達が頑張って作った力作だ」

「へえ~……という事はやっぱり直接渡すの?」

「あ、ああ……直接渡さないと何かネイに悪いだろ」


 そう言いながら左手で髪をかくフィル。 何か恥ずかしがっている様に見えるこの感じ……まさか。


「フィルってネイに惚れたの?」

「なっ!そんな事有るか! 俺はただ町を守ってくれた感謝を……」


 俺の言葉に顔を赤くするフィル。 やっぱりそうなんだ~っと笑いながらからかっているとナギが「そういえば……」と言いながら話に入って来る。


「フィルが作るときに人一倍気合いが入っていたと師匠が褒めてましたね」

「へえ……じゃあやっぱり」

「おい、お前ら!その目は何だ!その目は!」


 工房の前で笑う俺とナギにフィルが真っ赤な顔で怒鳴っていた。 見た目は厳ついのに意外と純情なんだな~。










「で、フィルさんがここに来たんですか?」

「そうそう」


 宿屋にフィル達と戻って来た俺はとりあえず2人を外で待たせて、状況をアリア達に伝える事にした。 アリアと黒猫さんはそれを聞き簡単に納得していた。 ネイは俺が帰る途中に買った二日酔いに効くという薬を飲みながら話を聞きアリア達と同じ返事をした。 こういう薬を祭りの次の日に用意しておくお店は上手く考えてるな~っと薬を見たときに少し俺は感心してしまった。


「じゃあ、入るぞ」

「失礼します」


 俺がアリア達の返事をフィル達に伝えると扉を開けて彼らが入って来る。 フィルは一大決心を決める様な緊張した表情をしていてナギは彼を見ながら微笑んでいる。


「ネイ、でしたよね?」

「あ、うん」

「フィルが贈り物を持って来ました。中々の自信作らしいですよ」


 そう言うとフィルの肩を軽く叩くナギ。 フィルはビクッと反応し、慌てた感じで喋り出す。


「あ、あーネイ。 その、だな」

「はい?」

「こ、これをお前に渡そうと思うんだが……」


 フィルは緊張した面持ちのまま箱を前に出す。 贈り物を入れた箱がブルブル震えている所から相当緊張してる様だ。 ネイはフィルの様子に首を傾げながら箱を受け取る。


「何か凄い良さそうだね。 開けて良い?」

「ああ……構わねえ」


 フィルの返事を聞きネイは箱をゆっくり開ける。 高級そうな箱に入っていたのは装飾がされた一本のナイフだった。 形はネイが今まで使っていたナイフと似たような形で刃に反りが少ないシンプルなタイプ。 だがナイフの刃には鉄ではない物が使われているらしく刃が淡い赤色に発光している。 柄は黒い金属らしき物が使われていて黒いグリップが巻かれている。 俺はそのナイフに思わず見とれてしまった。 俺の持つ武器にはこれよりもずっと綺麗で強い武器は有るだろう。 だがこのナイフにはそれ以上に魅力的な何かを俺は感じた。


「……凄い」


 ナイフを呆然と見ていたネイはそう呟いた。 恐らく俺と同じ事を感じて居るのだろう。


「ネイ、ナイフを投げたりしていたのに2本しか持ってなかっただろ? だったらもう1本有った方が良いかと思ってな……みんなで作ってみたんだ」

「……凄い! ありがとうフィル!」


 フィルが顔を赤くしながら説明をしていた所にネイが笑顔を感謝の気持ちを言う。 するとフィルの顔がみるみる赤くなり……後ろに頭から倒れた。


「フィ、フィル! 大丈夫!?」

「大丈夫ですよ。 フィルの体は頑丈ですから」


 倒れたフィルに焦りながら近づくネイとアリア。 それを気にせず欠伸をする黒猫さん。 その様子を見ながらナギはクスクスと笑いながら答えた。










「じゃあ、私達はそろそろ行くけど……」

「大丈夫です。 フィルには伝えておきます」


 俺達はその後、準備を終え宿を出ようとする。 ナギは宿で倒れたフィルの様子を見守りながら話をする。


「行こっか、みんな」

「はい」

「うん」

『了解』

「あ、ナギ、ガントにありがとうって伝えて貰える?」

「ええ、大丈夫です」


 俺の言葉にナギが微笑みながら返してくる。 俺はナギに微笑み返しながら宿を出て、始めに入って来た門を目指す。


「ねえ、レイさん」

「ん?」

「またここに来ましょうね」


 アリアが俺に笑いかけてくる。


「そうだね、ミカやガント……色んな人達が居る所だし、また会いたいね」


 そうアリアやネイ、黒猫さんを見て笑う。 けど俺の心の中でここにはもう来れないと感じていた。

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