第89話 夢か現か
視点変更 レイ→黒猫さん
私は町を歩いていた。 私の前には獣人族の男が歩いている。 私の居る町は様々な種族が歩いている。 けれどオルアナ王国とは雰囲気が違う。 上手く言えないが何かが違うのだ。
「あれ? 黒猫さん?」
私が町の様子を眺めて止まっていると前の男が私の方に向いてくる……私はこの男を知らない。 そもそも私と普通に会話したのはレイが始めてだ。 それ以外の人とはひたすら逃げて暮らしていた。 なのにこの男とはどこかで会った気がする……いや、今も会っている?
「お~い、黒猫さん?」
その男にもう一度呼ばれ、私はゆっくり彼の後ろを自然に歩き出す。 この男は一体誰なんだ?と思った所で目が覚めた。
『……ん』
私はネイの寝ているベッドの上に居た。 起きて周囲を見渡すとネイが体を少し布団から出しながら寝ていた。 寝顔は安らかで良い夢を見ていそうだ。 私はそんなネイを見ながら夢の内容を考えていた。
『……やっぱり知らない』
あの夢に出て来た男を私は見た事が全く無い。 少しモヤモヤした気持ちになりながらネイを起こさないように窓にゆっくり近づき空を眺める。 あれは夢……そう思っておけば簡単だが、私はそうじゃない気しかしない。
『……』
空は雲が無く、星は綺麗だった。
視点変更 黒猫さん→彰
「どうしたの? アキ」
「ん? ああ、何でもない」
町の中で黒猫さんを見つめながら立ち止まっていた俺は後ろからアルナに話し掛けられた。 ちなみに今日はアルナのレベル上げに付き合う約束をしていた。
「ただ、ちょっと黒猫さんの動きが変な気がしたんだが」
「そうなの?」
「何か急についてこなくなったり。 かと思えば俺が話し掛けたら俺の方に歩いてきたり……」
黒猫さんはリアルに動くが流石にプログラムなので一定のパターンでしか動かない。 黒猫さんの動きは俺が見た所、召喚したプレイヤーについて行く、モンスターが来たら攻撃してくる位しかない。 なのにさっき黒猫さんは急に止まり周りを見渡していたのだ。 それに対して俺が話し掛けたらついてきた。 こんな事は初めてだ……という事をアルナに伝えると
「アキ、意外と子供っぽい」
と笑われてしまった。
「え?」
「だってそれって日頃から黒猫さんに話し掛けてるって事でしょ?」
「あ、いや、それは黒猫さんって可愛いし動き結構リアルだし……」
「だから子供っぽいって」
アルナにさらに笑われる。 流石に自分の事でこんなに笑われるのは恥ずかしいので顔を赤くしながら話題を変える。
「そ、それよりもだ。 黒猫さんの事何か分かるか?」
「うーん……もしかしたら何時の間にか仕様が変更されてたとか?」
「それは無いだろ」
「マジック・テイル」のシステム変更には時間がかなり掛かる。 プレイヤーの五感に直接影響するからか厳しく行われるようだ。 なので急に変更は無いと思う。
「じゃあ、アキの黒猫さんに突然意思が生まれたとか!」
「今、無反応なんだが」
アルナが来る前に黒猫さんに話し掛けたりしていたが何の反応も無い。
「じゃあ気のせいじゃない?」
「やっぱりそうかな……」
アルナがつまんなそうな顔をしながら俺に言う。 アルナとしてはつまらない展開だったようだ。 ……たまたまそう見えただけかなやっぱり。
「まあいいか、じゃあレベル上げに行こうぜ」
「うん、そうだね」
笑っているアルナと一緒に俺は町を歩き出した。 そんな俺達の後ろを黒猫さんはいつも通りゆっくり歩いて来た。
「あ、黒猫さんが若干私に近づいている気がする!」
「それは気のせいだ」
「アキ酷い!」
ま、黒猫さんに意思とか出来たら少し面白いだろうな……なんて冗談半分に思っていた。