第88話 同じ思い
視点変更 クルルシュム→レイ
ボイルの港町へ俺達が戻った時には日が暮れていた。 町の中はお祭りの準備の為か人々が慌ただしく行き来していて活気に満ちていた。 ガントはボイルの港町に入ってから直ぐに工房へ行ってしまったので、今はアリアと2人で町を歩いている。
「じゃあ、レイさんは今日も病院に泊まるんですか?」
「ん?うん、そうだよ。 まだ退院って訳じゃ無いらしいし」
「……それなのにあんな所に入ったんですか?」
アリアが俺を睨んで来る。 そ、そんな目で見られてもガントが無理矢理医者に許可を取らせたんだから仕方がない。 ……来たのは俺の意志だけど。
「もう、レイさんそんな無理してると体調を崩しますよ?」
「しょうがないじゃん。 あんなタイミングでガントからあんな事言われたら行くしか無いじゃん」
ラズとクルルシュムに会いに行く雰囲気だったじゃん、あの時。
「アリアはまたミカの所に泊まるの?」
「うーん、ミカさんには迷惑でしょうけどそれしか無さそうですね……」
「全然大丈夫ですよぉ」
アリアが少し難しい顔をしながら答えると俺達の後ろから。 間延びした声が聞こえてきた……この声は。
「ミカ!」
「ミカさん!」
「はいは~い。 ミカですよぉ」
少し小さめのドワーフ。 ミカが笑顔で立っていた。
「ミカ、ギルドの仕事は?」
「今帰りですよぉ」
ミカは手に紙袋を持っていて中から野菜等が見えている……夕食の準備か何かかな?
「レイ、怪我は大丈夫ですかぁ?」
「あ、うん見ての通り大丈夫だよ」
「それは良かったですぅ」
笑顔でほんわかと笑うミカ。 うーん、可愛いなぁ。
「そういえばアリア。 昨日の夜はとっても楽しかったですよね」
「はい、そうでしたね……かなり大変でしたけど」
「アリア、ミカと何かしてたの?」
アリアとミカしか分からない話の予感がしたので俺が聞く。
「あ、はいミカさんの居る寮に泊まったんですけど、ミカさんの同期の方が酔いながら部屋に入って来まして……」
「大騒ぎしたんですよぉ。 私やアリアにもお酒を飲ませようとして来ましてねぇ」
「……ん?アリアお酒飲んだの?」
「飲んでませんよ。 私はお酒飲めないんで」
アリアがお酒が苦手なのか、アリアはお酒を飲める年齢じゃないのか分からないがアリアはお酒を飲まなかったようだ。 それでアリアの事だから色々と片付けをしていたに違いない。
「けどミカさんは凄い飲みましたよね……それなのに次の日には普通に朝起きてましたね」
「慣れましたからぁ」
「そういうのって慣れで何とか成るの?」
ミカって可愛い見かけによらず、中々凄い人のようだ。 そう感心しながらミカを足から顔までじっくり見る。 お酒は太るらしいけどこの体型……脂肪は全部胸にいってるとか?
「不思議だな……」
「ですね」
「そうですかぁ?」
アリアは俺と同じ事を考えていたようで俺の呟きに同意をしているのを見て、ミカが首を可愛らしく傾げていた。
「で、アリアちゃんはそのままミカの所に行ったの?」
「うん、夕食の手伝いだって」
ネイがお茶を飲みながらのんびりと会話をする。 俺達はミカと出会った後、ミカが夕食の準備との事でアリアを連れて行ってしまったので1人で病院に戻って来た。 病人が1人で戻って来るのはどうかと思うが、アリアが一度病院まで俺を連れて行ってからミカの所へ行こうとしたのを俺が止めさせミカの元へ行かせたのは俺なのでしょうがない。そして今ネイに魔族の話を聞かせる(彼女も地下牢に行きたがっていたが彼女は医者が本気で止めたので行けなかった)為に彼女の病室に来て、魔族達の話をネイに話していた。 俺の隣には黒猫さんが猫の姿で椅子に座りながら俺達を見ている。
「けど、「魔神」がヴェルズ帝国に居るのかぁ」
「うん、今は首都に居るらしくてそこから南下するみたいなんだけど」
『その手始めがあの2人?』
「そうみたい……2人で充分だと思ったのかな?」
2人といってもあの実力なら充分だったけど……。
「どうなんだろうね。 私にはそういう人の考えは理解できないや」
「それは、私も無理だよネイ……まあ取り敢えず私はこの後ハイちゃんに一度会いに行こうと思うの。 その後、ヴェルズ帝国に向かおうと思う」
「やっぱり、戦いに行くの?」
ネイが俺に対して寂しそうな表情を向けてくる。 クルルシュムから聞いた「魔神」のスペックなら確かに勝てる気は確かにしない……でも
「戦っても戦わなくても「魔神」が南下して来たら私なんて死んじゃう。 だったら私はたくさんの人が死ぬ前に戦いたい」
「……そう」
俺の言葉を聞いたネイは顔を少し伏せる。 そして顔を上げる。
「レイちゃんはそう考えたか……。 じゃあ、私も一緒に行こうかな」
「えっ!? でもネイ、危ないよ!」
「「魔神」が来たら私も死んじゃうだろうし、だったらレイちゃんと同じ理屈でついて行くよ」
「い、いやでも……」
俺はどうにかしてネイを説得しようとする。 流石に彼女をヴェルズ帝国に行かせるわけには行かない。 クルルシュムの話を聞いた時から俺はあそこには俺1人で向かうつもりだった。 友達を誰も犠牲にしたく無かったから。 けれどもネイは俺のそんな気持ちを無視して俺に真剣な目を向け話してくる。
「はっきり言ってレイちゃんにそんな危険な事1人でさせる訳無いじゃん! ただでさえ危険なのに1人でなんて! そんな事私が許さない!」
「ね、ネイ?」
「私はレイちゃんと一緒に行く。 絶対に」
最後には理屈も何もない宣言をネイは俺にして来た。 俺はその言葉に暫く困る……がネイの目を見て、俺は何か感じた。 彼女は俺をただ心配している。 友達が戦おうとしているのを、そして友達が1人で死ぬんじゃないかと。 これは俺が心配している事と同じなんだ。
「良いよ」
俺は彼女の目を見ながらそんな言葉を口から出した。
「良いよ。 精一杯戦って笑顔で帰って来るには、「魔神」は1人じゃ難しいかもね」
「じゃあ!」
「うん、ネイ一緒に戦ってくれる?」
俺の言葉を聞いた時、ネイは顔を喜びと安心で一杯にして。
「うん、よろしく!」
そう言ってくれた。
『……』
「黒猫さん、どうしたの?」
『私も行く。 ご主人様の使い魔だし』
俺とネイの様子を見ていた黒猫さんからそんな言葉が出て来る。
「うん、黒猫さんもこれからよろしく」
「そういえばアリアちゃんはどうする?」
「アリアか……」
俺としてはアリアにはハイナ教国で待って欲しいけど……。
「アリア次第かな。 私は無理矢理行かせないように出来る立場じゃ無いし」
「それじゃアリアの答えは決まって無い?」
『私もそう思う』
俺の言葉を聞いた後ネイは笑い出し、黒猫さんは呆れたような口調をしていた。 ……どゆこと?