第８７話 クルルシュムの楽しみ
「草木１本残らない？」
「おいレイ、そんなのにどう勝つつもりだ？」
「……」
ガントの言葉に俺は黙ってしまう。 最大国一つ分の生物を殺すスキル。 はっきり言うと今の所勝てる気がしない……どうしよう。
「レイ、俺の話はまだ終わってねえぞ」
「……クルルシュムどういう事？」
「恐らくあのスキルには弱点が有る」
クルルシュムがニヤニヤと笑いながら俺にそう言って来る。
「弱点？」
「ああ、あいつのスキルには幾つかデメリットが有る。 例えば魔力を大量に消費するとかな」
魔力の大量消費……まあ、国一つ分を消せるならそれ位のデメリットは有るだろう。
「それってどの位消費するの？」
「さあな、だがそのスキルを使った後はしばらく【魔法】は使えないようだぞ。 バアル氷結地帯の時はそうだった」
「……そういえばクルルシュムさん、少し気になった事が有るんですが」
クルルシュムの解説をしている途中にアリアが質問をしてくる。 それを聞き、クルルシュムはやや不機嫌そうな顔をする。
「何だ？ 女」
「あ、アリアです！ その「魔神」のスキルってクルルシュムさん達が「魔神」と戦った時に使ったんですか？」
「ああ、そうだ」
「じゃあ、何でクルルシュムさんは今生きてるんですか？」
「え？ ああ……」
俺はアリアの言ってることが少し分からず、変な声を上げる。 そうか、「魔神」と戦った時に「魔神」がそのスキルを使ったのなら、なんでクルルシュムやラズは今生きているのだろうか？
「それは俺が【魔法】じゃないかと疑った理由だ。 俺とラズも食らったが、生きていたしな」
「え！？ ２人共食らったの！」
何でそう言う重大な事言わなかった！ そのスキル食らっても生きてる確率が有るんじゃないか！
「魔の宮殿で「魔神」と戦っている時だったな。 あいつがそのスキルを使ったら急に体全身が痛くなって死ぬかと思ったぜ……ま、結果はこの通りまだ生きてる。 恐らく【魔法】に対する耐性が強ければ凌げるんじゃないか？」
「だから【魔法】だと思ったのか……」
「ああ、そう言うことだ……あ、そう言やそのスキルを「魔神」が使ってる間は【魔法】や【召喚】が発動出来なかったな」
「だから何でそんな重要な事を先に言わないの！」
「ま、これが俺の知ってる全部の事だな」
「ありがとう、クルルシュム」
その後、クルルシュムから「魔神」が今ヴェルズ帝国にいる等のかなり重大な情報を聞いたりもした。 曖昧な情報だったが中々良い話が聞けた気がする。
「なあに、気にすんな。 わざわざ「魔神」に殺されに行こうとする面白い馬鹿に情報を渡しただけだ」
「馬鹿かどうかはここの地下牢で待ってれば分かるよ」
クルルシュムと俺は軽口を言い、２人で軽く笑う。 何だろう、この人と出会いが違ければ良い仲間になれた気がしない訳でも無いな。
なんて事を考えているとガントが俺とアリアに話し掛けて来る。
「おい、そろそろ戻るぞ」
「あ、うん分かった。 じゃあね２人共、「魔神」に勝ったら会いに来るから」
「はっ、期待ぐらいはしておくよ」
「さらばだ」
ラズとクルルシュムに別れの言葉を掛け、俺達は地下牢の出口へ向かった。
「レイさん、何か最後の方クルルシュムさん達と打ち解けてませんでした？」
「え、そう？ クルルシュムがやけに話してくれたからそう見えただけじゃない？」
地下牢の途中、アリアが俺に対して聞いてくる。 確かに最後は元敵の前で笑う位の余裕は俺には有ったけど、打ち解けた……のかな？
「まあ確かにクルルシュムさんが面白がって情報を話していた節は有りましたけど……明らかに口数が最初と最後で増えてましたよ」
「そうかもね……でも何でだろ？」
クルルシュムは面白い事が有れば何でもするってタイプだと思うけど……一体俺の何がそんなに受けたのだろうか？
「やっぱり「魔神」と戦うって所かな……でも最初は諦めろって言ってたし」
「どうなんでしょうね」
結局、打ち解けたかどうかは全く分からなかった。
視点変更 レイ→クルルシュム
レイ達が居なくなった地下牢の中で俺はベッドに体を横たえた。 その時、俺に何も言ってこなかったラズが話し掛けて来る。
「おい、クルルシュム」
「何だよラズ」
「あの女に一体何の興味が湧いた」
情報を教えた事を怒るんじゃなくてそっちか……。 ラズとは古い仲だしそっちは諦めてるのか？
「あいつならもしかしたら「魔神」を倒せるかも知れないって思っただけだ。 お前「魔神」の事は嫌いだったろ？」
「確かに我は「魔神」が嫌いだ。 だが我々に苦戦しているようじゃあいつには勝てない」
「それはどうかな？」
「何？」
「お前、あいつに【補助 サーチ】を使っていなかったのかよ？」
「貴様……【補助 サーチ】使えたのか？」
ラズの声に殺意を覚えるが無視して寝ながら会話する。
「あいつ、エルフマスターだ」
「何！？ じゃあ王のデビルマスターと」
「ああ、同じ位の実力は有るようだぞ。 あいつ、王とレベルも同じだからな」
「まさか！？」
まあ、ラズが驚くのは無理無い。 王は戦前から生きてあのレベルなのにレイとかいう女はまだ若いのに王と同じ。 一体何をすればそんなに強くなるのだろうか。
「実力は王と同じで更に相手の特性を理解してる。 ならもしかしたらもしかしたりするかもしれないぞ？」
「……つまり、貴様は「魔神」が負けて欲しいんだな」
「ああ、人を殺す楽しみも無くなっちまったし、残る楽しみはそれ位しか無いからな」
俺達を簡単に倒した「魔神」があの女に負けるのを考えたらとてつもなくワクワクしてくる。 さて、あの女は勝てるのかな？ 俺は笑いながら目を閉じた。
