第85話 魔族の王について
ガントの明かりだけが目印の中3人は歩く。 地下牢は日が当たらないためか肌寒いし、足元がゴツゴツしていて歩きづらい。 ガントは慣れているのか悠々と進んで行くが俺とアリアはちょくちょくコケそうになり中々進めない。
「ね、ねえ……地下牢なのに遠くない?」
「後少しで着く。 冒険者なんだからこれぐらいテキパキ進め」
「わ、私冒険者じゃないです……」
「知らん」
り、理不尽……何て感じながら歩いていると前に鉄製の扉と2人のドワーフの姿が見えた。
「師匠、お疲れ様です」
「お疲れ様です」
「ああ、異変はないな?」
「有りません」
2人のドワーフはガントの姿を見て、話し掛けて来る。 ガントの事を「師匠」と呼んでいるしガントの弟子何だろう……にしても
「弟子の仕事多くない?」
「何言ってるんだ? こいつらは俺の弟子じゃないぞ」
「え?」
思っていた内容を真っ正面からガントに否定される。 でもさっき「師匠」って……。
「俺は五師匠の1人だろ? ハイナ教国でいう「女王様」みたいな感じと同じだ……まあ本当の弟子の仕事にも見張りとかは有るが」
「よく分からない、ややこしいなぁ……」
ガントの話を聞いてもさっぱり分からない……師匠って呼んでくるけど弟子じゃない。 けれども弟子も居る? え~っとそれってつまりガントの事を師匠って呼ぶ人は……
「すみませんガントさん。 レイさんが壊れました」
「ああ、もう……深く考えるな。 ほら、さっさと行くぞ」
「ハッ! 何か意識が飛びかけた」
ガントに体をぐらぐらと揺らされ意識が復活する。 ん?さっきまで何考えてたっけ?
「アリア、私は一体何を?」
「どうでも良い事で思考停止してました」
「へ、へ~」
「さ、早く行きますよ。 レイさん」
そう言い俺の前に立ち、ガントの後をついていくアリア。 その後ろを俺も歩いていく。 何を考えてたかよく覚えてないがアリアの対応、彼女にも色々と耐性が付いて来たな……。
牢はアニメで見るような鉄格子で部屋と通路を分けており、部屋と部屋の間は土の壁で分けられている。 これじゃ中から【魔法】を使って攻撃出来そうだが、ガントが何も言わないから何らかの方法で無効にされるのだろう。 牢の中は土で出来たベッドと簡単なトイレという牢獄のイメージ通りの物があり、壁からは鎖が出ていてその先に金属のバウムクーヘン、いやポンデリ○グ?みたいな物……まあ足枷だろう、それが地面に転がっている。 後、数は少ないが人が入っている部屋も幾つかあった。 部屋に居る人はみんな足に枷が嵌められていたのでやはりあれは足枷だった。 中にいる人は見な明らかにヤバい雰囲気の人ばかりであった。 通った時に俺達を睨んでくる筋肉ムキムキのヒューマン。 逆にこちらを見ずずっと独り言を呟く尻尾が有る男。 はっきり言えば相当精神にキツい場所で有る。 ついさっきまで俺の前を歩いていたアリアも俺と似たような事を感じているようで顔を青くして俺の隣を歩いている。
「ここだ」
不意に前を歩いていたガントが立ち止まり、俺から見て左の方を向く。 ガントから少し離れた場所に居た俺とアリアはガントの隣に着き、彼と同じ方向を向く。
「レイ……貴様か」
そこには足枷を付けられたラズが固いベッドの上に座りながら俺を見ていた。 体は雑に包帯が巻かれていて怪我をしている(俺がやった)事が分かるが表情は戦っている時と変わらず何を考えているのか分からない鉄仮面のような顔をしている。
「ラズに勝った女っつうのはお前か」
不意に後ろからそんな声が聞こえて来る。 後ろの牢を見るとそこには別の魔族が捕らえられていた。
「やっぱり……俺に対して魔法を使って来た奴だな」
魔法、そう言えば俺はラズと戦う前に別の魔族に魔法で攻撃してた。 この人は恐らくその魔族だろう。 そしてネイとガント達が倒した魔族はこの人かな? その魔族が俺を睨んでいたが急に驚いた表情になりながら話し掛けて来る。
「お前等、俺達に何のようだ?」
「あ、うーん、そうだな……ちょっと聞きたい事というか……」
「聞きたい事?」
俺の言葉にラズが反応する。 けど、来たは良いけど何について聞けば良いんだろ? 魔族って言っても「魔神」の事を知ってるとは限らないしな……そうだ
「ねえ、ラズと……」
「そいつの名前はクルルシュムだ」
「おい、何普通にバラしてるんだ」
「別に名前位良いではないか。 一々ラズじゃない方の魔族って言っているのを聞くのは面倒だ」
「えっとじゃあ、ラズとクルルシュム? 聞きたい事が有るんだけど」
俺の言葉に全員の視線が集まるのを感じる。 それに対して緊張しながら口にした。
「魔族の事を色々教えて?」
俺がどうしてこう言ったのかと言うと、いきなり魔神の事を聞くのはどうかと思ったからである。 ラズとクルルシュムが知ってるかは分からないし、彼らの自分の話の方が話しやすいと思ったからである。
「例えばなんだ? それにレイ、我が簡単に王を裏切るような事をすると思うか?」
「王?」
「魔族の頂点につい最近まで立っていた男だ」
「おいクルルシュム」
クルルシュムの言葉にラズが突っかかる。 それを聞き、クルルシュムが面倒臭そうに顔をしかめる。
「何だよ、ラズ」
「王の事を話すとは何事だ!」
「別に良いだろ。 もし王の元に戻れても命令を失敗したとか言われて恐らく処刑。 そしてこっちでも拷問を受けるかも知れない。 だったら俺は痛みがない方を選ぶぜ」
「貴様!」
ラズとクルルシュムの言い合いからして2人の性格は真逆のようだ。 俺はクルルシュムから話を聞いた方が早いと判断し、クルルシュムの方に向く。
「ねえ、王がつい最近まで頂点だったっていうのはどういう事? 何か有ったの?」
「ああ、色々有ったぜ」
「それ、話して貰える?」
「いいぜ」
俺の後ろでラズの怒り声が聞こえるが、クルルシュムは無視して話始めた。
「俺達が住んでいる場所を知ってるか?」
「え~っと確かバアル氷結地帯に居るとか何とかって噂位なら」
「ああ、そうだ。 お前等の言うバアル氷結地帯に俺達魔族は暮らしていた……魔の宮殿って言う所でな」
「魔の宮殿……あ、魔の宮殿って魔族だけが入れるあの屋敷?」
「レイさん、知ってるんですか?」
魔の宮殿……それは「マジック・テイル」に有ったエルフの隠れ里の魔族版みたいな物だ。 確かあれは「マジック・テイル」でも雪原の中に建っていた気がする。 中身は詳しく知らないが魔族の人曰わく、踊りたくなる位華やかな屋敷らしい。
「そう、それだ。 つい最近までそこに生きている魔族全員が一緒になって暮らしていた……そこでリーダーだったのが王だ」
「魔族のリーダー……」
だから王。 けれども話を聞く限り今のリーダーは王じゃ無いようだ。
「王が頂点の時、何も無い退屈な日が続いたさ……だが、最近海の方からある男が魔の宮殿にやって来た」
「男?」
魔族の言葉に俺は言葉を返す。
「そうだ。 そして魔の宮殿に無理矢理入って来て、徹底的に魔の宮殿を壊した。 俺達も王も奴と戦ったが全く歯が立たなかった」
「……」
「そして俺達を無理矢理自分の部下にしたのさ……形式上は王の命令って事にしてな」
「王はまだ生きてるの?」
「ああ、もはやあの男の操り人形だがな」
ラズやクルルシュムといった実力を持つ人でも勝てず。 その人達を纏める王という魔族でも勝てない男。
「その男の名前は?」
「さあな……ただあの男は自分の事を「魔神」と言っていた」
「うぇ?」
クルルシュムの言葉に俺は思わず声を出してしまう。 ……ま、「魔神」?
「本当にその人「魔神」って?」
「ああ……あの力は本物だ。 俺達なんて直ぐやられた」
……ラズとクルルシュム以上の男が「魔神」。
「や、ヤバいかも……」
俺は思わずそう呟いてしまうのだった。




